69. 別の道
王都を避けると決めた以上、次に必要なのは行き先だった。
どこならいいのか。
どこなら三人が隠れつつ動けるのか。
どこなら、王国や教会の目が薄くて、それでいて完全な行き止まりでもないのか。
「……辺境って言っても広いよな」
奏真が地図代わりの簡易板を見ながら言う。
『はい』
ノアがいつもの調子で返す。
「そこで会話終わらせるなよ」
地図は正確じゃない。
閲覧盤ほど細かくもない。地上へ出る時に上層接続部に残っていた簡易情報と、ノアの記憶を合わせた程度のものだ。
それでも、ざっくりした方角はわかる。
西は王国の巡回が多い。
北は教会領に近い。
南は街道が強く、目立つ。
東の外れには、王国の管理が薄い荒れ地帯があるらしい。
「東か」
『候補としては有力です』
「理由は?」
『人の往来が少なく、王国の直接支配が弱い一方で、完全な無人地帯ではないためです』
「なるほどな」
『補足すると、捨て置かれた土地が多い地域でもあります』
「……捨て置かれた、か」
その言い方に、奏真は少しだけ引っかかった。
奈落の底で見てきたものが、頭をよぎる。
見せたくないものを落とす場所。
都合が悪くなれば切り捨てる場所。
地上にも、そういう土地があるのかもしれない。
セレスが小さく言う。
「見捨てられた場所?」
「ああ、たぶんそんな感じだ」
「……嫌いじゃない」
「お前、その感覚ちょっと危ないな」
「どうして?」
「共感が早すぎる」
『理解可能です』
「ノア、お前までそっち側に回るな」
奏真は苦笑する。
けれど、実際悪くないと思った。
王国に見捨てられた土地。
人の目が少ない。
でも、完全には終わっていない場所。
そういうところなら、自分たちが足場を作る余地もあるかもしれない。
「……そこに行くか」
『妥当です』
「便利だなそれ」
『高頻度で』
「もういいって」
セレスが少しだけ顔を上げる。
「王都へは行かない」
「今は、な」
「でも、いつか行く」
「ああ」
その“いつか”はぼんやりしていない。
むしろ、はっきりしていた。
神崎に会う。
王国に返させる。
教会にも返させる。
ただ、そのために必要な順番があるだけだ。
「今は別の道を行く」
奏真は静かに言った。
「でも、逃げたまま終わる気はない」
『その認識で問題ありません』
「最近ちょっとだけ言い方よくなってきたな」
『改善努力中です』
「ほんと便利だな、それ」
地図板をしまい、奏真は立ち上がる。
風が吹く。
地上の風にはもう少しだけ慣れてきた。空の広さにも、ようやく息が詰まらなくなってきている。
奈落の底では、上へ伸びる道を探していた。
今は、先へ伸びる道を選んでいる。
それだけでも、ずいぶん変わった。
「行こう」
奏真が言う。
「東の外れ。まずはそこを見に行く」
『了解しました』
「うん」
三人は歩き出す。
王都へ向かう道じゃない。
でも、間違ってもいない。
それはたぶん、“帰還”の先にある最初の選択だった。




