第24話 還る闇
「よう。元気にしてたか、ルリ」
軽く手を上げて笑みを浮かべるジルケットにルリシアは息を整え、問いかけた。
「……どうして、シルヴァリスに?」
ジルケットは苦笑いを浮かべ、隣に立つ小さな――イリヤの方をちらりと見た。
「そこにいるチビに、命令されて来たんだよ。『急いでこい』ってな」
イリヤは眉間に皺を寄せて、ため息をつく。
「依頼だ。……命令じゃない」
ルリシアがイリヤとジルケットを交互に見ていた直後――。
制御を失った闇が再び、天井まで膨れ上がる。黒モヤがうねりを上げ、地下全体の空気そのものを重く歪ませていく。
研究員たちの悲鳴が飛び交い、ガラスの破片を踏む音や転倒する音が入り混じって、またも場は混乱の渦を巻いていく。
ジルケットは剣を構えたまま一歩踏み出し、冷たくアレクシスを見据えた。深緑の瞳に、わずかな苛立ちが滲む。
「大人しくしていろ。……それとも制御できないのか?」
アレクシスの息が上がっていた。肩が上下し、額に脂汗が浮かぶ。溢れ出す闇を押さえ込もうと歯を食いしばるが、彼の意思を嘲るように暴れるばかりだ。
彼はジルケットを睨みつけ、喉の奥から掠れた声を絞り出す。
「他国の騎士風情が……誰に向かって口を利いている」
その言葉さえ、あえぎ混じりで力がない。
「――俺が抑える!」
スノウが床に両手をつくと、彼の影が床面を黒い波のように広がっていき、暴れる闇の足元を一気に飲み込んだ。
「うしっ、捕らえた!」
影が跳ね上がる。網のように絡みつき、黒モヤを締め上げ、押し返し、強引に押し潰していく。
這い上がってくる自分の中の闇が、いつもと違う。誰かに命じられるわけではなく、自分の意思で守るために動いている。
アゼルを助けようとしたあの時と――同じ感覚。
(……お前は、俺の中にいたんだな)
長く絶えていた、あの温かい気配が、ほんの一瞬だけ手のひらに戻った気がした。
スノウの影が、暴れていたアレクシスの闇を締め上げ、徐々に霧散させていく。
「スノウ……貴様……」
「あんたの闇には、もう負けねえって」
地下に、静けさが落ちかけたそのとき――。
「……ずいぶん、待たせてしまったね」
階段の上から、複数の足音が降りてきた。
先頭に立つのは白いローブに身を包んだクロヴィス・ヴェルディア。後ろには帝国の官吏たちが続く。
彼は地下を静かに見渡し、消えた陣の跡を確かめるように視線を巡らせると、ルリシアに視線を止めた。
「ルリシア嬢、怪我はないかな?」
「クロヴィス殿下……! はい。大丈夫です」
背筋を伸ばして答えると、赤い髪が駆け下りてきた。
「――ルリ!」
「レイラ!?」
「酷いことされなかった!?」
言いながら彼女は強くルリシアを抱きしめた。僅かに身体が震えていた。
「されてないよ。……心配かけてごめんね」
「……そう」
短いひと言は、長い時間の緊張を一気に吐き出しているようだった。
その後ろから、眼鏡の少年が息を切らして現れた。侍女服のまま、腕の中にはお気に召した盆を抱えている。
「ルリシアさん! ご無事で……!」
「ライルくん、その恰好……!」
「話すと長いんです」
穏やかに眺めていたクロヴィスの視線が、アレクシスにゆっくりと向く。
「――アレクシス・ヴァルドリックス」
朗らかさは、微塵もなかった。
「エメラルド王国国王陛下の名代として、貴殿に罪状を告げる」
帝国の官吏たちの表情からは色が消えた。アレクシスが深く息をしながら問う。
「貴様……なぜ、ここが……」
「貴方の影武者……いや、忠実な執事が教えてくれた。良い部下をもったな。最後まで口を割らなかったが、貴方が人としての道を踏み外す前に決断したのだからな」
