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信じていた仲間に処分された俺、禁忌スキル《奪還の王》で最強になる ~奪われた力も居場所も、今度は全部取り戻す~  作者: 夜天 颯
第三章 帰る者

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62.処理された死

街道沿いをさらに進んだ先に、小さな休憩所があった。


 屋根だけの簡単な造りで、水桶と粗末なベンチが並んでいる。今は人が少なく、荷物を下ろして雑談している旅人が三人と、奥で荷をまとめている老夫婦がいるだけだった。


 奏真たちは少し距離を取って、木立の陰からその様子を見ていた。


「ここなら話が拾えそうだな」

『可能性は高いです』

「便利な返事だなほんと」

『事実です』

「知ってるよ」


 セレスは少し不安そうに周囲を見ていた。


「近い」

「近いな」

「人の声、多い」

「嫌か?」

「……まだ少し」

「なら、無理に出なくていい。ここで待て」

「奏真は?」

「俺が少しだけ近づく」


 今のところ、顔を見られないほうがいい。

 少なくとも、地上の空気を読むまでは。


 奏真はフードを深くかぶり、休憩所の裏手へ回った。

 壁代わりの木材の隙間から、旅人たちの声が聞こえる。


「王都は今、だいぶにぎやかだってよ」

「勇者様関連か?」

「それもあるし、教会の行事も重なってるらしい」

「へえ。まあ勇者様がいりゃ人も集まるか」

「魔王の残党狩りだか何だかも進んでるって話だしな」


 そこまでは、まだいい。


 神崎が勇者として持ち上げられている。

 それは気に入らないが、想像の範囲でもあった。


 問題は、その次だった。


「そういや、前に問題起こした禁忌持ちいたろ」

「ああ、あの裏切り者か」

「勇者様の仲間だったって話の」

「結局、奈落に落ちて死んだんだっけ」

「死んだっていうか、処分みたいなもんじゃねえの」

「危険だったらしいしなあ」


 奏真の指先が、ぴくりと動いた。


 裏切り者。

 奈落に落ちて死んだ。

 処分。


 耳に入ってくる言葉が、一つずつ重い。


 まだ名前は出ていない。

 けれど、“仲間だった禁忌持ち”なんて、自分以外に心当たりはない。


「勇者様も大変だったろうな」

「身内にああいうのがいるとな」

「教会が早めに危険視してたって話も聞いたぜ」

「そりゃ勇者様が正しかったってことだろ」


 その瞬間、奏真の中で何かが一段沈んだ。


 神崎が正しかった。

 教会が危険視していた。

 そして、奈落に落ちて死んだ。


 全部が一本につながり始める。


 自分は、地上で“そういう存在”として片づけられている。


 ただ死んだんじゃない。

 ちゃんと意味をつけられて、処理されている。


「……まじかよ」


 口の中だけでそうつぶやく。


 声にはならなかった。

 まだ感情が形になっていない。ただ、何か冷たいものが胸の奥へ落ちていく感じだけがあった。


 そこへ、奥で話していた老夫婦の会話が重なった。


「にしても怖い話だよねえ」

「何がだ」

「勇者様のそばにいたのに、裏切るような人がいたってこと」

「ああ……でも勇者様が気づいて止めたんだろ?」

「そう。だから今こうして平和なんだってさ」


 平和。


 その言葉が妙に痛かった。


 奏真は一歩だけ後ろへ下がる。

 これ以上聞いても、今はたぶん同じことの繰り返しだ。


 十分だった。


 少なくとも一つ、はっきりした。


 自分の死は“ただの事故”にはなっていない。

 地上ではすでに、物語として処理されている。


 木陰へ戻ると、セレスがすぐに顔を上げた。


「どうだった」

「……最悪寄りだな」

 奏真は短く答えた。


 ノアが表情を変えずに聞く。


『内容を要約できますか』

「できる。あんまりしたくないけどな」


 奏真は木にもたれ、乾いた息を吐いた。


「俺はたぶん、ただ死んだことにされてるんじゃない」

「……うん」

「勇者の仲間にいた禁忌持ちで、危険人物で、裏切り者で、奈落に落ちて死んだ。そういう筋書きになってる」

 セレスの目がわずかに揺れる。


『処理済みの死、という表現が近いです』

 ノアが静かに言う。

「そうだな」

 奏真は苦く笑う。

「死んだことより、“どう死んだか”まで勝手に決められてる感じだ」


 その言葉は、自分の中で思っていたより重く響いた。


 奈落に落とされた。

 それは事実だ。


 でも、その後まで地上で勝手に塗り替えられているとしたら――。


「……嫌な予感が当たり始めてるな」

 奏真は低く言う。

「うん」

 セレスも小さく返した。


 風が吹いた。


 地上の風は奈落よりやわらかいはずなのに、今は少しだけ冷たく感じた。

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