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信じていた仲間に処分された俺、禁忌スキル《奪還の王》で最強になる ~奪われた力も居場所も、今度は全部取り戻す~  作者: 夜天 颯
第三章 帰る者

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64. 裏切り者の名

決定的だったのは、町外れの掲示板だった。


 大きな町じゃない。

 街道沿いにある中継地みたいな場所で、旅人や商人が情報を見るための板が、粗末な木の壁に打ちつけられている。


 奏真たちは少し離れた路地の影から、その様子を見ていた。


 昼過ぎで人は少ない。

 掲示板の前にいるのは、荷を背負った男と、腕組みした若い女、それに読める字が少ないのか、隣からのぞきこんでいる子どもが一人。


「王都からの知らせ、また増えてるな」

「勇者様関連でしょ」

「あと教会の布告も多い」

「最近ずっとそう」


 奏真の目が、板の中央に留まる。


 勇者神崎恒一の名。

 王国公認の戦果。

 教会からの感謝と祝福。


 そこまではもう、驚かない。

 問題は、その下に貼られていた一枚だった。


 少し古い紙。

 けれど今もはっきり見える字。


 危険指定対象・九条奏真


 その名前が見えた瞬間、奏真の呼吸が一度止まった。


「……」


 声が出ない。


 紙にはこう書かれていた。


 禁忌級権能保持者。

 勇者一行に属していたが、精神不安定と危険傾向が確認された。

 王国及び教会の保護下における監視中、勇者への反逆行為が疑われた。

 その後、奈落への転落により死亡確認。


 要点だけで十分だった。


 危険指定。

 精神不安定。

 反逆行為。

 死亡確認。


 きれいだった。

 あまりにも都合よく、きれいに並んでいた。


「……うそ、だろ」


 自分の声が、ひどく遠く聞こえた。


 神崎に落とされた。

 それは知っていた。


 でも、地上ではこうなっている。


 自分は禁忌持ちで、危険で、勇者に反逆しかけた存在で、その末に奈落へ落ちて死んだ。


 全部、自分が悪いみたいな形で。


「九条って、あれか」

 掲示板の前の男が言う。

「勇者様の足引っ張ってたやつだろ」

「それだけじゃなくて、やばいスキル持ちだったんでしょ?」

 女が返す。

「でも勇者様が止めたんだよね」

「結果的に奈落行きって、まあ自業自得じゃない?」


 その一言が、妙に静かに胸へ刺さった。


 自業自得。


 落とされた時よりも、今のほうが痛いかもしれないと、奏真は思った。


 奈落ではまだ、自分の中の事実だけがあった。

 でも今は違う。


 地上にはもう、自分じゃない“九条奏真”が完成している。

 勝手に危険人物にされ、裏切り者にされ、死んだことにされている。


 しかもその隣では、神崎が勇者として称えられている。


「……っ」


 拳に力が入る。

 でも、怒鳴れない。


 叫びたい気持ちはある。

 ふざけるなと言いたい気持ちもある。


 けれど、先に来たのは怒りじゃなかった。


 冷たい空白だった。


 セレスが横で、かすかに奏真の袖をつかむ。


「……奏真」

 その声が、やけに近く聞こえる。


 ノアは何も言わない。

 ただ、奏真の表情を見ていた。


 掲示板の前では、まだ話が続いている。


「勇者様も大変だったよな」

「仲間に裏切られるとか、普通きついでしょ」

「教会も“正しい判断だった”って出してるし」

「やっぱ勇者様は勇者様だよ」


 正しい判断。


 その四文字が、最後の釘みたいに胸へ落ちた。


 神崎は正しい。

 自分は危険だった。

 奈落行きはその結果。


 それがもう、地上の中では当たり前になっている。


 奏真は目を閉じた。


 頭の中で、神崎が自分を押した瞬間がよみがえる。

 あの顔。

 あの目。

 言葉。

 そこへ、今見た紙の文字が重なる。


 危険指定対象・九条奏真。


 その名前が、自分なのに自分じゃないみたいだった。


 そっと目を開く。

 もう掲示板は見られなかった。


 奏真は一歩、二歩と静かに後ろへ下がる。


 誰にも気づかれないまま、路地の影へ戻る。


 足元が少しだけ遠い。

 地面はあるのに、感覚が薄い。


 セレスが何か言おうとして、でも言葉を止めた。

 ノアも、何も言わない。


 それでよかった。


 今ここで何を言われても、たぶんまともに返せない。


 奏真は壁に背をつけ、ゆっくり呼吸をした。

 うまく息が入らない。


 落とされた。

 それだけじゃなかった。


 死んだことにされていたんじゃない。

 危険な裏切り者として、きれいに書き換えられていた。


 命だけじゃなかった。


 奏真は乾いた喉の奥で、ようやく言葉を見つけた。


「……命だけじゃなかった」


 それは、自分に言い聞かせるみたいな声だった。


「俺は、名前まで奪われていた」

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