アレクシスの表情が、初めて硬くなった。
「先ほど、謁見は済んでいる。……皇帝陛下のお許しを得た。始めよう」
地下の空気が、さらに冷たく沈んでいく。
「第一。特級魔獣『闇の君主』の封印を解いた行為、およびそれに伴う我が王国への侵略行為」
クロヴィスの声が、地下に響く。
「第二。我が国の拘束下にあった囚人、ガレン・ヴォルドの殺害」
「言いがかりだな。証拠はあるのか?」
鼻で笑うアレクシスに、クロヴィスがふと視線を落とす。小さな身体と目が合った。
イリヤが頷き、前に進み出る。
「証拠はある。まずは――」
イリヤがジルケットを見上げると彼は懐から小さな箱を取り出し、蓋を開けた。
黒い石を嵌めた耳飾りを手に取りながら、鋭い目付きでジルケットは説明した。
「ガレンの遺品だ。遺体に外傷はなく、牢は結界の破損もしていなかった。心臓だけが、一瞬で止まってた。……病死にしても不自然だった」
スノウの視線が、その耳飾りに縫い止められている。無意識に、自分の耳へ指が触れた。
「牢で急死した男の持ち物を並べて、何になる」
アレクシスが呆れたように吐き捨てると、ジルケットの目が不機嫌そうに細まった。
「石を解析した結果、この石はエメラルド王国内では入手できないものだったってことだ」
「王宮直属の牢です。二重結界に、常時監視がある中で、外から内側の一点だけを正確に狙える魔法は――高位の禁術以外あり得ません」
ジルケットの言葉に続いたのはライルだ。眼鏡の奥の目は真剣そのもの。
「そこまでの出力に耐える媒体は、限られます」
言いながらライルはエプロンのポケットから、ハンカチの包みを取り出した。
開かれた布の上で、小さな黒い結晶が光を返す。耳飾りの石は、底が見えないほど濁っていたが、対してこの結晶の方には、奥にまだ淀んだ青が残っている。
「そして、この結晶石は、皇太子殿下の私室の暖炉から回収しました」
地下の空気が、一段冷えた。
「……はっ……侵入者の証言だな」
アレクシスの声が低くなる。
「私室に忍び込んだ賊が、そこにあったと言い張っているだけだ。誰が保証する」
イリヤが再び口を開いた。
「この結晶石自体が証拠だ」
「なに?」
「解析の結果、この二つの石は帝国内で一番硬い鉱石であり、同一の物だった」
周囲の反応を確かめるように間を置くと、スノウが気付いたように小さく呟いた。
「……エーテル・コア」
帝国の官吏たちが、一斉にざわめく。誰かが「馬鹿な、あれは……!」と声を上げる。
「静粛に」
クロヴィスが制する。
「私も報告を受けたとき、耳を疑った。貴国の心臓だ。世界で最も硬く、完全な破壊は不可能とされている」
翡翠の瞳は、皇太子を見据えた。
「では問おう。欠けを入手できる者が、この国にどれだけいるのか」
「……それがエーテル・コアだとして、それが闇の君主封印に関与した証拠になるものか」
アレクシスの冷静さには、余裕が垣間見える。
「最後の証拠がまだある」
イリヤの言葉にジルケットが、包みを解きながら一本の剣を床に置いた。
古いが、手入れの行き届いた騎士剣。
「祖父の剣だ。ラドルフ・クロウリーが、闇の君主を封じるために突き立てた。五十年、あの場に在り続けた」
アレクシスが剣を見下ろすと、その口の端がゆっくりと持ち上がった。
「……それが、なんだと言うのだ。見たところ外部からの干渉を受けた痕跡は無いようだが?」
向けられる疑いなど意に介さぬように、アレクシスの声には一切の揺らぎはない。
「先ほどから聞いていれば……推測を重ねただけだろう。証拠がないから、状況を並べている。違うか」
帝国の官吏たちが、複雑そうな顔を見合わせた。
