↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
のんべえ令嬢のニッポン飲み歩き!!ーオフの日は異世界から、愛するグルメ天国ニッポンへー  作者: ちくわ族の生き残り


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
42/45

第42話 上野で羊中華②

紹興酒とともに最初に運ばれてきたのは、羊の4種の胃袋(ミノ、ハチノス、センマイ、ギアラ)を細切りにして様々な調味料や香辛料で和えた「涼拌羊胃」という前菜。


「なかなか、デンジャラスな見た目をしていますわね…」


「大丈夫よ!内臓料理とお酒は裏切らないからっ」


「僕、この見た目、嫌いじゃないです」


「ユーリはどっかヘンなのですわっ」


肉と内臓はジャンルが違うのか、リリーは少し戸惑っている。


見慣れない内臓にパクチーに花椒に黒酢に…抵抗があるのも無理はない。

お構いなしに、ディアーヌは紹興酒を三つのコップに注ぐ。


「ユーリのニッポンデビューに、乾杯っ」


「そうですわね、乾杯!」


「か、カンパイッ!?」


三人、コップを合わせる。

18年ものがリーズナブルだったのでそれにしたが、非常になめらかで角がなく、深い。


「これは、美味しいわね」


「はじめての味ね、うん、悪くないですわ」


「意外とイケます!」


今のところ怖いものなしのユーリは、紹興酒を飲んでも、やはり余裕の面持ちだ。


羊特有の香りがクセになる胃袋の和えものは黒酢のコクや花椒の刺激がまたつまみに最高だっ!


「あれ?食べ物と合わせると、このお酒、ものすごく美味しいですわ!お料理に重なって、奥行きを作ってくれると言うか…」


「よく気がついたわね、リリー!」


最初は慣れなくても、歩み寄れば味わいの世界を広げてくれるのがお酒というもの。


お次は羊肉。

炭火で焼かれた羊肉に、たっぷりのクミンと唐辛子。


「いただきます!」


リリーが一本取り、かぶりつく。


「なんて美味しいんですの!スパイシー!!これはまた、はじめての味ですわ。なんとも、良い香りとジューシーな羊さんの味…幸せっ」


うっとりとしている。


ディアーヌも一口。外側は香ばしく、羊の脂がじゅわりと広がる。

そこへクミンの清涼感と唐辛子の刺激。


羊特有の濃厚な風味がありながら、香辛料が後味を軽くしている。


「これ、何本でも食べられるわね、お酒も進む」


「ねえねえ、これ、何本まで食べてよろしくって?」


「今日は好きなだけどうぞ!」


「さてはディアーヌ、リリーの食欲の怖さを知りませんね」


リリーは二本、三本、四本、五本…

ディアーヌは紹興酒を飲みながらそれを眺めていた。


「……本当に食べるわね」


「だって美味しいんですもの」


「それ、私の台詞だった気がするわ」


「今日は私が言うの!」


リリーは楽しそうだった。


「ついでに、紹興酒、もう一本!」


心配していたユーリも含め、三人とも、酒は弱くないようだ。酒もどんどんなくなっていくーー


やがて羊のスペアリブが運ばれてくる。

骨付きの大きな肉だ。


表面が香ばしく焼け、クミンと唐辛子がびっしり付いている。

分厚く、皿が置かれただけでもその身はプルプルと揺れる。


「これは……」


リリーが武者震いしながら、スペアリブを両手で持ち上げる。


「いただきますわ!」


豪快にかぶりつく。


「んんっ……!」


リリーの言葉にならない感動をひしひしと感じる。ディアーヌも、かぶりつく。


(これは…頭がとけるくらい美味しい…!!)


ふるっふるの肉を噛みしめるたび、羊の旨味が口いっぱいに広がる。

脂は濃厚だが、香辛料が強いため不思議と重くない。


そして、紹興酒は、米由来の甘みと熟成香があり、羊肉の濃厚な脂によく合う。


「最高……」


ディアーヌの口から思わずそんな言葉が漏れる。

リリーも恍惚としていた。


「リリー、顔が溶けそうよ」


「だってこんなの食べたら…」


「そんなリリーも可愛いよ」


ユーリはニコニコしている。


「言い過ぎですわ、もうっ」


「なんで、そんなにかわいいの?」


ユーリは口調が変わり、頰と鼻の頭が赤くなり、目は潤んでいる。


「ユーリ、あなた、そういえば、飲み慣れないお酒をかなりハイペースで飲んでいるわよね?」


心配するディアーヌ。


「僕が酔っても酔わなくても、リリーは世界一キュートだよ」


(酔うと、愛が暴走するタイプね…)


