図書館で彼と①
あれから彼の存在を無視した。
彼と目を合わせようとせず、話しかけず。同じクラスなので、どうしても視界に入るが、そこは仕方ない。
それでも、彼の存在が気になってしまうのは何故だろう。彼を見ると、胸がモヤモヤするのに、いつの間にか彼を目で追ってしまう。気付いたら、すぐ逸らすけれど。
彼と関わらない。なんだかモヤモヤするが、これでいいかもしれない、と思う。αとΩが行動を共にすれば、変な噂が流れる可能性があるからだ。別に噂を立てられることは興味が無いのでいい。だが、噂を無責任に流す人間を見ると、悪い気分になる。
(こういうのは、本当に醜いよねー)
と、思いながら自分を部活に勧誘しようとしている先輩方を相手にしていた。
「吹奏楽部は練習きついらしいし、先生も厳しいらしいよー」
「科学部も臭いし、先輩にすごく気難しい人がいるみたいだから、オススメしないなぁ」
「その点、囲碁部は空気がいいし、顧問も優しいからいいよー」
「……そうですか」
笑顔で応えながらも、面倒くさいなと思いながら受け流す。
(らしいって、つまり自分たちは知らないじゃないか)
本人たちは無意識に言っているらしいが、これこそ無責任に噂を流している張本人たちだ。こういう人がいる部活には、入りたくない。元々、部活に入るつもりはないが。
「すいません。勉強に集中したいので、部活に入らないって決まっているんですよ」
「そうなの?」
「αなのに勿体ない。αは勉強しなくても、優秀なんでしょ?」
「ははは。αでも勉強しないと付いていけませんよ」
心にない言葉を言うと「謙虚だね」と、先輩方が感心したように呟く。大人しく引き下がってくれて、久留島類は内心、ふぅ、と溜息をついた。
αはとても優秀なので、なんとかして部活に取り入れようと勧誘してくる先輩がいるのだ。
(こういうとき、Ωって楽そう)
Ωに対する偏見を無くそう、と世間では言っているが、早々に無くすことができたら、そもそも声高々に言うことはない。
皆、心の中ではΩに対する偏見はあるものだ。だから、Ωは大して戦力にならないだろうと放置されている。彼も勧誘されていないようだから、そういうことなのだろう。
彼は部活に属していないようで、放課後の図書室で自習している。教室では見ないようにしていたが、図書室だとついつい見てしまう。
自分がどれだけ見ても、彼が気付かないからだろうか。教室だと視線に敏感な彼だが、図書室だとかなり集中しているのか、いくら見てもこちらに気付く様子はない。
彼にムカついているからなのか、ついつい気になってしまう。
勧誘がなくなり、取り巻きになった女子三人組を適当にあしらいつつ、過ごしていると、あっという間に一ヶ月が経とうとしていた。
とある土曜日。久留島類は県立図書館に赴いた。久しぶりに哲学書を読みたくなったのだ。
さっそく哲学書が置いてある棚に行き、聞いたことがない作者の哲学書を手に取る。適当な場所で読もうかな、と読書スペースに行って固まった。
見覚えのある背中があったのだ。制服ではないが、あれは間違いない。
(どうしようかな)
モヤモヤが込み上げてきて、眉を寄せる。
学校と同様、無視しようか。
(でも、それだと多分このモヤモヤは晴れないんだろうなぁ)
モヤモヤの正体が分からないまま、それを抱え続けるのは合理的ではない。いい加減、この気持ちをスッキリさせたい気持ちは前々からあったのだから、今解決しようか。
(ここには同じ学校の生徒はいないみたいだし……話しかけてみようかな)
彼にゆっくりと近づいて、つい話しかけた風に声を掛ける。
「あれ、咲夜くん?」
彼の肩がギクッと固まる。ギギギと、まるで錆び付いて回しにくくなっているネジのように彼が振り返った。
笑みを刷って、彼を見つめた。




