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信じていた仲間に処分された俺、禁忌スキル《奪還の王》で最強になる ~奪われた力も居場所も、今度は全部取り戻す~  作者: 夜天 颯
第二章 奈落の王

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40.触れられない傷

封圧の膜の前で、奏真はしばらく動かなかった。


 見えている。

 でも、だからこそすぐには触れない。


 ただ切ればいい相手じゃない。

 ただ壊せばいい封印じゃない。

 ここにあるのは、何重にも重なった“しばり”だ。


 隔離。

 拘束。

 接続固定。


 アリシスが見せる言葉の一つ一つが重い。


「……嫌な作りだな」


 奏真は低く言った。


「閉じ込めるだけなら、こんなに重ねない」


『はい』


 ノアもすぐに同意する。


『これは“逃がさない”だけではなく、“使うために留める”構造です』


 その言い方に、奏真はまた胸の奥がざらつくのを感じた。


 人を人のまま置いていない。

 何かの部品みたいに固定している。


「王国のやり方に似てるな」


 半分は独り言だった。


 神崎。

 勇者。

 教会。

 自分。


 全部がつながって見えるわけじゃない。

 でも、こういう“都合よく縛る”感じには見覚えがあった。


 表向きは正しそうに見えて、実際は違う。

 守るふりをして、縛る。

 救うふりをして、使う。


 それをずっと見せられてきた気がする。


「……お前も、こんなふうに使われてたのか」


 眠る少女に向けて、奏真はぽつりと言う。


 返事はない。


 当然だ。

 でも、その静けさが逆につらかった。


 ただ寝てるだけじゃない。

 ずっとここに固定されたまま、目も開けられず、声も出せず、何かに利用されてきた。


 アリシスがまた反応する。


 対象精神反応:微弱。

 外部刺激への応答性、低。

 長期拘束に伴う沈静化傾向。


「……心まで眠らされてるのか」


『その可能性があります』


 奏真は顔をしかめた。


 傷は体だけじゃない。

 目に見える拘束だけじゃなく、もっと深いところまで削られている。


 そこまでわかってしまうから、逆に簡単に手を出せない。


 もし順番を間違えたら。

 もし無理に外したら。

 ようやく残っているものまで壊してしまうかもしれない。


「ノア」


『はい』


「一個ずつ行くぞ」


『推しょうします』


「まず外側。隔離の輪からだ」


 ノアは膜に近づき、青い光を細く伸ばした。


『外層は保全も兼ねています。完全破壊は非推しょう』


「なら切らない。ずらす」


 奏真は目を細める。


 外側の輪は、見た目ほど固くない。

 でも複雑だ。

 閉じ込めるためだけじゃなく、中の少女を“この状態のまま保つ”ための役目も持っている。


 ここを乱暴に壊せば、たぶん中まで影響する。


 だから壊さない。

 外す。

 元の流れから外れてる部分だけを戻す。


 奏真はゆっくり手を伸ばした。


 膜に触れる。


 冷たい。

 けれど、その奥にある“つながり”がはっきりわかった。


 アリシスが道を示す。


 外周右側。補助固定線。

 ここを解けば、全体維持を崩さず層分離可能。


「……そこか」


 胸の奥の《奪還の王》を意識する。


 返す。

 壊すんじゃない。

 ここに足された“不自然なつなぎ”を元へ戻す。


 熱が指先へ流れる。


 膜の一部がかすかに震えた。


 ぱきん、と小さな音。


 光の輪の一か所がほどけ、全体の色がわずかに薄くなる。


『外層分離、確認』


 ノアの声に、奏真は息を吐いた。


「……いける」


 ほんの少し。

 それでも確かな手ごたえがあった。


 壊れていない。

 中の少女にも変化はない。

 ただ、一番外の“閉じ込め”だけが少し弱くなった。


 奏真は肩の力を抜く。


「よかった」


 その言葉は、思っていたより素直に出た。


 自分のためにじゃない。

 この少女のために、ちゃんとほっとした。


『続行しますか』


 ノアが聞く。


 奏真は少しだけ膜の向こうを見た。


 長いまつ毛。

 閉じた目。

 動かない唇。


 こんな状態でも、きれいだな、とぼんやり思う。

 それが余計につらい。


「……やる」


 迷いはなかった。


 どうせ奈落の底だ。

 王国も教会も見ていない。

 だったら、ここでくらいちゃんと“助ける”を選びたい。


 今までの奏真は、支えることはできても、前に出て救う側ではなかった。

 でも今は違う。


 見えているなら、助けたい。

 それが、奈落に落ちてから少しずつ変わってきた自分の本音だった。


 アリシスが次の層を映す。


 中層:拘束。

 手首、足首、胸部に重点固定。

 強制制限比率、高。


「……ほんと、最低だな」


 奏真はもう一度、少女を見た。


 手首をしばる光。

 足首を留める光。

 胸の前で重なる線。


 ただ眠らせてるだけじゃない。

 逃げることも、抵抗することも、何もかも取り上げる形だ。


 その光景に、自分でも驚くくらい、静かに怒りがわいてくる。


「大丈夫だ」


 また、相手に聞こえない声でつぶやく。


「次で、少し楽にする」


 返事はない。


 でも、その言葉は今の奏真に必要だった。

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