そこへ、地獄辛の麻婆豆腐が運ばれてきた。

赤い。地獄の炎のように赤い。


料理の表面を覆う唐辛子。

立ち上る煙に当たるだけで、ディアーヌの目に刺激を感じる。痛い。


「……本当に食べるんですの?」


リリーが尋ねた。


「もちろん」


ユーリは変わらぬ笑顔でスプーンを持ち上げる。そして、地獄の沼のようにグツグツと煮え立つ麻婆豆腐を、ぱくり。


「どう?」


ディアーヌが聞く。

ユーリは、ゆっくり噛んだ。


「うん」


「うん?」


「辛いね」


それだけだった。


「……え?」


リリーが固まる。


ユーリはもう一口。


さらに一口。


「……いや、ものすごく美味しい。辛さだけじゃない、コクや香り、出汁のせいか深みがある。この白い食材にも、おそらく旨みが染みていて…こんなに美味しい辛さははじめてだ!!」


ユーリは、感動している。


「嘘でしょ?」


リリーは眉を顰めているが、ディアーヌは激辛料理をこんなふうに楽しんで食べられるユーリが素直にすごいと思った。


地獄の辛さを平然とパクパク食べるユーリが珍しいのか、店員までこちらを見ている。

周囲の客も、いつの間にかユーリの様子を眺めていた。


「ユーリ、本当に辛くないんですの?」


「辛いよ」


「じゃあ、なんでそんな普通の顔なんですの?」


「普通だから?リリー、君のことも食べちゃいたいくらい、大好きだよ!」


「意味が分からないですわ……」


ユーリは黙々と食べ続ける。


額に汗が浮かぶ。

それでも表情は穏やかだ。


そして――。


最後の一口。

スプーンを置いた。


「ごちそうさま」


一瞬、店内が静かになり、次の瞬間。


「おおおおっ!」


客席から歓声が上がる。


「完食した!」


「すごい!」


店員も思わず拍手している。

ユーリはきょとんとした顔で周囲を見回した。


「……何?」


「何って、あれを、全部食べたのですわよ!」


リリーが笑いながら肩を叩く。


「この店で一番辛いんでしょう?」


「そうみたい」


「それを平然と食べ切ったのですわ!」


「そうなんだ」


「もっと喜びなさいよ!」


「うん。リリーが褒めてくれて嬉しい」


どうにも、リリーに向ける以外の感情の起伏が少ない。


店員も声をかけてくる。


「お客さん、本当にスゴイ!ナカナカいないヨ、パーフェクト、タベル」


「ありがとう。でも、この程度の地獄より、僕のリリーへの愛は燃えているんだ!」


「ユーリ、酔いすぎ!」


リリーは頰を膨らませながらも、赤面する。


そんなこんなでシメの手打ちのラム焼きそばまでわいわいと料理を楽しみながら、酒も進んでいった。

紹興酒は二本目が空になり、リリーもユーリも大満足の表情だ。


「リリーは一体、何本の串とスペアリブを食べたの?」


「数えていませんわ」


「そこは数えてよ」


「じゃあ、ディアーヌは何杯飲みましたの?」


「それは…数えていないわね」


ユーリとリリーが笑うので、ディアーヌも笑えてしまう。

やがて、店員が空になった皿を下げに来た。

店員が三人を見て言う。


「タノシそうネ」


「はい!」


リリーが答える。


「お肉、最高でしたわっ」


「今日のリリー、ずっと楽しそうだし。僕、そういう顔を見るの好きだな」


「カライのも?」


「美味しかった!また、もっと辛いのを楽しみにしてます」


「モット!?オジョーは、サケね」


「ええ」


ディアーヌは空になった紹興酒の瓶を見た。


「なんならもう一本……」


「さすがに飲みすぎよ!」


リリーがツッコみ、ユーリはおかしそうに笑う。


「ディアーヌって面白いね」


「あなたに言われたくないわ」


「そう?」


「ええ」


「でも、僕たち三人、相性いいんじゃない?」


その言葉に、二人が顔を見合わせる。


「……確かに」


ディアーヌは笑った。


肉を食べるリリー。

辛いものを食べるユーリ。

酒を飲む自分。


好みは見事にばらばらなのに、不思議と一緒にいて疲れない。


「次回はどこへ行きますの?肉は絶対ですわよね!」


リリーが言った。


「僕は違う辛いものを食べてみたいな」


「私は日本酒の店なんかがいいわ」


「ええ、じゃあ全部行きましょう!」


そう言ったあとで、リリーが指を立てる。


「ルシアンも、次は誘いましょう」


「……それは、また自由人が増えるわね」


そんな話をしながら上野の街に出れば、相変わらず人の視線が三人に集まる。

だが、もはやそんなことを気にする三人ではない。


上野の有名な菓子屋でルシアンへのお土産をみんなで選んで、無事に一行は異世界へと帰っていったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。