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信じていた仲間に処分された俺、禁忌スキル《奪還の王》で最強になる ~奪われた力も居場所も、今度は全部取り戻す~  作者: 夜天 颯
第二章 奈落の王

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39.鎖の中で

白い膜の向こうにいたのは、やっぱり人だった。


 長い髪。

 細い肩。

 うつむいたまま、宙に浮くみたいに固定された体。


 少女だった。


 眠っているようにも見える。

 けれど近づくほど、それがただ眠っているだけじゃないことがわかった。


 細い光の輪が、何重にも少女の体を囲んでいる。

 手首。

 足首。

 首。

 胸元。

 腰。

 やわらかく光っているのに、その全部が“やさしいもの”には見えなかった。


「……これ、封印っていうか」


 奏真は眉をひそめる。


「ほとんど拘束じゃないか」


 ノアが横で静かにうなずいた。


『多重封圧と拘束固定が重なっています』


「そこまでする必要がある相手に見えないけどな」


『現時点では、私も同意見です』


 奏真は膜の近くまで歩み寄った。


 近づくと、少女の顔がよく見える。


 年は自分と同じくらいか、少し下か。

 白い。いや、血の気が薄い。長く光の届かない場所にいたみたいな顔色だった。まつ毛は長いのに、目は閉じたまま動かない。


 そしてその胸のあたりに、細い線が何本も刺さるようにつながっていた。


 それを見た瞬間、胸の奥に嫌なものが走る。


「……使ってたのか」


 言葉が低くなる。


『可能性は高いです』


 アリシスが反応する。


 対象:生体。

 生命活動:極低。

 外層:隔離。

 中層:拘束。

 内層:接続固定。

 長期維持痕あり。


「長期って、どれくらいだ」


『正確な時間は不明です』


 ノアの返答は短い。

 でも、その短さが逆に重かった。


 長い時間、この少女はここにいた。

 目を覚ますことも、動くこともできないまま、何かにつながれ続けて。


 奏真は膜の向こうを見つめたまま、動けなかった。


 自分も落とされた。

 捨てられた。

 危険なものみたいに扱われた。


 でも、これはもっとひどい。


 奈落の底に置き去りにされるんじゃない。

 閉じ込めたまま、使える形に固定されている。


「……ふざけんな」


 ぽつりとこぼれた言葉は、思っていたより冷たかった。


 怒鳴るほど熱くはない。

 でも、静かに腹が立つ。


 こういうのが一番嫌いだ、と奏真は思った。


 人を人として見ないやり方。

 都合のいい“機能”にしてしまうやり方。


 王国も教会も、ずっとそうだった。

 奏真に対しても。

 だから余計に、この光景が胸に刺さる。


「ノア。これ、開けられるんだよな」


『可能です。ただし順序を誤れば対象の損傷確率が上昇します』


「だろうな」


 奏真は深く息を吸う。


 焦るな。

 見ろ。

 ただ壊すんじゃない。返すんだ。


 そう意識した瞬間、アリシスがまた細かく流れ始めた。


 膜の外周。

 その内側の輪。

 さらに奥の固定線。


 何がどこにあるのかはわかる。

 でもまだ全部を一度に理解できるほどじゃない。


「……一気には無理か」


『推しょうしません』


 ノアの声は落ち着いていた。


『外から順に確認してください』


「わかってる」


 奏真は膜にそっと手を近づける。


 触れる直前、ぴりっと小さな痛みが走った。

 弾かれはしない。けれど、簡単に入れていいものでもない。


 アリシスが答える。


 外層:侵入拒否ではなく、維持隔離。

 破壊ではなく解除推しょう。


 奏真はゆっくり息を吐いた。


 壊すんじゃない。

 ほどく。


 そのほうが、自分の力らしい。


 膜の向こうの少女を見ながら、奏真は小さくつぶやく。


「……待ってろ」


 相手は眠っていて、聞こえるはずもない。

 それでも、言わずにいられなかった。


 奈落の底で、長く鎖の中にいた誰か。

 その姿は、今の奏真には見過ごせなかった。

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