第13話:『引き抜き攻防戦と、うるさすぎる名刺入れたち』
系列店『JOKER』へのヘルプ出勤から三日後。
クロノ――忠敬は、大学の講義を終えてから重い足取りで『LUXE』のバックヤードへ入った。
「おかえりクロノ〜!!」
「裏切り者!!」
「JOKERで人気出てんじゃねぇよ!!」
レンが笑いながら近づいてくる。
「お前マジで何してきたんだよ」
「ヘルプ」
「それだけで向こうの客が“クロノまた呼んで”って騒いでんの意味わかんねぇんだわ」
黒服まで疲れた顔をしていた。
「今日JOKER側の店長から三回連絡来た」
「嫌な予感しかしない」
「“定期で借りられませんか?”だそうだ」
「断ってくれ」
「もう断った」
「即答かよ……」
忠敬の名刺入れの小人が胸を張った。
『当然!!』
『今やクロノ名刺は系列内レアカード!!』
隣ではレンの名刺入れ小人がキレている。
『うるせぇ!!』
『LUXEのNo.1候補を持っていくな!!』
(お前らまで派閥争いすんな……)
ふと、携帯が静かに振動した。
JOKERのアキからメッセージ
嫌そうにスマホを見る。
『今日営業後ちょっと顔出せない?』
(嫌だなぁ……)
*
営業後。
結局、 忠敬はJOKERへ連行されていた。
「なんで来たんだ俺……」
店内では、 JOKERのホストたちがやたら歓迎ムードだった。
「クロノさん来た!」
「こっち座ってくださいよ!」
「この前マジ助かりました!」
しかも客まで反応している。
「あっ、クロノくん!」
「また来てたの!?」
「今日LUXEじゃないの?」
忠敬は本気で帰りたかった。
すると、 JOKERのソファ小人たちが大騒ぎしていた。
『うわまた来た!!』
『この兄ちゃん座ると客の機嫌よくなる!!』
『空気が静かになるんだよな!!』
(家具にまで言われるのかよ……)
奥からアキが現れる。
「いや〜助かるわ」
「帰る」
「待て待て」
アキは笑いながら缶コーヒーを投げてよこした。
「そんな警戒すんなって」
「お前絶対なんか企んでるだろ」
「失礼だなぁ」
アキのスマホ小人がコソコソ耳打ちする。
『めちゃくちゃ企んでる』
『今日“クロノをJOKER所属にできないか会議”してた』
(やっぱりかよ)
忠敬は真顔になった。
「帰る」
「待って待って待って」
アキが慌てる。
「冗談半分だから!」
「半分本気じゃねぇか」
「だって惜しいんだもん」
その時、店の奥のVIP席から声が飛ぶ。
「クロノくんいるの!?」
以前ヘルプでついた女性客だった。
「あー!! やっぱ今日いるじゃん!」
「え、マジ?」
「クロノ呼んで!」
一気に店内がざわつく。
JOKERホストたちが頭を抱えた。
「まただよ……」
「客がクロノ見つける速度早ぇんだって……」
レンから電話がかかってきたのは、 ちょうどそのタイミングだった。
『おいクロノ』
「なんだ」
『お前今JOKERいる?』
「……いる」
『客が“クロノどこ?”って騒いでる』
「知らん」
『いや困るんだわ!!』
電話越しに、 LUXE側の悲鳴が聞こえる。
『クロノ卓回れません!!』
『指名客不機嫌です!!』
JOKER側ではアキが爆笑していた。
「取り合いじゃん」
「笑い事じゃねぇ……」
両店の名刺入れ小人たちが、 大喧嘩を始めた。
『クロノはLUXE所属だろ!!』
『いやJOKER向きだ!!』
『静かな接客はLUXE文化!!』
『ヘルプ性能はJOKERで輝く!!』
『引き抜き反対!!』
『客が求めてんだよ!!』
(うるせぇ……!!)
忠敬が頭を押さえた。
その時、ふと近くのグラス小人が呟いた。
『でもさぁ』
『この兄ちゃん、どっちの店でも“ちゃんと客見てくれる”から好かれてんだよな』
別の灰皿小人も頷く。
『しかも本人、自分が人気ある自覚薄いし』
『変にガツガツしてねぇから安心感ある』
『『『あと地味に顔がいい』』』
(最後いらねぇだろ)
その時だった。
LUXEのレンから再び電話。
『クロノ!!』
「なんだよ」
『今から戻って来れねぇ!?』
「は?」
『美咲さん来た!!』
「……げ」
JOKER側のホスト達が吹き出した。
「女王来店か?」
「終わったなクロノ」
さらにJOKERの客まで言い始める。
「え〜帰るの?」
「クロノくんもっといてよ」
「うち来なよもう」
「JOKER永久所属しなよ〜」
忠敬は無言で天を仰いだ。
「……俺ただ静かに大学生活送りたかっただけなんだけど」
だが周囲の小人たちは、 今日も大盛り上がりだった。
『クロノ争奪戦開幕ーーー!!』
『系列二店舗で争奪戦が発生中!!』
『大学生ホスト、まさかの系列戦争の火種!!』
『なお本人に全くその気はない模様!!』




