第21話 大塚の夏祭り②
今だとばかりに、リリーがディアーヌの腕を肘でつつく。
「あのぅ、真衣さんには異世界のこと、話しているんですの?」
「それは…まだ……」
言ってはいけない気がする。なんとなく、このまま、「ただの飲み仲間」でいたかった。
「ふーん。じゃ、リリーも黙っておこうっと」
「ありがとう。このことについてはもう少し、考えさせてください」
と、そこにどこで買ってきたのか缶ビールを3本持った真衣が戻ってくる。
「ビール、買ってきたよ」
「まあ!」
ディアーヌの目が輝く。
「いただきますわ!」
「さすがディアーヌの師匠!気が利きますわね。それにしても、おかしな容器」
缶ビールのレクチャーを受けながら、リリーも無事にプルタブを開ける。
そして、三人で乾杯っ!
蒸し暑い夏の夜。
火照った体に、冷たいビールがすっと入っていく。
「……美味しい」
ディアーヌが幸せそうに目を細めた。
「これは、最高です」
「本当ですわね。暑い日に外で飲むビール、しかも、美味しい焼きとうもろこしと!これに勝る美食もなかなかありませんわね」
「リリーちゃんは、なにか気になったものある?」
リリーはぐるりと屋台を見渡してから、「あれ!」と指をさす。
「まん丸のボール、さっき職人らしき方がクルクルと棒で回して作っているのを見ましたの。あれは、なんですの?」
「あれはたこ焼きといって…なにはともあれ、実践あるのみよっ!買いに行こっ」
「あら、でも、お金は……」
戸惑う後輩に、ディアーヌは助言する。
「ポケットのなかに、『ほどよい金額』が入っています!」
「や、どんなシステムですのっっ」
というわけで、リリーがなんとか買ってきたたこ焼き。
「熱いので気をつけて」
真衣に言われたそばから、リリーが一口。
「――熱っ!」
「だから言ったのに」
慌てて口を押さえるリリー。
けれど、すぐに目がキラキラと光る。
「なんですの、このソース!ワンダホーッ」
ディアーヌも爪楊枝でひとつ、パクリ。
アッッツ!
しかし、あくまで表情は変えていない…つもりである。
今日が日本のお祭りデビューなディアーヌ。
実は、たこ焼きもはじめて。
見た目は地味な丸いパンのようなのに、食べると粉っぽさなど微塵もない。
外側はカリッと香ばしく、中はとろり。
噛めばタコの出汁が広がり、濃厚なソースのコクと青のりの香りが追いかけてくる。
「……美味しいです!」
ディアーヌも頷く。
「これは危険な食べ物ですわね」
「何が?」
「美味しすぎて、次から次へと食べてしまいますもの」
リリーが人差し指を立てる。
「って、もう四つ食べてるじゃないですかっ!真衣の分が!」
計6個あったので、ディアーヌも2つはぺろりと食べていたわけである。
ビールとも抜群に合ったし……
「あら、また買ってきましょうか?」
「いえ、私はもう先に来て食べていたし、いつでも食べられるから」
肉を諦めた一行は、その後も、りんご飴やヨーヨー釣り、射的など、祭りを満喫していった。
特に射的では――。
パンッ!
リリーが撃った景品が落ちる。
パンッ!
ディアーヌが撃った景品も落ちる。
真衣は呆気に取られた。
(乗馬といい、この人たちの謎の能力の高さはなんなの!?)
「2人とも、はじめてよね?」
「ええ」
「こちらの遊びは、狩猟に比べれば簡単ですわ」
「どんな国にいるのよっ」
ヨーヨー釣りでも、ディアーヌが一発で釣り上げる。
「取れましたわ!」
「なんで!?私、4回やってやっと1個で大喜びだったのに……」
真衣の驚く声に、二人は顔を見合わせて笑う。
りんご飴もたこ焼きも焼きとうもろこしも、缶ビールも阿波踊りも屋台遊びも……
日本の夏祭りには異世界にはない「味わい」があり、そのどれもが新鮮で、楽しい。
異世界の祭りといえば、貴族たちが互いの身分や力を探り、誰が誰に近づくべきかを見定めるような場所だった。
けれど、この祭りにはそんなものはない。
知らない人同士が笑い、屋台に並び、同じ花火を見上げる。
ディアーヌは、ふと周囲を見渡した。
さっきまで自分たちを珍しそうに見ていた人々も、今ではそれぞれの祭りを楽しんでいる。
誰も、ここで誰かの身分を問おうとはしない。
「……お祭りって」
ディアーヌが、ふと呟いた。
「こういうものなのですわね」
「どういうもの?」
真衣が尋ねる。
「互いを見定める必要などなく、ただ一緒に楽しめる場所です」
そう言って、ディアーヌは小さく笑った。
そのとき――。
ドンッ!ドドンッ
一際大きな太鼓の音が聞こえてきた。踊りの方も、いよいよ、佳境のようである。
三人は人の集まっている方へ行き、盛り上がる演奏と踊りを見物した。
ドドンッドンッドンッ
やがてリリーが、ぽつりと言う。
「……次は何を食べますの?」
「まだ食べるの?」
真衣が笑う。
「もちろんです!今度こそ、お肉ですわ!」
「待ってください、待ちなさいって、リリー!」
はしゃぎながら、また屋台の方へと歩き出すリリー。ディアーヌと真衣は笑いながら、その後を追う。
最初の計画では、一人で来るはずだった夏祭り。
けれど気がつけば、三人になっている。
「お祭りは、一人じゃなくて、良かったかもな」
思わず、ぽろりとそんな言葉がこぼれた。
「え、なにか言った?」
「なんでもありません!」
「なになに、また秘密ですの〜?」
(来年はみんなで、浴衣、着られたらいいな)
ディアーヌはほくほくと、そんなことを妄想した。




