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信じていた仲間に処分された俺、禁忌スキル《奪還の王》で最強になる ~奪われた力も居場所も、今度は全部取り戻す~  作者: 夜天 颯
第二章 奈落の王

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37.深いところ

ノアに案内されて進むにつれ、奈落の空気はまた変わっていった。


 今度は、静かすぎる。


 魔物の気配は薄い。

 音も少ない。

 なのに、逆にそれが不気味だった。


「……嫌な感じするな」


『深度が増しています』


「深度って、そんなゲームみたいな言い方する?」


『現在地の表現として適切です』


 奏真はため息をつく。


 でも、たしかに言いたいことはわかる。


 下へ行っている。

 しかも今までとは明らかにちがう層に入っている。


 壁の青い線は少なくなり、代わりに黒っぽい石の面積が増えていた。その石の中を、時々だけ細い光が流れる。まるで壊れかけた血管みたいだ。


 アリシスが反応する。


 区画深度:上昇。

 魔力濃度:高。

 周辺危険度:高。単独生存非推しょう。


「……単独生存非推しょう、ね」


 口に出してから、少しだけ苦笑する。


 前なら、そんな情報を見た時点で足が止まっていたかもしれない。

 でも今は違う。危険が高いなら高いなりに、どう動くかを考える。


 それができるだけでも大きかった。


 通路の先に、大きな縦穴が見えた。


 完全な穴じゃない。

 壁面に足場のようなものがいくつも埋めこまれ、途中に橋みたいな構造が渡されている。かなり崩れているが、元は人が行き来していた場所なのだろう。


「うわ……」


 思わず声がもれる。


 高い。

 いや、深い。


 下を見ても、すぐには底が見えない。青白い光がずっと下まで続いていて、その途中でいくつも途切れている。


『旧移動区画です』


 ノアが言った。


『崩落により安全性は大きく低下しています』


「渡れるのか」


『慎重に進めば可能です』


 慎重に、で済ませる高さじゃないだろ、と内心で思う。


 けれど、進むしかない。


 アリシスが橋の残がいへ向く。


 踏破可能。

 中央部損傷大。右縁移動推しょう。

 強い衝撃、禁止。


「右縁な」


 奏真は呼吸を整えて、一歩目を踏み出した。


 橋は思ったより細い。

 足を置くたび、かすかに軋む音がする。

 下から吹き上がる風が冷たい。


 怖い。

 でも見えている。

 どこが危ないか、どこならまだ耐えるか。


 ゆっくり、右側を進む。


 半分ほど来た時、ふいに下の暗がりで何かが光った。


 赤い。

 目だ。


「っ、ノア!」


『確認』


 次の瞬間、縦穴の下から細長い影が跳ね上がってきた。


 魚みたいな頭に、細い体。

 でも脚がある。しかも四本。水中の生き物と地上の獣を無理やり混ぜたみたいな、気持ち悪い形だった。


 アリシスが一気に情報を返す。


 跳躍型深層魔物。危険度:高。

 視界より魔力反応を追跡。

 腹部軟。背部硬。

 橋上戦、不利。迎撃より回避優先。


「回避!」


 奏真は橋の右端に身を投げる。

 魔物が中央へ飛びついた瞬間、古い橋が大きく揺れた。


『連続二体』


「まだいるのかよ!」


 下の暗がりでもう一つ赤い光が見える。


 橋の上で戦うのはまずい。

 落ちたら終わる。


 だったら――。


「ノア、先行けるか!」


『可能です』


「向こう側まで行って、迎撃位置取ってくれ!」


『了解』


 ノアが軽い動きで前へ走る。

 奏真もその後を追うが、背後で橋がまた大きく揺れる。二体目が飛びついた。


 まずい。

 追いつかれる。


 アリシスが走る。


 右壁面の突起、踏み台可。

 一瞬回避可能。


「――っ!」


 奏真は橋から少しだけ右の壁へ跳んだ。

 足場と言うには小さすぎる突起。でも、一瞬なら乗れる。


 二体目の魔物が橋を食い破るように突っこんできた。

 その勢いのまま中央部を壊し、足場の一部が崩れる。


 奏真はすぐに橋の先端へ飛び戻った。


 危なかった。

 心臓が嫌な音を立てる。


 向こう側へ着地した瞬間、ノアの青い閃光が一体目の横腹へ当たった。魔物の体勢がぶれる。


 今だ。


 アリシスが示す。


 腹部軟。跳躍直後、無防備。


 奏真は低く走る。


 飛びかかってくる魔物の下へ入りこむように動き、腹へ斜めに切り上げた。


 黒い液が散る。

 魔物がひっくり返り、壁へぶつかる。


 そこへ二体目が来る。

 今度は避ける場所が少ない。


 けれど、橋上じゃない。

 足元を気にせず動ける。


「来い!」


 自分でも驚くくらい、声が前に出た。


 魔物が飛ぶ。

 奏真は半歩だけ引き、ノアの光弾が当たる瞬間を見て踏みこむ。


 ぶれた腹。

 その一点へ突きこむ。


 手ごたえ。

 重い悲鳴。


 二体目も地面へ落ちて、そのまま動かなくなった。


 終わった。


 奏真はその場で深く息を吐く。


「……やばかった」


『同意します』


「お前も言うんだな、そういうの」


『状況評価です』


「十分だよ、それで」


 奏真は膝に手をついて呼吸を整える。


 さっきまでの自分なら、あの橋の上で完全に終わっていたかもしれない。

 でも今は、危ないとわかったうえで動けた。壁の突起も、回避の順番も、迎撃の位置も、全部ちゃんと見ていた。


 奈落は深くなるほど危険だ。

 けれど、それでも前へ進めている。


 その事実が、少しだけ嬉しかった。

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