「そうだ。表には、何も残っていない」
イリヤは、あっさりと認めると剣の傍らに立つ。
「あなたは痕跡を残さなかった。だが、あまりにも綺麗に消しすぎていることが……逆に、不自然だった」
「言いがかりだな」
イリヤは、小さな手で刀身に触れる。
「この剣は、帝国辺境伯領で採れる稀少鉱石で打たれている。クロウリー家は代々、魔獣討伐の報酬として鉱石を譲り受けてきた」
アレクシスの眉が、わずかに上がった。
「そして、この剣に使用した鉱石は……闇の剣士が、闇を溜めておくための石『蓄魔鉱』の上位にあたる鉱石だ」
赤い瞳が、まっすぐアレクシスを捉える。
「溜め込む量も、保つ年月も比べものにならない。五十年、この剣は闇の君主の闇を吸い続けてきた」
言葉が、切れる。
「――そして、封印に干渉した側の闇も取り込んでいる」
「……なに」
アレクシスの顔から、笑みが消えた。
「ルリ」
イリヤがルリシアを呼ぶと、真剣に話を聞いていた彼女は、ハッと顔を上げる。
「俺の剣を使って、この剣を壊してほしい」
息が、止まった。
「……え、壊すって……私が?」
「ああ」
思わず目を見開いたまま固まるルリシアに、イリヤは迷いなく頷いた。
「この剣は、役目を終える。五十年、戦い続けた」
小さな手が、自分の剣を指差した。
「ルリが、終わらせてくれ」
――あの日。
王宮の高台で、指輪を通して四色の光を送り続けた。
あの戦いを、二人で終わらせたのだ。
「……でも、こんな大切な剣を――」
「構わない。もう、この剣には守るものはない」
ルリシアは、イリヤの迷いのない視線を受け止めて、彼の剣を再び手に取る。重さが腕にかかった。
「……イリヤの剣は壊れない?」
「俺の剣も、同程度の硬度を持つ鉱石で作られている……問題ない」
ルリシアは、深く息を吸った。床に膝をついて剣を見つめる。
五十年、闇の底で立ち続けた刃。守るために闇を封じ込め続けた剣。ルリシアは、両手で柄を握り刃を高く掲げる。
(……これで役目を終える)
「――待てっ!」
アレクシスの声が、初めて上ずった。
「動くな!」
「――っ、貴様!」
身を乗り出したアレクシスをジルケットの剣が牽制するように、突きつけた。
「ルリ、構うな」
「うん!」
一度深く息を吸い込み、剣を突き立てた。
――ガキンッ!
鋼が鋼を打つ音が、地下を鋭く裂いた。
古い刀身に蜘蛛の巣のような亀裂が走ると、それは砕け散った。
古い刀身の砕けたかけらから、黒いモヤが噴き上がった。
重く積もるような、五十年ぶんの怨念を溜め込んだ不気味な黒いモヤが地下全体を暗く塗り潰していく。
研究員たちが、驚きの声を上げながら後ずさった。
「君主はもういない。ただの残滓だ」
イリヤが冷静に告げると、言葉の通り、黒いモヤはゆっくりと薄れていった。行き場を失った残滓が、霧のようにほどけていく。
――だが、その中に一筋の消えないものがあった。
先ほどのモヤとは明らかに質が違う黒い残滓。まるで、混ざりきらなかった油のように浮き出てくる。
「……あれは」
レイラが息を呑むと細い黒が、揺らぎながら持ち上がった。
そして――呼応するように、ガレンの耳飾り、ライルの見つけた黒い結晶から細い煙が立ち上り、剣から出た一筋と、引き寄せられるように集まっていく。
三筋が、一つになった。
「合わさるということは、三つの残滓が同じ魔力だという証明だ」
黒い筋が、ゆらりと向きを変えた。
「そして、消えなかった闇の残滓は、持ち主のもとへ還る性質がある」
滑るように床を横切っていく。
「……やめろ」
思わず一歩下がるアレクシスを、黒い筋は追いかける。
「これこそが、言い逃れのできない証拠だ」
