53. 深部の前で
深部制御核の手前にあったのは、思っていたより静かな区画だった。
広い。
けれど空っぽじゃない。
白い柱が何本も立っていて、その間を細い青い線が走っている。床も壁も傷だらけだが、完全に崩れてはいない。何かを守るための前室みたいな場所だった。
そして、その静けさが逆に不気味だった。
「……嫌な感じするな」
奏真が言う。
『同意します』
ノアも短く返す。
アリシスが反応する。
前方、単独高反応。
危険度:高。
起動待機状態。
「起動待機?」
『侵入者に反応して動く防衛個体の可能性があります』
言い終わるより先に、広間の中央に立つ白い柱の一本がひび割れた。
いや、柱じゃない。
ゆっくりと形が変わる。
白い外装がずれ、その内側から人型の影が現れる。前に戦った守護体に似ているが、こっちは一回り大きい。肩から背中にかけて、刃みたいな板が何枚も重なっていた。
『深部守護体、確認』
ノアの声と同時に、守護体の目の位置に青い光がともる。
次の瞬間、空気が重くなった。
「来る!」
守護体が地面を滑るみたいに突っこんでくる。
速い。前の個体より明らかに上だ。
奏真は横へ跳ぶ。
守護体の刃が床を裂き、白い欠片が飛び散る。
アリシスが走る。
深部守護体。危険度:高。
外装高硬度。
関節部防御強化。
中核は胸部後方寄り。
正面突破、非推しょう。
「後ろか!」
正面からじゃ届かない。
しかも関節まで強化されている。
守護体が次の一撃を放つ。
腕ではなく、背中の刃板が扇みたいに開いて、青い光の刃を飛ばしてきた。
「っ!」
奏真は柱の陰へ飛びこむ。
刃が柱に当たり、白い表面を削った。
重いだけじゃない。遠距離まである。面倒なんてもんじゃない。
『背部展開時、中核露出率上昇』
ノアが即座に言う。
「でも後ろ取れないと意味ないだろ!」
『補助します』
ノアの光弾が守護体の正面へ飛ぶ。守護体はそれを腕で払う。ダメージは浅い。けれど、その瞬間だけ視線がぶれた。
セレスも遅れて小さな光を放つ。
今度は守護体の足元が一瞬だけ凍りつくみたいに鈍った。
「助かる!」
その隙に奏真は柱を蹴って横へ回り込む。
正面からじゃなく、斜め後ろ。
そこへ行きたい。
守護体が気づいて振り向く。
速い。だが、前より見えている。
肩の動き。
背中の刃板が開く前のわずかな収縮。
そこまで見える。
来る。
奏真は一気に懐へ入りこむ。
刃板が開く。
青い光が走る。
でもその瞬間だけ、背中の中心が露出した。
アリシスが示す。
中核直結流路、露出。
「そこ!」
武器を叩き込む。
けれど浅い。白い装甲がきしむだけで、中までは届かない。
「硬っ……!」
『二撃目推しょう!』
ノアの声に、奏真は歯を食いしばる。
一撃では足りない。
でも、次の動きが来る前なら――。
胸の奥の《奪還の王》が脈打つ。
ただ斬るんじゃない。
ここを流れている防御を、ずらす。返す。
武器を押し込んだまま、熱を流す。
守護体の背中の線が一瞬だけぶれた。
白い外装の一部から、青い光が漏れる。
「今だ、セレス!」
「うん!」
セレスの放った光が、そのひびへ正確に刺さる。
守護体の体が大きく揺れた。
『流路乱れ確認!』
ノアの光弾も重なる。
奏真は最後に、ぐっと踏み込んだ。
白い装甲を割り、青い中核へ届く。
守護体の全身がびくっと跳ね、そのまま膝を折るように崩れた。
沈黙。
奏真はしばらく武器を抜けなかった。
息が上がる。腕が震える。けれど、勝ったのはわかる。
「……三人で、倒したな」
その言葉に、ノアがうなずく。
『連携戦闘としては高評価です』
「お前に評価されるとちょっとむずがゆいな」
『改善努力中です』
「そこじゃねえよ」
セレスが少しだけ息をはずませながら近づいてくる。
「今の、ちゃんと合わせられた」
「ああ。お前の一撃、助かった」
「奏真が崩したから」
「ノアもだろ」
『事実です』
「そこで謙遜はしないんだな」
『不要です』
奏真は苦笑して、崩れた守護体の奥を見る。
その先に、さらに深い青い光があった。
制御核は、もう目の前だ。




