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信じていた仲間に処分された俺、禁忌スキル《奪還の王》で最強になる ~奪われた力も居場所も、今度は全部取り戻す~  作者: 夜天 颯
第二章 奈落の王

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38.眠っていた声

橋を越えた先の通路は、今までよりずっと静かだった。


 魔物の気配も、崩落の音もない。

 ただ、青白い光だけが細く流れている。


 そして、その静けさの中に、妙な感覚があった。


「……何だ、これ」


 奏真は足を止める。


 胸の奥がざわつく。

 危険、とは少し違う。

 でも、ただの違和感でもない。


 誰かがいる。

 そんな感じがする。


 アリシスが、これまでとは少し違う反応を返した。


 前方封鎖区画。

 生命反応に類する反応、微弱。

 拘束状態。敵性未確定。


「……生命反応?」


 思わず口に出る。


『感知しましたか』


 ノアの声が静かに重なる。


「何か、いる」


『私も高確率で存在を確認しています』


 奏真は前を見る。


 通路の先には、白い扉のようなものがあった。

 完全な扉じゃない。半透明の膜みたいなものが光の線と重なっていて、その奥がぼんやり見える。


 そしてその向こうに、“何か”がある。


 人、かもしれない。

 少なくとも魔物の気配ではない。


『封圧区画の一種と思われます』


 ノアが言う。


『ただし、通常の危険物保管とは反応が異なります』


「……危険物じゃないってことか?」


『断定はできません』


 それでも、奏真の中ではもう感覚が決まりかけていた。


 これは“物”じゃない。

 誰かだ。


 眠っている。

 あるいは、閉じこめられている。


 そこまで考えた時、胸の奥にわずかな怒りが走る。


 王国も教会も、奈落の底に何を落としてきたのか。

 物だけじゃないのか。


「開けられるか」


『解析します』


 ノアが膜の前へ立ち、青い光を伸ばす。

 それと同時に、奏真もアリシスへ意識を集中した。


 線が見える。

 光の流れ。

 重なった術式。

 封じるための輪と、しばるための輪、そのさらに奥に“つながれた”感覚がある。


 アリシスが返す。


 多重封圧。

 外層:隔離。

 中層:拘束。

 内層:接続固定。

 対象保全状態、極低活動。


 奏真は目を細めた。


「……これ、閉じこめてるだけじゃない」


『はい』


 ノアもすぐにうなずく。


『拘束と接続が併用されています』


「接続?」


『何らかの用途のために対象を固定している可能性があります』


 その言い方に、奏真の顔が険しくなる。


 使うために、閉じこめる。

 その発想があまりにも地上の連中っぽくて、ぞっとした。


 アリシスがもう一度反応する。


 対象:生体。

 敵性反応なし。

 救出可能性、高。


「生きてるのか」


『極低活動ですが、はい』


 奏真は迷わなかった。


「助ける」


 即答だった。


 ノアは少しだけこちらを見る。


『危険の可能性もあります』


「それでもだ」


 ここまで来て、ただ見て通りすぎるなんてできるわけがない。


 奈落の底で、閉じこめられたまま使われている何か。

 それが人ならなおさらだ。


 神崎の理由はまだわからない。

 王国と教会の全部もまだ知らない。

 でも、目の前のこれが“おかしい”ことだけは、もうはっきりしていた。


「ノア、開け方は」


『力任せでは破損リスクが高いです。構造の特定が必要です』


「なら見る」


 奏真は扉――膜の前に立ち、深く息を吸った。


 アリシス。

 見ろ。


 何がどこをしばってる。

 どこからほどけばいい。

 どうすれば壊さずに返せる。


 その瞬間、視界が少しだけぶれた。


 光の線が重なり、何重にも見える。

 外側の輪。

 その下にある細いしばり。

 さらに奥の、何かへつないだ線。


 そして、その中心に――人影。


 長い髪。

 細い体。

 うつむいたまま眠るように固定された少女。


 奏真は息をのんだ。


「……人だ」


 ノアが静かに答える。


『高確率で、はい』


 その瞬間、奏真の胸の奥で何かが強く固まった。


 ただの興味じゃない。

 怒りに近い。

 でもまだ静かな怒りだ。


 自分も落とされた。

 捨てられた。

 危険なものみたいに扱われた。


 でも、ここにいる誰かはもっと長く、もっと深く、こうして閉じこめられていたのかもしれない。


「……返す」


 自然と、その言葉が出た。


 ノアは何も言わない。

 ただ、奏真の横で膜を見つめていた。


 奈落の底のさらに奥で、ずっと眠っていた声。

 その正体が、ようやく目の前に現れようとしていた。

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