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信じていた仲間に処分された俺、禁忌スキル《奪還の王》で最強になる ~奪われた力も居場所も、今度は全部取り戻す~  作者: 夜天 颯
第三章 帰る者

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57.上へ向かう道

上層移動路は、見た目以上に静かだった。


 青白い光でできた細い通路。

 足を踏み入れても揺れないし、透けているように見えるのに不思議と安定している。壁も床も完全な実体ではないようなのに、ちゃんと歩ける。


「……何回見ても変な感じだな」

『古代移動技術の一端です』

「その説明も慣れてきたな」

『改善努力中です』

「そっちはもういいよ」


 奏真が先頭。

 その後ろにセレス、最後尾にノア。


 順番は自然とそうなった。


 アリシスが、道の安定度や歪みを細かく返してくる。


 進行安定。

 左側寄り推しょう。

 前方、局所的な負荷増大。


 見える。

 だから迷わない。


 前なら、こういう未知の道は足がすくんでいたかもしれない。

 でも今は違う。怖さがなくなったわけじゃない。けれど“どこが怖いか”が見えているぶん、ちゃんと進める。


「大丈夫か?」

 後ろを振り返らずに聞く。


「うん」

 セレスの声が返る。

「……少し、変な感じ」

「変な感じ?」

「上に行ってるのに、落ちるみたい」

「それはちょっとわかる」

『重力感覚と移動情報の不一致です』

「お前は毎回一言多いんだよ」

『補足です』

「頼んでない」


 通路はゆるやかに上へ伸びていた。


 奈落の底から見上げる“上”とは違う。

 今までは、どれだけ手を伸ばしても届かなかった遠さだった。けれど今は、自分の足でそこへ向かっている。


 その事実が、妙に胸の奥をざわつかせた。


 神崎。

 王国。

 教会。

 地上。


 考えないわけにはいかない。

 でも今はまだ、答えより先に感覚が来る。


 戻るんだ、という実感。

 そして、戻った先がもう前と同じ場所じゃないだろう、という予感。


「……奏真」

 後ろから、セレスが小さく呼ぶ。


「ん?」

「地上って、どんな色だった?」

「色?」

「奈落にないもの」


 その問いに、奏真は少しだけ考えた。


 空の青。

 草の緑。

 夕方のオレンジ。

 そういう答えはいくらでも出る。


 でも今、最初に浮かんだのは別のものだった。


「……温度、かな」

「温度」

「ああ。色ももちろんあるけど、奈落と一番違うのはたぶんそこだ。風の感じとか、陽の光とか、そういうの」

「……あったかい?」

「時間による」

「雑」

「説明しづらいんだよ」


 セレスが少しだけ笑う。

 その気配を感じて、奏真もほんの少し口元をゆるめた。


 地上のことをこうやって口にするのは、妙に変な感じだった。

 ついこの前まで当たり前にいた場所なのに、今はずいぶん遠く見える。


『前方、移動路の揺らぎを確認』


 ノアの声で空気が締まる。


 アリシスもすぐ反応した。


 前方三歩、負荷集中。

 一人ずつ通過推しょう。


「止まれ」


 三人が足を止める。


 前方の床が、ほんのわずかに明滅していた。見逃せる程度の揺らぎだ。けれど今の奏真には、それが危ないとわかる。


「俺が先に行く」

『妥当です』

「最近ほんとその言葉ばっかりだな」

『高頻度で』

「もういい」


 奏真は深く息を吸い、一歩踏み出す。


 揺らぎの上を通る瞬間、足元の光が波打つ。

 だが、崩れはしない。数秒だけ耐えればいい。


 抜けた。


「次、セレス」

「うん」


 セレスは少し緊張した顔で歩き出す。

 けれど無理に急がない。そのことに奏真は少しだけ安心した。


 揺らぎを越える。

 最後にノアも静かに通過した。


『問題ありません』

「毎回言うけど、通ったあとに言われても遅いんだよ」

『結果報告です』

「ほんとそういうとこだよな……」


 それでも、三人ともちゃんと越えた。


 その小さな積み重ねが、妙に大事だった。


 進めている。

 ちゃんと。


 通路の終わりが近づくにつれ、空気が少しずつ変わってきた。


 湿り気が薄い。

 風の流れも違う。


 奈落の深部にずっとあった重さが、少しだけ軽くなる。


「……近いな」

『はい。上層接続部まで、残距離は短いです』

「セレス」

「うん」

「地上、たぶんもうすぐだ」

「……うん」


 その返事は、少しだけ不安そうだった。


 無理もない。

 セレスにとって地上がどういう場所だったのか、奏真はまだ知らない。


 でも少なくとも、奈落の底に固定されていた場所よりはましだと思いたかった。


「大丈夫だ」

 自分でも根拠のない言葉だと思う。

「少なくとも、あそこよりは」


 セレスは少しの間黙って、それから小さくうなずいた。


「……うん」


 移動路の先に、かすかな白い光が見えた。


 奈落の青とは違う。

 もっと薄くて、やわらかい色。


 地上に近い光だと、奏真はすぐにわかった。


 帰る。

 その現実が、今はっきり形になり始めていた。

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