58.最後の門
移動路の出口に近づいたところで、白い扉のような構造が見えた。
両開きに見えるが、完全に閉じている。表面には青い線が走り、中央には円形の認証盤のようなものが埋め込まれていた。
「……門、か」
『上層接続封鎖機構と推定します』
「推定じゃなくて当たりだろ、これ」
奏真が認証盤へ近づこうとした、その瞬間だった。
扉の左右に立っていた柱が、同時に音を立てた。
ひび。
崩れ。
そして内側から現れる人型。
「またかよ!」
現れたのは、白い装甲をまとった門番みたいな守護体だった。
今までより細い。だが、その分だけ動きが速そうに見える。しかも二体。
アリシスが即座に反応する。
門番守護体。二体。
危険度:高。
連携傾向あり。
一体は近接、一体は遠隔補助。
「面倒だな……!」
右の個体が前へ出る。近接型。
左は後方で腕を広げ、青い光の輪を作り始めた。遠隔補助だ。
まずい。
二体連携されると厄介すぎる。
「ノア、後ろの補助型を止められるか!」
『試行します!』
「セレス、援護は無理するな!」
「でも、やる!」
近接型が突っこんでくる。
速い。
前の守護体より細いぶん、直線の踏み込みが鋭い。
奏真は横へ流し、武器を振るう。
だが浅い。外装はやはり硬い。
その瞬間、後方の補助型が青い輪を放った。
近接型の体へその輪が重なり、速度が一段上がる。
「おいおい……!」
次の一撃が速すぎる。
受けたらまずい。奏真は柱の陰へ飛び込んだ。
『後方個体の支援機能、確認』
ノアの光弾が補助型へ飛ぶ。だが、相手も小さい障壁を張って受け流す。
「セレス!」
「うん!」
セレスの放った淡い光が、補助型の足元へ広がった。
大きなダメージじゃない。けれど輪の展開が一瞬遅れる。
それで十分だった。
アリシスが走る。
補助型の発動前硬直:二秒弱。
近接型単独時、右肩接続部に弱点。
「右肩!」
奏真は柱を蹴って飛び出す。
近接型が振り向く。
刃が来る。だが、今はその前より“発動後の戻り”が見えていた。
踏み込み。
刃の振り抜き。
戻りのわずかな遅れ。
そこへ武器を叩き込む。
右肩接続部。
白い装甲がきしみ、青い光がにじんだ。
「よし!」
だが、倒しきれない。
すぐに補助型の輪が再展開される。
『補助の再接続を確認』
「面倒すぎるだろ……!」
なら、先に補助型を落とすしかない。
「ノア、セレス! 一瞬でいい、近接型止めろ!」
『了解』
「やる!」
ノアの光弾。
セレスの細い凍結光。
その二つが重なり、近接型の脚をほんの一瞬だけ止める。
その間に奏真は反転し、後方の補助型へ走った。
補助型は防御輪を展開する。
だが、今度はその流れが見える。
輪の中心。
補助出力の基点。
そこへ《奪還の王》で返せる。
「……ずらせ!」
武器を防御輪へ突き入れる。
青い輪がぶれ、外へ広がるべき力が内へ返る。
補助型の体が一瞬だけ沈む。
「今だ!」
その中心へ、もう一撃。
青い光が割れ、補助型が床へ落ちる。
動きが止まった。
『一体停止確認!』
「残り一体!」
近接型が怒ったみたいに踏み込んでくる。
でももう補助はない。
速いが、見える。
右肩は傷ついた。そこへ力が集まりきっていない。
奏真は正面からではなく、半歩ずれて内側へ入る。
刃が頬をかすめる。
熱い。だが浅い。
そのまま密着するくらいまで近づき、右肩の割れ目へ突き込む。
《奪還の王》が脈打つ。
外装に回っていた防御が止まる。
白い装甲が濁る。
最後に、胸部中核へ刃を押し込んだ。
守護体の青い目が揺れ、体が大きくのけぞる。
そのまま片膝をつき、静かに崩れ落ちた。
終わった。
「……っ、はぁ」
大きく息を吐く。
疲れた。
でも、勝った。
『門番守護体、両方停止確認』
ノアが言う。
セレスも少し息を切らしながら近づいてくる。
「大丈夫?」
「何とかな」
「顔、少し切れてる」
「浅い」
『浅いですが放置は非推しょうです』
「お前、ほんと細かいな」
『必要です』
奏真は苦笑しつつ、最後の門へ向き直る。
認証盤はまだ青く光っていた。
守護体が沈黙した今、そこにあるのはもう“最後の扉”そのものだけだ。
「……開けるぞ」
『はい』
「うん」
奏真は認証盤へ手を置いた。
《奪還の王》が反応する。
扉の中に流れる閉鎖の線。制限の輪。地上へ出るための最後のしばり。
見る。
返す。
そして、開く。
青い光が扉いっぱいに広がった。
重い音とともに、白い門がゆっくり開き始める。
その向こうから、今までにない風が流れ込んできた。
乾いていて、少しあたたかい。
奈落の奥にいた時とは、まるで違う風だった。
「……もうすぐだ」
奏真の声は、自分でも少しだけ震えていた。