紫の瞳を持つ男の足元で、吸い込まれるようにして黒い筋は音もなく消えた。
小さなどよめきが走った。
驚愕と戸惑いが入り混じった視線が、一斉にアレクシスへ注がれる。目の前の事実に誰もが理解しながら、なお信じきれずにいた。
黒い筋が消えた床を、アレクシスはしばらく見下ろしていた。やがて、顔を上げる。
「……戯言だ。その程度で、皇太子を裁けると思うな。私は――」
「もう、やめてください! 兄上!」
微かに震える声が、アレクシスの言葉をさえぎった。
研究員たちの中から、小柄な人影が一歩前へ出る。深く被っていたフードに手をかけ、静かに払い落とした。
黄金の髪。そして――兄と同じ、紫の瞳。
「……っ」
ルリシアの喉が鳴った。格子の外から、水を差し出してくれた人だ。
「レオン……?」
アレクシスの声が、震えた。
「なぜ……お前が、そこにいる」
レオンの口が小さく開くが、言葉が出てこない。
「――私が、進言いたしました」
階段の上から、穏やかな声が降ってきた。
銀縁眼鏡に藍色の瞳。束ねた黒髪を揺らしながら、リヒトが降りてくる。
「殿下に、ご自身の目で真実をご覧になるべきだと。……そのための手も、私が回しました」
「リヒト先生……」
「ルリシアさん、ご無事で何よりです」
ルリシアの無事にリヒトは微笑みを浮かべたまま、周りの人々に頭を下げる。
そして、いつものように眼鏡をくいっと押し上げた。
「私は教師です。時には現実を知り、教えることもまた仕事ですから」
アレクシスの拳が、無意識に握られる。
「レオン殿下は最後まで、貴方を信じておられました。何か事情があるのではないか、と」
リヒトが、一度だけ目を伏せた。
「ですが、保護した一部の貧民街の者たちからあることを聞き状況が変わったのです。『第二皇子殿下の呼び出しで一部の人が帝宮に招かれている』と」
藍色の瞳から、笑みの色が抜ける。
「療養所へ運ぶ、暮らしを立て直させる。そう言われて、皆ついていったのです。……レオン殿下が毎月ご自身で行なっていた慈善活動の裏で、貴方にお名前を使われていた」
リヒトは、俯き悲しみを堪えるレオンを一瞥すると、再び視線をアレクシスに向けた。
「――アレクシス殿下、貴方は闇に心の全てを侵蝕されてしまったようです」
リヒトの言葉が地下の空気に冷たく落ちると、紫の瞳が、居並ぶ者たちを撫でた。
「――それで。私を、どうする気だ」
屈辱に唇が歪んでいる。それでも、背筋は伸びていた。視線が帝国の官吏たちへ移る。
「帝位を継ぐ者は、魔力を闇へ変換できねばならぬ。建国以来の定めだ」
レオンに冷たい温度のない眼差しを注いだ。
「弟は正統な血筋を持ちながら、使えない。生まれついてな。――私を裁けば、この国は次の皇帝を失う」
地下が、静まり返った。
「それは、問題ない」
クロヴィスの声が、あっさりと落ちる。
「両国は、これより協定の交渉に入る。魔法も技術も、互いに開く」
翡翠の瞳が、静かに皇太子を見据えた。
「陛下は、既に御裁可なさった。――レオン殿下も、次期皇帝として共に、と」
アレクシスの顔から、色が引いた。
「……何だと」
「守るべきものを見失う者に、国は預けられんということだ」
「皇帝は、どこまでも私を――」
クロヴィスは、微塵も表情を変えずに続けた。
「どのような理由があろうと、恐怖で人を押さえつけて、返ってくるものは何もない」
アレクシスの表情が侮辱に歪む。
その視線が、ゆっくりと小さな影へ落ちた。
「――イリヤ・クロウリー。貴様……」
目が合うと、幼い声が沈むように告げた。
「今、この全てが……ノクティスがあなたを選ばなかった理由だ」
紫の瞳が、大きく見開かれる。何も言葉を返せないでいた。
