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信じていた仲間に処分された俺、禁忌スキル《奪還の王》で最強になる ~奪われた力も居場所も、今度は全部取り戻す~  作者: 夜天 颯
第二章 奈落の王

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41.ほどける音

中層の拘束は、外側の膜よりずっといやらしい形をしていた。


 手首。

 足首。

 首。

 胸の前。


 一つ一つの光は細い。

 でも、細いからこそ悪質だった。

 無理に引けば切れそうなのに、実際はそう簡単には切れない。力を込める場所を間違えれば、たぶん全部が一気に締まる。


「性格悪い作りだな」


『同意します』


 ノアがすぐに答えた。


 奏真は苦笑する。


「お前、こういう時だけ返事早いよな」


『事実認定が容易です』


「便利だな、その言い方」


 少しだけ気が楽になる。


 けれど次の瞬間には、また意識を集中した。


 笑っていられるのはほんの一瞬だ。

 ここから先はもっと慎重にやらないとまずい。


 アリシスが拘束線を細かく見せる。


 右手首:主拘束。

 左足首:補助連動。

 胸部前面:制御線接続。

 首部:反応抑制。


 奏真は目を細めた。


 単純に手足を押さえてるだけじゃない。

 動きを止める。反応を鈍らせる。制御線へ流す。

 全部つながってる。


「……順番、あるな」


『あります』


「外した瞬間に締まる、とかあるか」


『高確率で』


「だよな」


 だったら、余計に間違えられない。


 奏真は少女――まだ名前も知らないその子の右手首へ視線を向けた。

 細い。白い。

 そこに巻きつく光の輪は、きれいに見えて、ひどく冷たい。


 その手首がずっと動けなかったのだと思うと、胸の奥が重くなる。


 奏真はそっと手を伸ばした。


「……少しだけ、触るぞ」


 言ってから、自分で変な気分になる。

 眠ったままの相手に許可を取っても意味はない。

 でも、黙って扱うのが嫌だった。


 指先が光の輪に触れる。


 冷たい。

 けれどその奥に、もっと冷たい“固定された意思”みたいなものがある。


 アリシスが示す。


 右手首主拘束、解除で全体圧低下。

 ただし胸部前面制御線との連動解除が先。


「……先にそっちか」


 奏真は視線を胸元へ移した。


 少女の胸の前を横切る細い光線。

 見た目は弱そうなのに、そこが全体をまとめている。


 《奪還の王》を意識する。


 壊すんじゃない。

 返す。

 本来つながるべきじゃないものを、元へ戻す。


 その感覚は、前の戦いよりずっと繊細だった。

 魔物相手なら多少荒くても勝てる。

 でも今は違う。少しでも乱暴にやれば、目の前の少女まで傷つける。


 奏真は呼吸を整える。


 ゆっくり。

 流れを見る。

 どこが不自然で、どこを外せば全部が楽になるのか。


 そして、熱を流す。


 胸の前の光線がぴしっと細く揺れた。

 次の瞬間、ぱきん、とガラスがひび割れるみたいな音がした。


 線の一部が薄くなる。


 同時に、少女の肩がほんの少しだけ下がった。


「……っ」


 奏真は息をのむ。


 今の、楽になったのか。


 見た目ではわずかな変化だ。

 でもたしかに、張りつめていた何かが少しゆるんだ。


『連動圧低下を確認』


 ノアの声も、いつもより少しだけ低い。


『継続可能です』


「やる」


 今度は右手首。


 さっきより流れが見えやすい。

 胸の前の制御線が弱くなったぶん、主拘束が単独で浮いて見える。


 奏真は手首の輪へ指先を当てた。


 少女の肌は冷たい。

 長く眠った人の体温だ。


 その冷たさが、妙に胸に刺さる。


「……返すから」


 小さくつぶやいて、熱を流しこんだ。


 光の輪が震える。

 最初は抵抗するようにきしみ、でも次の瞬間、ほどける。


 しゃら、と。


 金属の鎖じゃないのに、鎖が落ちたような音がした。


 奏真は思わず目を見開いた。


「……今の」


『拘束解除音の擬似再現と思われます』


「いやそういう説明は今いらない!」


 思わず返してしまったが、それくらい驚いた。


 音がした。

 たしかに今、“ほどけた音”がした。


 そしてそれは、妙に気持ちよかった。


 ただ壊した音じゃない。

 何かが正しい形へ戻った音。


 奏真の胸の奥で、《奪還の王》がわずかに熱を持つ。


 これだ、と思った。


 これが自分の力だ。


 切ることより、壊すことより、返すこと。

 奪われたものを、元へ戻すこと。


 それがはっきりわかる。


『対象の生命反応、微上昇』


 ノアの言葉に、奏真ははっとして少女を見る。


 変わったようには見えない。

 でも、ほんの少しだけ表情がやわらいだ気がした。


「……まだいけるな」


 奏真は続けて左足首へ手を伸ばす。


 そこから先は、少しだけ早かった。


 胸前の制御線。

 右手首。

 左足首。


 順番がわかると、流れが一気に見えやすくなる。アリシスも細かく補助してくる。何をどこから外せばいいか、前よりずっとはっきりしていた。


 そしてそのたびに、しゃら、しゃら、と小さな音が鳴る。


 鎖が落ちるような、でももっと静かな音。


 その音を聞くたびに、奏真の中の何かが少しずつほどけていく感じがした。


 自分が奈落に落とされたこと。

 神崎のこと。

 王国や教会のこと。


 全部の答えはまだない。

 でも少なくとも今、自分は“奪われたものを返す側”に立っている。


 それが、妙に救いだった。


 最後に、首元の抑制線だけが残る。


 ここが一番まずい。

 アリシスもそう示している。


 首部抑制線。解除時、対象反応変化の可能性。

 慎重操作推しょう。


「……ここが最後か」


『はい』


 奏真は少女の顔を見る。


 近い。

 閉じた目。

 長いまつ毛。

 動かない唇。


 ここまで来たら、あと少しだ。


 奏真は息を整え、そっと首元の線へ手を伸ばした。

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