49. 深層守護体
群れの気配を先に感じたのは、アリシスだった。
通路の先。
暗がりの中に、点々と赤い反応が浮かぶ。
小型群体。五体以上。
危険度:中。
正面突破非推しょう。
左壁くぼみ、待避可。
「止まれ」
奏真の声に、ノアとセレスがすぐ反応する。
三人は左壁のくぼみに身を寄せた。
ほんの数秒後、通路の奥を小型の魔物たちが這っていく。鼠に近い形だが、脚が妙に多く、背中が割れていて、その隙間から青黒い膜みたいなものがのぞいていた。
見た目は最悪だ。
でも、今は戦う必要がない。
奏真は息をひそめたまま、通り過ぎる群れを見る。
「……気づかれてないか」
『現時点では』
「よし」
最後の一体が消えるのを待ってから、三人はくぼみを出た。
「前より判断が早い」
セレスがぼそっと言う。
「そりゃ、同じ失敗してたら死ぬからな」
『成長傾向です』
「便利な言い方だな」
『事実です』
「もうわかったって」
少し進むと、通路の空気がまた変わった。
冷たい。
それだけじゃない。空気そのものがぴんと張っているような感じがある。
アリシスが反応する。
前方、高密度魔力反応。
単独。危険度:中上。
移動より待機傾向。
「待ち伏せか」
奏真は武器を握る。
群れじゃない。
単独。それなら、やりようはある。
通路を抜けた先には、小さめの広間があった。
そこだけ床の形が整っていて、壁面には古い柱の残がいが何本か立っている。そしてその中央に、白い鎧みたいなものをまとった人影が立っていた。
「……人?」
思わず言ったが、すぐに違うとわかる。
顔がない。
頭部にあるはずの場所は、白い面でおおわれていて、目も口もない。なのに、こちらを見ている気配だけははっきりある。
アリシスが走る。
古代守護体。危険度:中上。
敵性移行中。
外装硬質。関節部・胸部内部に弱点。
正面打撃効率低。
「守護体、か」
『この区画の防衛役と推定します』
ノアが答えた直後、守護体が動いた。
速い。
白い影がぶれ、次の瞬間には奏真の目の前まで来ていた。
腕を振るう。剣ではない。白い刃そのものを腕から生やしたみたいな形だ。
奏真は反射で受け流し、横へ跳ぶ。
「っ……!」
重い。
見た目以上に、攻撃が鋭い。
守護体はそのまま追撃してくる。
アリシスが次々に弱点を示すが、踏み込みの速さがそれを読む暇すら削ってくる。
「ノア!」
『はい』
青い閃光が守護体の肩口に当たる。
大きなダメージにはならない。だが、わずかに体勢がずれた。
奏真はその隙に柱の影へ回りこむ。
正面からじゃまずい。
外装が硬すぎる。なら、関節か胸の内側だ。
守護体が柱ごと斬り払うように腕を振るう。
奏真は低く身を沈め、足元へ滑りこむ。
関節。
膝の裏。
武器を叩きこむ。白い外装よりは柔らかい。だが浅い。
「足りない!」
守護体が反転し、肘の刃が振り下ろされる。
奏真は転がるようにかわす。
地面に線が走った。床が裂ける。
「おいおい……」
『深部防衛個体としては標準範囲です』
「標準が怖いんだよ!」
セレスが後方から、かすかに光を飛ばした。
強くはない。
でも守護体の視線が一瞬だけそちらへ向く。
「助かる!」
その瞬間、奏真は踏み込んだ。
胸部内部。
アリシスが示す一点へ、斜め下から突き上げる。
白い面の一部が砕けた。
その奥で、青い光がぶれた。
『中核露出、軽度』
「もう一回!」
守護体が振り向く。
今度は真正面だ。逃げきれない。
その瞬間、胸の奥の《奪還の王》が反応した。
見える。
守護体の中の流れ。外装へ回っている防御の流れ。胸部中核へ集まる制御の流れ。
そこへ割り込める。
「……返せ!」
武器を握る手に熱が集まる。
守護体の胸へ突き立てた瞬間、その中を走る流れがぶれた。
防御が止まる。
外装の一部が白く濁る。
「今だ!」
奏真は体重を乗せてもう一段深く押し込んだ。
青い光が大きく揺れ、守護体の動きが止まる。
次の瞬間、全身の白い装甲が細かくひび割れ、そのまま崩れるように膝をついた。
沈黙。
奏真はしばらくその場から動けなかった。
勝った。
しかも今のは、ただ弱点を突いただけじゃない。中の流れをずらして、防御を“返した”。
『戦闘終了を確認』
ノアの声が響く。
奏真は大きく息を吐いた。
「……今の、かなり俺の力っぽかったな」
『肯定します』
「最近そればっかりだな」
『高頻度で適切なためです』
「言い方をひねるな」
セレスが少し遅れて近づいてくる。
「平気?」
「何とか」
「胸、ちゃんと見えてた」
「見えてたな」
「奏真、前より強い」
「それはたぶん、前が弱すぎたんだよ」
『自己評価が低めです』
「ほっとけ」
奏真は崩れた守護体の残がいを見た。
白い装甲。
中核の青い欠片。
そして、さらに奥へ続く通路。
深部制御核までは、もうそんなに遠くない気がした。




