第15話:風雷の初戦
ファード
対戦表に刻まれた「ファード」という名前を、あけびはまだ知らない。
会場の隅、あけびは軽く体をほぐしながら、開始を待っていた。
「魔女エナガの試合、もう終わったのかな……」
「終わったわよ。危なげなく」
いつのまにか隣に立っていたエナガが、腕を組んで言う。
「もう!?速すぎない!?」
「相手が弱かっただけよ。この程度で息切れしてたら、決勝までもたないわ」
「僕もそれくらい……あ、次僕の番だ!」
呼び出しの声が響く。あけびは魔法棒を握り直し、闘技場の中央へと歩き出した。
対戦相手の入場口から現れたのは、あけびより頭一つ小さい、風のように軽やかな身のこなしの少年だった。
「よろしくお願いします!! 僕、ファードって言います!! 絶対勝ちます!!」
元気いっぱいに頭を下げる少年に、あけびは思わず笑ってしまう。
「あはは、元気だね! 僕はあけび。よろしく!」
審判の合図とともに、試合が始まった。
「いくぞーーー!!」
ファードが地面を蹴った瞬間、その姿がぶれる。速い。
「うわ、思ったより……!」
あけびが反応するより早く、ファードの拳が肩をかすめる。
「へへっ、僕、足には自信あるんだ!」
「マジか……! でも」
あけびは棒を構え直し、目を細めた。
「僕も、そう簡単にはやられないよ」
ファードの二撃目、三撃目。速さに任せた連続攻撃。だが、あけびの棒は、その一撃一撃をぎりぎりのところで受け流していく。
「あれ……? なんで……」
「君の動き、だんだん読めてきたからね」
四撃目。ファードの拳が振り抜かれる直前、あけびの棒がその軌道の"先"に置かれていた。
「なっ……!」
がら空きになったファードの脇腹に、あけびの一撃が決まる。
「うわっ……!!」
吹き飛ばされ、地面に転がるファード。だが、すぐに起き上がり、悔しそうに、それでいてどこか興奮した顔で笑った。
「……すご。今の、僕の技、初見だよね……? なのにもう対応してくる……」
「え、あー、なんていうか。戦ってるうちに、なんとなく分かってくるっていうか」
あけびが照れくさそうに頭をかく。
「その場でパターン見切って、次の手先回りするとか、普通できないよ……! すごい……! ねえ、あんた名前なんだっけ!」
「あ、あけび」
「あけびさん!! 僕、あなたみたいになりたいです!!」
試合はそのまま、あけびの勝利で幕を閉じた。
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一方、離れた会場では、ルートが涼しい顔で相手を退けていた。
「……終わりだ」
短い詠唱、正確無比な一撃。観客からどよめきが上がる。
「うわ、世界2位、伊達じゃないな……」
その様子を、少し離れた場所から見ていたエナガがぽつりと呟く。
「……相変わらず、隙がないわね」
「私だって、まだまだこんなもんじゃないんだから」
あけびが戻ってきて、興奮気味に話しかける。
「魔女エナガ!! 見て見て、勝ったよ!!」
「知ってるわよ、見てたもの。……なかなかやるじゃない」
「えへへ! でもさ、あの子、なんかすごい懐いてきちゃって……」
あけびの視線の先、遠くから熱い視線を送ってくるファードの姿があった。
「……あんた、変なもの拾ってきたわね」
「拾ってないよ!? まだ喋ってすらいないし!」
そんなやり取りをよそに、大会は着々と、決勝へと駒を進めていく。
ノシ




