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信じていた仲間に処分された俺、禁忌スキル《奪還の王》で最強になる ~奪われた力も居場所も、今度は全部取り戻す~  作者: 夜天 颯
第三章 帰る者

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52. 見え始めた意味

記録保管区画を抜けてから、奏真は自分の視界の変化をずっと意識していた。


 前より、見えている。


 危険な足場。

 魔力の濃い場所。

 隠れた亀裂。

 食べられるもの。


 そういう生き残るための情報だけじゃない。


 今は、それが“何のためにあるか”まで、少しずつ輪郭を持ち始めていた。


 通路の途中に、半分崩れた白い柱があった。

 ただの残がいにしか見えない。けれど、意識を向けるとアリシスが静かに情報を返す。


 補助支柱。

 本義:区画安定。

 現状態:外力破断。


「……区画安定」


 ただ支えるための柱。

 閉じ込めるためでも、攻撃するためでもなく、場所を安定させるため。


 そんな当たり前みたいな意味が、今の奏真には妙に引っかかった。


「何かわかった?」

 セレスが聞く。


「いや……これ、ただの柱じゃないんだなって」

「見れば柱」

「そういう話じゃないんだよ」

『本来用途の認識が進んでいます』

「それだ」


 奏真は柱を見つめたまま言う。


「前はさ、危険か危険じゃないかとか、使えるか使えないかしか見えてなかった。でも今は違う」

『本義解析の進行です』

「ほんと、その言葉好きだな」

『適切です』

「便利だよなあ……」


 セレスが少しだけ首をかしげる。


「本義」

「本来の意味ってことだな」

「……戻す前に、知る」

「そう、それ」


 奏真は少しだけ笑った。


 たしかにそうだ。

 《奪還の王》で返す前に、何がどう歪められているのかを見抜く必要がある。アリシスはそのための眼なんだろう。


 返す力。

 見る力。


 その二つがようやく、ちゃんとつながってきた気がする。


『前方、魔力障害あり』


 ノアの声で意識が戻る。


 通路の先、空気が少しゆらいでいる。見た目は何もないのに、その場所だけ光が曲がって見えた。


 アリシスが反応する。


 歪曲域。

 認識阻害。

 通過可。ただし直進非推しょう。


「認識阻害か」

『視認をずらすタイプの障害です』

「つまり、まっすぐ進んだつもりで外れるってことか」

『はい』


 奏真は目を細めた。


 こういうのは、奈落に落ちたばかりの頃なら確実に引っかかっていた。

 でも今は違う。どこが歪んでいるかが見えるし、流れも感じ取れる。


「少し待て」


 奏真は右手を前に出し、空気のゆらぎへ意識を向けた。


 流れ。

 そこにある不自然な折れ。

 本来の形からずれている線。


 《奪還の王》を使うほどじゃない。

 ただ、通るべき道を見ればいい。


 アリシスが細く示す。


 左斜め、二歩。右へ半歩。直進。


「……ほんとゲームみたいだな」

『ゲームの定義が不明です』

「今は気にするな」


 奏真は言われた通りに歩いた。


 左斜め。

 二歩。

 右へ半歩。

 直進。


 すると、さっきまで見えていたゆらぎが急に後ろへずれた。

 正面の通路は何の問題もない。


「抜けたか」

『はい』

「便利すぎるだろ、これ……」


 セレスがあとに続き、少しだけ感心したように周囲を見た。


「奏真、見え方が変わってる」

「やっぱりそう見えるか」

「前より、迷いが少ない」

「……それはあるかもな」


 迷ってないわけじゃない。

 神崎のことも、地上のことも、まだわからないままだ。


 でも少なくとも、目の前の一歩に関しては前よりずっと迷わなくなっている。


 見えるからだ。


「前は、ただ怖かっただけなんだよな」

 自分でも思い返すように言う。

「水も、暗闇も、魔物も、全部わからなかった。だから怖かった」

「今は?」

「今も怖いよ。けど、“何が怖いか”が見える」


 それはかなり大きな違いだった。


 漠然とした恐怖は重い。

 でも、正体が見えた恐怖は対処できる。


 そのことを、奈落の底でようやく覚えた。


 ノアが一歩先へ出る。


『深部制御核まで、残り距離は短くなっています』

「どれくらいだ」

『二つ先の区画です』

「思ったより近いな」

『危険度は比例して上がります』

「……だろうな」


 簡単に近づけるなら、こんな施設が奈落の底で放置されているわけがない。


 けれど逆に言えば、もうすぐ届く。


 そこまで行けば、上層移動路を起こせる。

 奈落を出るための現実的な一歩に手が届く。


「……行こう」


 奏真はそう言って前を向く。


 見えるものが増えるほど、知らなかったものも増える。

 でも今はそれが怖いだけじゃない。少しずつ、自分の力の意味に近づいている気がしていた。

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