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信じていた仲間に処分された俺、禁忌スキル《奪還の王》で最強になる ~奪われた力も居場所も、今度は全部取り戻す~  作者: 夜天 颯
第三章 帰る者

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51. 古い記録

三分休むと言ったくせに、実際に立ち上がったのは五分後だった。


「増えてるじゃねえか」

『疲労回復を優先しました』

「誰が決めた」

『私です』

「勝手に判断するな」

『最適化です』

「最近ほんとその言葉で全部押し切ろうとするな……」


 そう言いながらも、奏真は否定しきれなかった。


 実際、五分休んだおかげでだいぶ楽になっていた。脇腹の重さも少しましだし、呼吸も整っている。無理をして動いて失敗するよりは、よっぽどいい。


 セレスも壁から背を離して立ち上がる。まだ本調子じゃないが、さっきより足元は安定していた。


「行けるか」

「うん」

「今の“うん”は前より信用していいやつか?」

「少しだけ」

「絶妙に信用しきれない返しするな」

「奏真もよくする」

「……否定できないな」


 部屋を出て、さらに奥へ向かう。


 通路の形がまた変わり始めていた。床は平らに近いが、壁面には崩れた溝や切れた線が増えている。ところどころ、青白い光が弱く明滅していて、古い機械の息みたいだった。


 アリシスが静かに反応する。


 前方、記録保管区画の可能性。

 崩落率:中。

 魔物反応:低。


「記録保管区画?」

『古代施設の記録や補助板が残される場所の可能性があります』

「つまり、何か残ってるかもしれないってことか」

『はい』


 奏真は少しだけ歩調を速めた。


 ここまで来て、今さら好奇心だけで動いているわけじゃない。

 けれど、この施設の記録に触れれば、王国や教会が何を歪めたのか、勇者や封印が本来どういうものだったのか、その断片くらいは見えるかもしれない。


 何も知らないまま落とされるのは、もう嫌だった。


 通路の先には、横長の部屋があった。


 棚。

 壊れた台座。

 壁一面に並ぶ細い板。

 その多くはひび割れ、半分は床へ落ちている。けれど、完全に死んではいないらしい。近づくと、薄く青い文字が浮かんで消えた。


「……図書室みたいだな」

『用途としては近いです』

「図書室って言えばいいのに」

『誤解の余地を残す表現は避けたいです』

「その真面目さ、たまに疲れるな」

『改善努力中です』

「そのくだり便利だなほんと」


 セレスが部屋の奥を見つめていた。


「ここ、少し覚えてる」

「ほんとか」

「うん。前にいた場所より、もっと上……たぶん」


 奏真は一番近い板状の記録へ手を伸ばした。


 触れた瞬間、アリシスが走る。


 記録板。

 表示機能、一部維持。

 内容断片化。

 本義:保全・調停・封圧管理。


「また“本義”か」


 目の前に薄い文字列みたいなものが浮かぶ。

 読める部分と読めない部分がある。完全な文章じゃない。断片だ。


 けれど、その断片の中に、奏真が引っかかる単語があった。


 調停

 循環

 維持

 封圧対象の安全確保


「……安全確保?」


 思わず口に出す。


 ノアも隣へ来て記録板を見る。


『当時の封圧は“危険物を閉じ込める”だけでなく、“対象を守る”機能も持っていた可能性があります』

「今の王国の封印とだいぶ違うな」

『はい』


 王国や教会の封印は、押さえつけるものだった。

 重く、苦しく、従わせるための形。


 けれどこの記録板から感じるものは違う。暴走や逸脱を抑えつつ、対象まで壊さないための仕組み。少なくとも、“人を部品みたいに使う”匂いは薄い。


 奏真は他の板へ目を向ける。


 アリシスが次々に反応した。


 権能接続補助。

 封圧対象保全。

 古代勇者系統――記録欠損。


「……勇者」


 その単語に、空気が少し変わる。


 奏真の頭に、神崎の顔が浮かんだ。


 王国で神のように持ち上げられていた勇者。

 正義の中心。

 皆が信じる役。


 けれど今見ている古代記録は、その“勇者”が今とは違う形だった可能性を示している。


「ノア」

『はい』

「古代勇者って、今の王国が言ってる勇者と同じだと思うか」

『断定は困難です。ただし、同一の概念がそのまま維持されている可能性は低いです』


 短い答えだったが、十分だった。


 やっぱりそうか、と奏真は思う。


 勇者。

 封印。

 教会。

 全部が“今ある形”のまま本物じゃない。


 王国はきっと、元からあった何かを自分たちの都合のいい形に作り変えて使っている。


 そう考えると、神崎のことまで少し違って見えてくる。


 もちろん、落としたのは神崎だ。

 その事実は消えない。

 けれど、あいつが信じていた“勇者の形”すら偽物だったなら――。


「……いや」


 奏真は小さく首を振った。


 今そこまで混ぜるのは危ない。

 理由がわからないまま、都合よく神崎を軽くする気はなかった。


 ただ一つ言えるのは、王国と教会が思っていた以上に深く腐っているってことだけだ。


 セレスが別の板に手を置いた。


「これ、まだ動く」

「読めるのか」

「少しだけ」


 薄く文字が浮かび、すぐに切れた。

 けれど一瞬だけ、奏真にも見えた。


 主系統核――上層移動制御連結

 再起動には認証者との接続が必要


「やっぱり核が先か」

『はい』

「どこまでも面倒だな」

『現状、最短です』

「前向きなのか冷たいのかわからないな」


 奏真は部屋の中央を見回した。


 記録の多くは欠けている。

 でも、その欠けた断片だけでも十分だった。


 ここはただの牢獄じゃない。

 奈落は、ただ捨てるための底じゃない。

 もっと大きなものがここには沈んでいる。


 そして王国や教会は、その上澄みだけを都合よく使っている。


「……絶対、まともじゃねえな」


 ぽつりとこぼすと、セレスが静かにうなずいた。


「うん。たぶん、ずっと」

「お前、やっぱり何か知ってるんだな」

「少しだけ。まだ、霧みたいだけど」

「それで十分だ」


 今の自分たちに必要なのは、全部の答えじゃない。

 まずは出口へつながる確かな線だ。


 奏真は記録板から手を離し、通路の奥へ目を向けた。


「行こう。核まで行けば、もっと見える」

『了解しました』

「うん」


 三人はまた歩き出す。


 古い記録の青い光が背後でかすかに揺れた。

 それはまるで、ずっと沈んでいた真実が、やっと誰かに見つけられたことを静かに知らせているみたいだった。

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