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信じていた仲間に処分された俺、禁忌スキル《奪還の王》で最強になる ~奪われた力も居場所も、今度は全部取り戻す~  作者: 夜天 颯
第二章 奈落の王

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34.前よりも今

戦いのあと、奏真たちはいったん保全区画まで戻った。


 魔物を倒した高ぶりは少しずつ落ち着いてきたが、その代わりに疲れがどっと押し寄せる。手も足も重い。傷もずきずきする。けれど、気分は不思議なくらい沈んでいなかった。


 勝ったからだ。


 しかも、自分で。


 台に腰を下ろし、奏真は天井を見上げた。


 青白い光が静かに流れている。奈落の底だというのに、この部屋だけは少しだけ時間の流れが違うみたいだった。


「……前よりは、ちゃんと立ててるな」


 ぽつりとこぼれる。


『比較対象は過去の自分ですか』


「そう」


 ノアは少しの間黙ってからうなずいた。


『変化しています』


 短い言葉だった。

 でも、その一言は妙に心に残る。


 変わった。

 少なくとも、落とされる前の自分のままじゃない。


 地上にいた頃のことを思い出す。


 神崎が前に立っていた。

 王国も教会も神崎を勇者として見ていた。

 自分はその後ろで、見えないところを支える役だった。


 それでいいと思っていた。

 そういうものだと思っていた。


 自分が目立つ必要はない。

 前に立つのは、もっと勇者らしいやつがやればいい。自分は足りないところを埋めればいい。そうすれば全体が進む。そう考えていた。


 今思えば、それは楽でもあったのかもしれない。


 決めるのは自分じゃない。

 責任を取るのも前のやつだ。

 自分は見て、支えて、足りないところを埋めればいい。


 でもその結果が、奈落だった。


 知らないまま動いて、知らないまま使われて、最後は知らないまま切り捨てられた。


「……だせえな」


 思わず口に出る。


 自分への悪口だった。


 見えてなかったわけじゃない。

 たぶん、見ようとしてなかった。


 神崎の違和感も。

 紘川の顔も。

 レティシアの言い方も。

 王国と教会の目も。


 全部どこかで引っかかっていたのに、“そこまではしない”と勝手に決めていた。


 その甘さが、今になって胸に残る。


「……でも」


 奏真は右手を開いて、握る。


 今は違う。


 アリシスで見える。

 自分の傷も、魔物の弱点も、術式のゆがみも。

 ノアと話して、王国や教会が持っていたものが“本来の形”じゃないと知った。

 そして何より、自分で戦って、自分で勝った。


 それは小さな差かもしれない。

 でも、前の自分にはなかったものだ。


『何を考えていますか』


 ノアの問いに、奏真は少しだけ考えてから答えた。


「前の俺ってさ、たぶんずっと“後ろでいい”と思ってたんだよ」


『勇者の補助、という立場ですか』


「うん。神崎が前に立って、俺は後ろで支える。そういう形でいいと思ってた。……いや、思いこんでたのか」


 言葉にしてみると、思ったよりしっくりきた。


 あの形は自然じゃなかった。

 都合がよかっただけだ。王国にも、教会にも、たぶん神崎にも。


 そして、自分にも。


 責任を持たなくて済むから。

 前に出なくて済むから。

 見ないふりもできたから。


『現在は異なりますか』


「違うな」


 奏真はすぐ答えた。


「今は、自分で見ないと死ぬ。自分で決めないと進めない。自分で立たないと、ほんとに終わる」


 奈落はわかりやすい。


 厳しい。

 理不尽だ。

 でも少なくとも、見ないまま進める場所じゃない。


 だからこそ、今の奏真には合っているのかもしれないとさえ思う。


 その考えに自分で少し驚いて、苦笑する。


「奈落のほうが合ってるって、最悪だな」


『環境適性の話であれば、現時点では否定できません』


「慰める気ないだろ、お前」


『慰める場面ですか』


「いや、今のはいい」


 奏真は小さく笑った。


 神崎の理由はまだわからない。

 そこは変わらない。


 どうして自分を落としたのか。

 何をそこまで見ていたのか。

 どこから壊れていたのか。


 まだ見えない。


 でも、今の自分なら、いつかちゃんとそこを見に行ける気がした。


 感情だけで怒るんじゃなく、ちゃんと見て、ちゃんと知って、そのうえで返す。


 そのために必要なものを、少しずつ奈落の底で拾い始めている。


「……前よりは、今のほうがましだ」


 自然と、そう口にしていた。


『肯定します』


「ほんと、それ好きだな」


『簡潔です』


「まあな」


 奏真は立ち上がる。


 まだ痛い。

 でも、動ける。


 前の自分なら、ここまで来てもまだ“誰かの後ろ”を探していたかもしれない。

 でも今は違う。自分で前を見て、自分で足を出すしかない。


 その事実を、少しだけ誇ってもいい気がした。


「ノア」


『はい』


「次、行こう」


『どの方向を希望しますか』


「もっと奥。見えるものが増えそうなとこ」


『了解しました』


 ノアはすぐに向きを変えた。


 奏真もその後を追う。


 青白い光の中、奈落の奥へ向かって歩きながら、奏真は胸の奥の熱を静かに感じていた。


 まだ全部はわからない。

 でも、前の自分よりはずっとましだ。


 それだけで、今は十分だった。

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