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信じていた仲間に処分された俺、禁忌スキル《奪還の王》で最強になる ~奪われた力も居場所も、今度は全部取り戻す~  作者: 夜天 颯
第二章 奈落の王

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35.返される力

奈落の通路は、相変わらず油断するとすぐに命を取ってきそうな空気をしていた。


 保全区画を少し離れただけでこれだ。

 青白い光はまだある。けど、管理域の静かさはもう薄い。湿った空気、ぬめる岩、暗がりに何かが潜んでいるような気配。


 奏真は新しく見つけた細身の武器を握り直した。


「……前よりはまし、前よりはまし」


『自己暗示ですか』


「違う。確認だよ」


『似たようなものです』


「うるさいな」


 そう返してから、奏真は少しだけ口元をゆるめた。


 こうして軽口を返せるくらいには、前より落ち着いている。

 奈落の底に落ちてからまだそこまで時間は経っていないはずなのに、自分でも変わってきたのがわかった。


 ただ、その時だった。


 前方の空気が妙に重くなった。


 足を止める。

 ノアも同時に止まる。


 アリシスが反応した。


 生体反応。単独。

 危険度:中上。

 魔力吸収傾向あり。

 接触継続、非推しょう。


「……吸うタイプか」


 言った瞬間、暗がりからぬるりと何かが現れた。


 人型に近い。

 でも近いだけだ。


 背は奏真より少し高い。腕は細長く、指が異様に長い。顔の位置には穴みたいな黒いくぼみがあるだけで、目も鼻も見えない。そのくせ、全身から漂う気配だけは妙に“飢えてる”とわかった。


 影が、ぶれた。


「来る!」


 奏真は横へ飛ぶ。

 次の瞬間、さっきまでいた場所の岩肌に、長い指みたいなものが突き刺さった。


 ぞわっと鳥肌が立つ。


 速い。

 それに、嫌な感じがする。近くにいるだけで、胸の奥の熱が引っぱられるような感覚があった。


『魔力干渉を確認』


 ノアの声が短く飛ぶ。


『直接接触は危険です』


「見ればわかる!」


 魔物がまた距離を詰めてくる。


 アリシスが細かく反応した。


 吸収経路:両前腕。

 中核反応:胸部中央やや下。

 外殻薄。即時破壊困難。

 奪還干渉有効性:高。


 そこで奏真は一瞬だけ目を細めた。


「……奪還干渉?」


 今までの戦いでは、弱点を見て叩いていた。

 けど今回は、アリシスが“どこを壊すか”じゃなく、“どこへ返させるか”を示している。


 魔物が腕を広げる。


 空気がざらついた。

 嫌な吸われる感じが強くなる。


「っ……!」


 奏真は思わず奥歯を噛みしめた。胸の奥の熱――《奪還の王》がわずかに揺れる。


 魔力を持っていかれる。

 でも、その流れが見える。


 腕から来ている。

 胸じゃない。

 まず腕だ。


「ノア! 一瞬だけ止められるか!」


『試行します』


 ノアの手に青い光が集まる。小さな光弾が放たれ、魔物の片腕へぶつかった。


 大きなダメージじゃない。

 でも、ほんの一瞬だけ動きが止まる。


 十分だ。


 奏真は踏み込んだ。


 正面からは行かない。

 半歩右へずれて、吸収の流れが強くなる腕の内側へ刃を滑らせる。


 ざくっと浅く入る。


 その瞬間、魔物の吸収の感覚がぶれた。


 アリシスが走る。


 吸収経路乱れ。

 返流可能。


「……返せ!」


 言葉と同時に、胸の奥の《奪還の王》が強く脈打った。


 さっきまで引っ張られていたものが、逆に戻る。

 いや、戻るだけじゃない。向こうが吸おうとしていた流れそのものを、ひっくり返して押し返す感覚だ。


 魔物の体が大きくのけぞる。


 初めて、悲鳴みたいな声が出た。


「効いた……!」


『継続を推しょう』


「だからその言い方!」


 でも今はありがたい。


 奏真はもう一度踏み込む。


 今度は胸の中央やや下。

 アリシスが示していた中核反応へ。


 魔物は腕を振り上げるが、さっきの返流で明らかに動きが鈍っていた。


 躱す。

 低く入る。

 突き込む。


 武器の先が、ぶにっとした感触を貫いた。


 その瞬間、吸われる感じが消えた。


 魔物の体がぐらりと揺れ、そのまま膝をつくように崩れる。

 まだ動く。けれど弱い。


 奏真は息を整え、一歩だけ下がった。


 見える。

 今はもう、どこを壊すかだけじゃない。どこから奪われていて、どこへ返せば崩れるかが見えた。


「……これが、返されるってことか」


 ぽつりとこぼした次の瞬間、魔物が最後の力で飛びかかってきた。


「まだ動くのかよ!」


 奏真は横へずれつつ、通りすぎざまに首元へ刃を叩き込んだ。


 黒い液が散る。

 魔物は数歩よろめいて、そのまま完全に沈黙した。


 しんと静かになる。


 奏真はその場で肩を上下させながら、死体を見下ろした。


『戦闘終了』


 ノアが近づいてくる。


『新しい戦闘応用を確認しました』


「応用っていうか……今の、変な感じだったな」


 奏真は右手を見た。


 まだ少し熱い。

 《奪還の王》が戦いに入り込んだ感覚がはっきり残っている。


 壊すんじゃない。

 奪われかけた流れを、返す。

 それで相手の形を崩す。


「……ただ斬るより、こっちのほうが“俺の力”っぽいな」


『肯定します』


「お前、最近それしか言ってない気がする」


『簡潔で有効です』


「はいはい」


 奏真は小さく笑ってから、死体へしゃがみこんだ。


 アリシスがまた情報を返す。


 中核残留反応あり。

 小型魔石抽出可。

 可食部なし。


「やっぱ食えないのか」


『残念ですか』


「今は全部ちょっと残念だよ」


 そう返しながら、奏真は魔石を抜き取った。


 脈打つような感覚が掌に伝わる。

 奈落で手に入れたものが、一つずつ増えていく。


 武器。

 魔石。

 見る力。

 返す戦い方。


 そして少しずつ、自分自身も。

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