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信じていた仲間に処分された俺、禁忌スキル《奪還の王》で最強になる ~奪われた力も居場所も、今度は全部取り戻す~  作者: 夜天 颯
第三章 帰る者

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56.帰ると決めた日

深部制御核の部屋へ戻った時、青い光はさっきより少しだけ強くなっていた。


 完全に目を覚ましたわけじゃない。

 でも、止まっていたものがゆっくり動き始めている。そんな感じがした。


 奏真は補助伝達部品を手の中で転がす。


 小さい。

 なのに、これ一つで奈落の上層移動路がつながるかもしれない。


「ほんと、最後に必要なものって小さいよな」

『機能上の重要度と物理サイズは比例しません』

「そういうとこは妙に正しいな」

『事実です』

「知ってる」


 ノアが制御核の横に立ち、青い線の流れを見ている。

 セレスは少し離れた位置で、静かにこちらを見ていた。


 奏真はその視線を受けながら、ゆっくり制御核へ近づく。


 白い石の表面に青い線が走っている。

 その流れの中に、補助部品が入るべき場所が、今ははっきり見えた。


 アリシスが答える。


 補助伝達部品、適合位置:前方左下。

 接続成功で上層移動路の安定率上昇。


「左下……ここか」


 奏真は膝をつき、部品を制御核の溝へ差し込んだ。


 かちり、と小さな音がした。


 次の瞬間、部屋全体に青い光が広がる。


 床。

 壁。

 天井。

 今まで途切れ途切れだった線が、一気につながるように明るくなる。


「うわっ……!」


 思わず息をのむ。


 制御核の中で流れが回る。

 眠っていた心臓が、ようやく本当に脈を打ち始めたみたいだった。


『補助伝達、正常接続』

 ノアの声が響く。

『上層移動路、再起動可能状態へ移行』


「可能状態、ってことは」

『最後の認証が必要です』

「やっぱり一発では終わらせてくれないか」

『順当です』

「その言い方、ちょっと腹立つな」


 それでも、ここまで来た。


 制御核は起きた。

 道はもうすぐ開く。


 奏真はゆっくり立ち上がり、制御核の正面へ手を伸ばした。


「これで終わりか」

『最後の接続です』

「奏真なら、いける」

 セレスが静かに言う。


 その言葉は短かった。

 でも、妙に重かった。


 信頼。

 そう呼ぶには、まだ少し早いのかもしれない。

 けれど、少なくとも今この場で、セレスもノアも、奏真がやるとわかっている。


 それが少しだけ、胸の奥を熱くした。


 落とされた時、自分には何もなかった。

 神崎に押されて、奈落へ落ちて、理由もわからないまま死にかけた。


 でも今は違う。


 見る力がある。

 返す力がある。

 そして、一緒に進む二人がいる。


 奏真は深く息を吸った。


「……行くぞ」


 制御核へ手を当てる。


 《奪還の王》が強く脈打った。

 核の中の流れが、胸の奥の熱とつながる。


 見える。


 上へ伸びる線。

 途中で止まっている道。

 眠ったままの移動路。

 それを起こすために必要な、最後の認証。


 壊すんじゃない。

 押しこむんじゃない。

 正しい流れへ戻す。


 奏真は目を閉じて、熱を流した。


 制御核が大きく光る。

 次の瞬間、遠くのどこかで重いものが噛み合う音が響いた。


 ごう、と風が走る。


 部屋の奥の壁面に、青い線が縦に伸びていく。

 まるで光の道が、奈落の上へ向かって開いていくみたいだった。


 セレスが息をのむ。

 ノアの目も、わずかに光を強める。


『上層移動路、起動確認』


 その言葉と同時に、壁が左右へ分かれた。


 奥には、青白い光でできた細い通路が伸びている。

 上へ。

 奈落の底から、さらに上へ。


「……開いた」


 思わずそうつぶやく。


 やっと、だ。


 奈落に落ちてから、ずっと下へしかなかった。

 死ぬための底みたいな場所で、初めて“上へ行く道”がちゃんと形になった。


 セレスが一歩前へ出る。


「きれい」

「うん」


 奏真も同じことを思った。


 不思議なくらい、きれいだった。

 押さえつけるための光じゃない。通すための光。戻すための道。


 王国や教会の重い術式とは、やっぱり違う。


『通過可能時間は限定的と推定されます』

 ノアが言う。

「すぐ行ったほうがいいか」

『はい。ただし短時間の準備は可能です』

「わかった」


 奏真は光の道を見つめたまま、小さく笑った。


「……帰れるな」

『正確には、地上へ向かう手段を得ました』

「わかってるよ」


 でも今は、それで十分だった。


 帰れる。

 少なくとも、地上へ向かう道はつながった。


 奏真は奥歯を軽く噛みしめる。


 神崎の理由はまだわからない。

 王国や教会が自分に何をしたのかも、まだ全部は見えていない。

 けれど、もう被害者のまま奈落で終わる気はない。


 戻るためじゃない。

 元に戻るためでもない。


「……取り返しに行く」


 自然と、その言葉が出ていた。


 ノアが静かにこちらを見る。

 セレスも、まっすぐ奏真を見ている。


「今度は落とされるためじゃない。返させるために帰る」


 言ってから、自分でも少しだけ驚いた。


 でも、しっくりきた。


 これが今の自分の“帰る”だ。


 ノアが短くうなずく。


『妥当です』

「そこはもうちょっと気の利いたこと言えないのか」

『改善努力中です』

「だろうな」


 セレスが少しだけ笑う。


 その笑いの向こうで、青い道は静かに上へ伸びていた。


 戻るんじゃない。

 取り返しに行く。


 その意味を初めて、奏真は自分の言葉でちゃんとつかんだ気がした。

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