第11話 中野の鰻串屋①
◎中野の鰻串屋
今宵導かれたのは鰻の激戦区、中野。
【うなくし ふみ屋】
なんとなく雰囲気の良さそうな赤提灯のかかった鰻屋へと引き込まれて行く。
様々な希少部位の串やつまみのメニューを眺めながら迷っていると、隣で静かに鰻串と日本酒を飲んでいる女性"真衣"を発見した。
この真っ白なシャツをパリッと着こなす真衣はディアーヌがはじめてニッポンの「もつ焼き屋」なるものに入った時ーー
その注文のコツやモツの部位を教えてくれた偉大なる師匠なのだった。
ーー回想ーー
「よく来られるんですか?」
そのもつ焼き屋の少し特殊な注文方法をテキパキと教えてくれる真衣に、ディアーヌは思わず尋ねた。
「いえ、ここは初めてなんですけど、私、一人飲み好きで。このスタイルのやきとん屋さん多いので、なんとなくわかるんです。」
「私も、いつも一人ですわ。」
「いいですよね、一人!」
一人こそ至高と言わんばかりの満面の笑みを浮かべる真衣に、ディアーヌは同志を見つけたような気持ちになったものだ。
真衣はなにやら、ホワイトボードの本日のメニューを吟味しているようだった。
(戦場に向かう騎士のような真剣な眼差し…なにを頼むのかしら。)
真衣が選んだのは、もつ煮込み。
「結局、安定の煮込みにしちゃうんですよね。」
照れたように笑う真衣。
「煮込み、楽しみです。あと、チレ、すごく美味しいです。教えてくれてありがとうございます。」
「でしょう?」
共感してくれる飲兵衛がいることを二人は喜び、その後、運ばれた絶品のもつ煮込みを食べ、さらに「飲み情」を深めたのだった。
「すみません、話していただいて・・・・・・その、楽しかった。」
「こちらこそ。戦友を見つけた気分ですわ。私はまだまだこちらの世界・・・いえ、飲兵衛は素人ですので、また、色々教えてくださると嬉しいです。」
「いえ、そんな、私も全然大して知らないけれど、また、ぜひご縁があれば。」
頬を赤らめながらそう言い残し、颯爽と去って行く真衣。
(あんな女性なら、また一緒に飲んだりしたいな。)
ーーーー
「あら、この間の!真衣さん、でしたわね。」
「あっ!!姫!」
「姫?」
「あ、ごめんなさい、私の中で勝手に・・・お姫様みたいだなって。」
(鋭いわね。まさか、異世界から来ているなんて言えないけれど。)
「お姫様だなんて、まさか。それにしても、奇遇ですわね。鰻串、あまり食べたことがないんです。」
「そうなんですか!?最高ですよ、本当にっっ!」
酒の話となると途端にイキイキと声を弾ませる真衣。鰻串初挑戦のディアーヌは、鰻や日本酒の良い頼み方を教えてもらうことに。
「うざくっていう鰻ときゅうりの酢の物は定番。このお店のう巻きもトロトロで最高!」
「なんと、魅力的な。」
「ま、最初だし串を色々食べてみよーっ!」
(さすが師匠ね。頼もしい限りだわっ)
「すみません、赤星にコップ二つと、キモ、ヒレ、タンザク、あとエリ!!」
「はいよー」
「さすが師匠です、注文によどみがないッ」
すぐに赤い星マークのビールとゼリーのようなお通しが出てくる。トクトク。
「酒飲みの縁にっ」
「乾杯ですっ」
ゴクゴク。『っあー』と、幸せの吐息も二人揃うとなんだかハッピーだ。
「これは?」
「煮凝りよ、鰻のゼリー寄せといえばわかりやすいかしら。」
「茶色い…」
「見た目はアレだけどね、まあ、食べてみて。」
地味な茶色のゼリーを恐る恐る、ひと口。
「…鰻の脂の旨みと牛蒡や椎茸の出汁、口の中の温度でとろけて……ぐびぐび」
「そうでしょ、美味しいとこの煮凝りは期待の100倍も美味しいの!赤星の苦みも合うのよねぇ」
(お茶会の薔薇のゼリーよりこの鰻のゼリー、これが好き!)
「はは、ビールもあっという間に空になりそうだね。」
カウンター越しに姿勢のいい細身のおじいちゃん主人が笑っている。
「師匠、このお店はよく来られるんですか?」
「師匠って。真衣で良いわよ。ええ、ウナ串食べたくなったら、ここね。姫は、燗酒って飲んだことはある?」
「でしたら、こちらも宜しければディアーヌとお呼びになってください。燗酒、存在は知っているのですが、お酒をあたためるというのが馴染みがなくて実は未挑戦なんです。」
言いながら、酒飲みとして苦手意識で避けていたことに、何か負けている気分になってくる。
「なら、ここは燗酒初体験にはうってつけよ!大将、ガツンと美味しい燗酒、彼女に飲ませてあげてくださいっ」




