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信じていた仲間に処分された俺、禁忌スキル《奪還の王》で最強になる ~奪われた力も居場所も、今度は全部取り戻す~  作者: 夜天 颯
第三章 帰る者

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63.悪い予感

その日は、人の多い場所へ近づきすぎないようにしながら、情報だけを拾い集める形で動いた。


 街道沿い。

 小さな荷運び所。

 井戸の近く。

 どこへ行っても、勇者の名は前よりずっと大きくなっていた。


 神崎恒一。

 勇者様。

 王国の希望。

 教会が認めた光。


 そういう言葉が、地上ではもう自然なものとして流れている。


 奏真は木の陰から、荷運びの若者たちの会話を聞いていた。


「勇者様、次は西のほうへ行くらしいぞ」

「魔物の掃討だろ?」

「それもあるけど、まだ危険な残党がいるかもしれないってよ」

「残党?」

「ほら、あの禁忌スキル持ちの件だって、完全には断ち切れてないとか何とか」

「死んだんじゃなかったのか」

「表向きはな。でも、教会は念入りらしいぜ」


 表向きは。


 その言い方に、奏真は眉をひそめた。


 死んだことにされている。

 けれど、完全に終わった扱いでもない。


 つまり王国や教会の中には、“本当に死んだかどうか”を曖昧にしている層もいるのかもしれない。


 それはいい情報のはずだった。

 けれど今は、少しも安心にはつながらなかった。


 危険人物として警戒が続いているなら、なおさら面倒だ。


「……最悪だな」


 木陰でそうつぶやくと、ノアが横で答える。


『状況評価としては概ね同意します』

「お前、そういう時だけ言い方がやわらかいよな」

『事実です』

「結局それか」


 セレスは少し離れた場所で、地面に落ちていた小石を指先で転がしていた。

 地上へ出てから、何かを考える時にそうすることが増えた気がする。


「奏真」

「ん?」

「今の話、まだ全部じゃない」

「ああ。わかってる」


 まだ名前は出ていない。

 でも、もう十分に輪郭は見えている。


 禁忌持ち。

 勇者のそばにいた。

 危険人物。

 裏切り者。

 奈落に落ちて死んだ。


 その流れを、地上の人たちは疑いもせず受け入れている。


 奏真は拳を軽く握った。


 怒り、というにはまだ少し違う。

 もっと嫌なものだった。ゆっくり内側を冷やしていく感じ。


「……自分のことを、他人の口からこんなふうに聞く日が来るとはな」

「変な感じ?」

 セレスが聞く。

「変、で済ませたくないけどな」


 奏真は木の幹にもたれた。


 落とされたのは知っている。

 神崎が押したのも知っている。

 けれど地上の人間は、その先にある“結末”まで、もう勝手に信じている。


 しかもそこでは、勇者神崎が正しい側で、自分は危険な側だ。


「……あいつ、どこまでやったんだ」


 神崎個人の意志だけじゃない。

 それはたぶんもう、はっきりしている。


 王国も教会も乗っている。

 だからこんなにきれいな物語になってる。


 でも、それでも。


 神崎の顔が浮かぶたびに、そこへ王国や教会を足しただけでは埋まらない“個人の何か”が残る。


 あいつ自身が、どこまで望んでそれをやったのか。

 そこだけはまだわからない。


『感情変動により解析精度が微低下しています』

 ノアが言う。

「うるさいな」

『深呼吸を推しょうします』

「……わかったよ」


 奏真は一度、長く息を吐いた。


 感情で見失うな。

 今はまだ情報を拾う段階だ。


 怒るのはあとでいい。

 見たあとでいい。


 そう思っても、胸の奥のざらつきは消えなかった。


 その時、少し離れた井戸端から、別の会話が流れてきた。


「勇者様も大変だよなあ」

「何で?」

「仲間に裏切られたんだろ?」

「それで止める側に回ったんだもんな」

「教会の人も“あれは正しい判断だった”って言ってたぞ」

「さすが勇者様だな」


 奏真は、そこでようやく目を閉じた。


 嫌な予感、なんて軽い言葉じゃない。

 もうかなり、形になってしまっている。


 神崎は被害者の顔をして、自分を加害者にしている。


 そういう筋書きが、地上ではもう広がっている。


 目を開けると、セレスがじっとこちらを見ていた。


「奏真」

「……ああ」

「大丈夫じゃない」

「よくわかるな」

「わかる」

「そうか」


 その短い会話だけで、少しだけ呼吸が戻る。


 まだ全部じゃない。

 でも次に拾う言葉で、たぶん決定的な形になる。


 そんな予感が、もう消えなかった。

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