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信じていた仲間に処分された俺、禁忌スキル《奪還の王》で最強になる ~奪われた力も居場所も、今度は全部取り戻す~  作者: 夜天 颯
第二章 奈落の王

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25.見える流れ

通路を進むほど、空気が変わっていった。


 湿った土のにおいはまだある。

 けれど、それだけじゃない。どこか鉄っぽいにおいと、冷たい水の気配。それに、言葉にしづらい“流れ”みたいなものがある。


 見えないのに、わかる。


「……またか」


 奏真は小さくつぶやく。


 目の前の岩壁。

 足元の割れ目。

 奥の暗がり。


 そこにある危なさや、逆に通れる場所が、考える前に頭へ入ってくる。


 左壁沿い進行推しょう。

 中央部、足場もろい。

 前方生体反応あり。


 生体反応。


 その言葉に、奏真は足を止めた。


 暗がりの奥で、何かが動く。

 長い。細い。地面をするように進んでくる。


 青白い光が少し当たって、その姿が見えた。


 蛇みたいな体。

 でも途中にいくつも節があって、その節ごとに短い脚がついている。見るだけでぞわっとする見た目だった。


 その瞬間、アリシスがまた走る。


 節足型奈落魔物。危険度:中上。

 外殻硬質。正面打撃非効率。

 節間部脆弱。頭部下側感覚器あり。

 突進前兆:前部浮上。


「……そこまで出るのかよ」


 思わずそうこぼれた。


 危ない。

 でも、見えている。


 どこが硬いのか。

 どこが弱いのか。

 どう動くのか。


 それが最初からわかっているだけで、恐さの質が少し変わる。


 魔物が頭を持ち上げた。


 来る。


 奏真は反射的に横へ飛ぶ。

 次の瞬間、さっきまでいた場所の岩が砕けた。


「っぶな……!」


 まともに食らってたら終わってた。


 けれど、避けられた。

 見えていたからだ。


 節足の魔物が体をくねらせ、また向き直る。

 今度は距離を取らず、奏真は相手をぎりぎりまで引きつけた。


 怖い。

 でも、前よりはわかる。


 頭が上がる。

 体がしなる。

 そこで、半歩だけずれる。


 すれ違いざまに金具を振り下ろし、節と節のつなぎ目を狙う。


 がつ、と重い音。

 硬い。けれど、さっきの岩を殴った時とは手ごたえが違う。


 魔物が甲高い声を上げて体をよじる。


「そこか!」


 今度は頭の下。

 アリシスが示した感覚器の場所へ叩きこむ。


 節足の魔物は大きくぶれ、そのまま壁へ激突した。


 倒しきれてない。

 でも動きがにぶった。


 奏真は息を整えながら間合いを取り直す。


 勝てるかもしれない。


 その感覚に、自分でも少し驚く。


 奈落の底で、こんな見た目の化け物相手に、“勝てるかもしれない”なんて思える日が来るとは思わなかった。


 魔物がもう一度頭を持ち上げる。

 でもさっきより遅い。体の節の一つから、黒っぽい液体がにじんでいる。


 移動低下。

 核部位未露出。継続戦推しょう。


「推しょう、ね……!」


 わざわざ言うなよ、と心の中で悪態をつく。


 次の突進は読みやすかった。

 奏真は大きく引かず、少しだけ体をずらす。魔物が通りすぎる瞬間、節間部へもう一撃。


 今度は深く入った。


 魔物が大きくのけぞり、床を打つ。

 その勢いで頭の下の殻がずれ、中に黒い結晶みたいなものが見えた。


 核部位露出。


「見えた!」


 奏真は迷わず踏みこむ。


 痛みはある。

 足も重い。

 けど今は動ける。


 金具を両手で握り、露出した黒い結晶へ振り下ろした。


 甲高い音が響く。

 節足の魔物の体がびくっと跳ね、そのままがくがくとふるえたあと、動かなくなった。


 静かになる。


 奏真は肩で息をしながら、その場に立ち尽くした。


「……勝った」


 誰もいない。

 でも、それでもたしかに今のは自分の勝ちだった。


 ただ力で押し切ったんじゃない。

 見て、読んで、狙って、仕留めた。


 その事実が、妙に胸の奥を熱くする。


 魔物の死体に近づく。

 アリシスがまた反応した。


 魔石抽出可。

 外殻一部素材利用可。

 可食部なし。


「食えないのか……」


 ちょっとだけ残念そうに言ってから、自分でも変な気分になって笑いそうになる。


 奈落の底で、魔物が食えるか食えないかを気にしてる。

 でもそれが今の現実だった。


 奏真は黒い結晶――魔石を抜き取る。

 手のひらに乗せると、かすかに温かいような、脈打つような感覚があった。


 その時、通路の先でまた青白い光が走った。


 さっきよりはっきりしている。

 線だ。

 壁の中を流れるみたいに、細い光が奥へ続いている。


「……まだあるのか」


 アリシスが答える。


 制御反応継続。

 人工術式群存在。

 現行王国式と不一致。


 王国式と違う。

 その言葉に、奏真は何となく息をのんだ。


 王国で見てきた結界や封印は、もっと重かった。押さえつけるみたいな圧があった。けど、この先から感じる流れはそれとは違う。もっと静かで、整っていて、無駄が少ない。


 妙な言い方だけど、きれいだと思った。


「……元はこっち、なのか」


 自分でも何を言ってるのかわからない。

 でもそう思った。


 地上で当たり前だと思ってたものが、本当は当たり前じゃなかったのかもしれない。


 勇者。

 教会。

 封印。

 全部。


 そこまで考えて、また神崎の顔が浮かぶ。


 最近の神崎は変だった。

 それはもうはっきりしてる。


 でも、そこから“奈落へ落とす”まで行く理由だけは、まだ見えない。

 もし王国や教会が何か吹きこんでいたとしても、それだけで神崎の手が動くとは思えなかった。


 じゃあ何があった。

 何を見てた。

 何を、そんなに。


「……くそ」


 答えは出ない。


 でも今はそれでいい。

 立ち止まって考えても、ここでは死ぬだけだ。


 奏真は魔石をしまい、光の走る奥へ進んだ。


 その先の壁には、半分埋もれた石板があった。

 中央に細い光の線。周囲には見たことのない文字。触れた瞬間、また情報が流れこむ。


 制御板。低稼働。

 外部認証待機。

 現行術式体系と不一致。


「制御板……」


 指先に、冷たいのにどこか生きているような感触が残る。


 その時だった。


 石板の奥、さらに先の暗がりで、白い何かがふっと動いた。


 人影みたいに細い。

 白い髪か、白い布か。

 気のせいと思うには、はっきりしすぎていた。


「……誰だ」


 思わず声が出る。


 返事はない。

 けれど、その白い影は一瞬だけ止まり、それから奥へ消えた。


 同時に、通路の先で石がかみ合うような小さな音がした。


 ぎ、という音。


 奏真は武器を構え直す。


 罠かもしれない。

 幻かもしれない。

 でも、ただの見まちがいじゃない。


 この奈落の底には、まだ何かがいる。


 捨てられた物だけじゃない。

 動いている何かが。


 そして、それはたぶん、自分が落とされた理由と無関係じゃない。


 そんな根拠のない感覚が、妙にはっきり胸に残った。


 奏真は石板から手を離し、白い影が消えた暗がりをまっすぐ見た。


「……行くしかないだろ」


 その言葉は、自分を押し出すためのものでもあった。


 怖い。

 でもそれ以上に、知りたい。


 何も知らされないまま落とされた自分が、今ようやく“見る側”に近づいている気がした。


 だから進む。

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