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信じていた仲間に処分された俺、禁忌スキル《奪還の王》で最強になる ~奪われた力も居場所も、今度は全部取り戻す~  作者: 夜天 颯
第二章 奈落の王

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36.見上げた先

戦いのあと、奏真は通路の途中にあった細い裂け目の前で足を止めた。


 そこだけ、上へ続いていた。


 ほんのわずかに。

 ほんとうに、わずかにだけ。


 遥か上に、細い光が見える。


「……あっちが地上、ってわけじゃないんだろうな」


『直通ではない可能性が高いです』


「だろうな」


 そんな簡単なら苦労しない。


 でも、上を見たことで思い出してしまう。


 王国。

 教会。

 神崎。

 紘川。

 レティシア。


 胸の奥が少し重くなった。


「……なあ、ノア」


『はい』


「人ってさ、理由がわからないまま裏切られると、怒るより先に引っかかるもんなのか」


 自分でも変な聞き方だと思った。

 でも、うまく言葉にできなかった。


 怒っていないわけじゃない。

 許せないわけでもない。

 けど、神崎のことを考えると、まっすぐ怒りだけにはならない。


 どうして。

 何を見て。

 何がそこまでさせた。


 その“わからなさ”が、怒りに混ざってずっと残っている。


 ノアは少しだけ沈黙してから答えた。


『私は人の感情構造を完全には理解していません』


「だよな」


『ただし、理解不能な事象に対して思考が留まり続ける傾向は確認されています』


「……つまり、引っかかるのは普通ってことか」


『異常ではない、と表現できます』


 その返事に、奏真は小さく息を吐いた。


 異常じゃない。

 それだけで少しだけ楽になる。


 神崎に押された。

 それは事実だ。


 けれど、その理由がまだわからない。

 王国や教会が関わっていたのかもしれない。神崎自身の何かもあったはずだ。でも、今の自分には全部は見えていない。


 それがずっと、喉に骨が刺さったみたいに残っている。


「……紘川も、レティシアも、何か言いたそうだったんだよな」


 上の光を見たまま、奏真はぽつりとこぼす。


「最近の神崎が変なのは、たぶん俺よりあいつらのほうが見えてた」


 紘川は不安そうだった。

 レティシアは止めたい顔をしていた。


 それでも自分は、最後まで結びつけられなかった。


 神崎が本気で自分を奈落に落とすなんて、思いたくもなかったのかもしれない。


「……馬鹿だな、俺」


『過去の判断を今の情報量で裁定するのは、必ずしも有効ではありません』


「慰めてる?」


『違います。事実です』


「ほんと、そこだけは一貫してるな」


 奏真は苦笑する。


 たしかにそうだ。

 今だからこそ見えるものを、あの時の自分に全部求めても仕方ない。


 でも、もう同じにはならない。


 奈落の底で、少なくとも自分はちゃんと見ようとしている。

 わからないままにしないために。


 アリシスが静かに反応した。


 感情変動により解析精度、微低下。

 呼吸安定化を推しょう。


「……うわ、そこまで出るのか」


 奏真は苦笑しながら、ゆっくり息を吸った。


 感情で精度が落ちる。

 それは厄介だ。けど逆に言えば、落ち着けば見える。


 感情そのものを消す必要はない。

 ただ、飲まれなければいい。


 それも少しずつ覚えていくしかないのだろう。


「今はまだ、全部わからなくていい」


 自分に言い聞かせるようにそう呟く。


「でも、いつかちゃんと見る」


 神崎が何を考えていたのか。

 王国と教会が何をしたのか。

 どうして自分が“危険なもの”扱いされたのか。


 今はまだ答えを持っていない。

 でも、それで終わるつもりはなかった。


 上を向いたまま、奏真は静かに拳をにぎる。


「……返してもらう」


 怒鳴るみたいな言い方じゃなかった。

 ただ、静かに決めた感じだった。


 名誉も。

 信頼も。

 真実も。


 何をどこまで奪われたのか、まだ全部はわからない。

 でも少なくとも、何かを奪われたまま終わるのだけは嫌だった。


『次の行動を推しょうします』


 ノアの声が入りこんでくる。


「わかってる。今は進む」


 奏真は最後にもう一度だけ上の光を見て、それから視線を前に戻した。


 奈落の底で上を見上げるのは、まだ早い。

 戻るためにも、まずは足元を固めるしかない。

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