帝国の衛兵たちが、研究員たちを次々と取り押さえていく。抵抗する者は、誰一人としていない。
二人の衛兵が両脇からアレクシスの腕を取っても彼もまた一切抵抗しなかった。
「兄上! あの、僕は……」
レオンが、一歩近づいた。
アレクシスはまっすぐに弟の姿を捉える。
「――私はな、レオン。お前のような、無能なくせに善意を振り撒く人間が、一番嫌いだ」
紫の瞳に、何の熱も感じない。レオンはただ冷めたその拒絶を全身で受け止めるしかなかった。
アレクシスは、興味を削がれたようにその視線を外すと、背筋を伸ばしたまま、衛兵と共に歩き出す。
――その足が、一度だけ止まった。
温度のない紫の瞳が、今度は銀髪の男を捉える。スノウは逸らさない。
視線が交わったのは、ほんの一瞬。アレクシスは前を向き、暗がりの中へと消えていく。
「あんたも、ずっと……独りだったのか……」
小さな独り言が、誰に届くこともなく地下の空気に溶けて消えた。
「スノウ・シルヴァート」
名を呼ばれて、肩が跳ねた。クロヴィスが、静かにこちらを見ている。
「我々と共に来なさい。話がある」
小さく頷いて、スノウはイリヤとルリシアに振り返った。そして、ふにゃりと力無く笑った。
**
地上へ出ると、空が白んでいた。
帝都の尖塔の向こうから、朝日が昇り始めている。長い夜が、ようやく終わろうとしていた。
「……もう朝だわ」
「……はあ、どっと疲れました」
レイラが目元を押さえる。ライルは侍女服のまま石段に座り込み、盆を抱えたまま動かなくなった。
ルリシアはその光の中で、隣を見下ろすとイリヤと目が合った。
まだ小さな彼。まだ終わってない。
「……イリヤ」
呼び声が震えた。すると、イリヤの小さな身体が後ろから抱えられた。今度は深緑の瞳と目が合う。
「何がどうして、こうなった? 手紙には書いてなかったぞ」
「離せ」
「態度は小さくならないのか?」
ジルケットとイリヤのやりとりにふっと顔が緩むルリシア。
「イリヤにかかった禁術……どうしたら、解けるのかな」
ルリシアの呟きにジルケットはイリヤをそっと下ろした。小さな彼は、朝日を見上げて口を結んでいる。
「……ルリ。ひとつだけ、方法がある」
ルリシアが、驚きに顔を上げる。
「ほんと!? なに、どうすれば――」
ルリシアは、言葉をそこで止めた。イリヤが、珍しく言いにくそうに視線を落としていた。
やがて、小さな手が持ち上がった。
開かれた掌の上に、銀色の指輪が乗っている。
鎖から外された、彼の指輪。中心の小さな石が、朝日を受けて淡く光った。
「……これを、壊せばいい」
ルリシアの息が、止まった。
「この石を砕けば――おそらく戻れる」
差し出された掌から目が逸らせない。
「二つの禁呪が絡んだ結び目が、ライアスの欠片の中で固着している」
その声が、あまりに穏やかで――ルリシアは、余計に何も言えなくなった。
――そのとき。
ドォンッ!
腹に響く音が帝宮の敷地内に轟く。
全員が、一斉に振り返った。
帝宮の一角の空が、赤く滲んでいた。立ち昇る黒煙。風が焦げた匂いを運んでくる。
ジルケットは呆然としながら赤い空を見つめていたが、思い出したように叫んだ。
「……あっちは、皇太子を連行した方角だ!」
「それって、殿下たちも一緒でしょう!?」
レイラの声が弾けると、ジルケットが血相を変えた。振り返る間もなく飛竜の背に飛び乗る。イリヤも即座にその後ろへ飛び乗った。
飛竜が翼を広げ、地を蹴って舞い上がる。
「イリヤ、待って!」
「僕たちも行きましょう! あの炎もしかしたら――」
三人は顔を見合わせて、飛竜を追うようにして駆け出した。




