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信じていた仲間に処分された俺、禁忌スキル《奪還の王》で最強になる ~奪われた力も居場所も、今度は全部取り戻す~  作者: 夜天 颯
第二章 奈落の王

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33.ひとりで立つ

保全区画から少し離れた通路は、また奈落らしい空気に戻っていた。


 青白い光はある。

 けれど、整った管理域の静けさとは違う。ぬめった岩、湿ったにおい、どこから何が出てくるかわからない気配。少し気を抜けば、すぐにでも命を持っていかれそうな感じがある。


『この先は補助区画の外縁です』


 ノアが静かに言った。


『管理域の保護が薄くなります』


「つまり、また魔物が出やすいってことか」


『はい』


 奏真は腰の武器に手をやる。


 前よりまし。

 そう思っても、怖いものは怖い。


 けれど、今はそれでいいとも思う。怖さが消えないからこそ、ちゃんと見ようとする。ちゃんと判断しようとする。


 通路の先で、小石が転がった。


 反射的に二人とも足を止める。


 アリシスが動く。


 生体反応。単独。危険度:中。

 待ち伏せ傾向。上方注意。


「上か」


 奏真が顔を上げるのと、影が落ちてくるのはほぼ同時だった。


 黒い塊。

 猿みたいな体つきだが、腕が長すぎる。皮膚はなく、筋肉の上を黒い膜が薄く覆っているみたいな気味の悪い姿だった。口が大きく裂け、青白い牙が見える。


 奏真は横へ飛ぶ。


 影の魔物が床へ着地した瞬間、石が砕けた。


「っ……!」


 思ったより重い。

 ただ速いだけじゃない。


 アリシスが次の情報を流し込む。


 跳躍型奈落魔物。危険度:中。

 上肢発達。正面打撃高威力。

 左膝部損傷痕あり。可動にぶり。

 連続跳躍前、肩部収縮。


 左膝。

 肩が縮んだら跳ぶ。


 奏真は息を整える。


 魔物は低くうなりながら、四つ足みたいな体勢でじりじり近づいてくる。右へ、左へ、フェイントみたいに揺れて、飛びつく角度を探っていた。


 前より速く見える。

 いや、違う。前より“わかる”から、速くても見失わないだけだ。


 肩が沈む。


 来る。


 奏真は左へ踏み込みかけて、そこで止めた。魔物の跳ぶ角度がわかっている。大きくかわすより、少しだけずらしたほうがいい。


 影が飛ぶ。

 ぎりぎりまで引きつけて、半歩だけ横。


 通りすぎる体に、新しい武器を振り下ろす。狙うのは左膝。


 ざく、と浅い手ごたえ。

 完全には入らない。だが、魔物の体勢が一瞬ぶれた。


「よしっ」


 その言葉に自分で驚く。


 焦りだけじゃない。今の一撃は狙って当てた。


 魔物が着地し、すぐに振り向く。

 裂けた口から低い声を漏らし、今度は真正面から突っこんできた。


 腕が長い。

 まともに振られたら危ない。


 奏真は武器を構えながら、心の中で数える。


 肩。

 腕。

 足。

 左膝のにぶり。


 アリシスがまた動く。


 踏み込み直後、上体開く。胸部中央、一瞬無防備。


「……そこ!」


 魔物の腕をかいくぐるように低く入る。怖い。ほんの少しでも遅れたら頭を持っていかれる。けれど、今は見えている。


 踏み込み。

 上体が開く。

 胸の中央。


 武器を突き上げる。


 金属が肉を割く感触。

 魔物が大きくのけぞった。


 けれどまだ倒れない。

 腕を振り回して反撃してくる。


 奏真はとっさに距離を取るが、肩口をかすめられた。痛みが走る。だが浅い。


『左へ』


 珍しく、ノアが短く言った。


 奏真は迷わず左へ跳ぶ。


 その直後、ノアの放った青い閃光が魔物の顔の横をかすめた。怯んだ。ほんの一瞬だけ。


 十分だ。


 奏真は踏み込む。

 今度は胸じゃない。左膝。


 傷ついた足をもう一度切り払う。


 ぐしゃ、といやな音がして、魔物の体勢が大きく崩れた。

 前のめりになったところへ、最後に頭の付け根を叩き込む。


 鈍い衝撃。

 魔物は二、三度けいれんして、そのまま動かなくなった。


 静かになる。


 奏真は武器を構えたまま、しばらくその場から動けなかった。


 終わった。

 勝った。


 しかも今回は、前みたいな“運よく生き残った”じゃない。

 ちゃんと見て、ちゃんと崩して、ちゃんと勝った。


「……ひとりで」


 思わずそんな言葉が出る。


 もちろんノアの援護はあった。

 でも戦いの中心は、自分だった。


 地上では、自分が前に立つことなんてほとんどなかった。罠を見て、流れを見て、足りないところを埋める。そういう役だった。


 けれど今は違う。


 見て、動いて、勝つ。

 その全部を自分でやった。


 胸の奥が、じわっと熱くなる。


『戦闘終了を確認』


 ノアが近づいてくる。


『損傷は軽微です』


「……今の、かなりでかかったな」


『対象の勝利、という意味ですか』


「そう、それ」


 奏真は息を吐き、武器を下ろした。


「前よりちゃんと戦えた」


『肯定します』


「その言い方、ほんと便利だな」


『事実です』


 その返しに、小さく笑う。


 そして、目の前の死体を見る。


 アリシスがまた反応した。


 筋肉組織、食用非推しょう。

 爪部、素材価値あり。

 魔石小。


「食えないんだな……」


『残念ですか』


「ちょっとだけ」


 素直にそう言うと、ノアはほんのわずかに目を細めた。

 たぶん、まだ笑ってはいない。けど、前より表情が動くようになってきた気がする。


 奏真は魔石だけ回収し、立ち上がった。


 足がまだ少し震えている。

 でも、それは恐怖だけじゃない。戦ったあとの高ぶりも混ざっていた。


 奈落の底で、自分はちゃんと立てるかもしれない。


 そう思えたのは、これが初めてだった。

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