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信じていた仲間に処分された俺、禁忌スキル《奪還の王》で最強になる ~奪われた力も居場所も、今度は全部取り戻す~  作者: 夜天 颯
第二章 奈落の王

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プロローグ

この世界には、落ちた者が二度と戻れない場所がある。


 王国の古い記録には、そう書かれていた。


 光の届かない深い穴。

 地の底へ続く裂け目。

 罪人も、異端も、壊れた遺物も、呪われた魔物も、すべてを飲み込んでなお満たされない場所。


 人はそこを、奈落と呼んだ。


 もっとも、その名を口にする者は少ない。


 王国は語りたがらず、教会は沈黙を選ぶ。

 知らないままでいたほうが、民は従順でいられるからだ。


 だから人々は、光の物語だけを信じている。


 王国が剣で民を守り、

 教会が祈りで民を導き、

 勇者が闇を払い、

 聖女が傷を癒す。


 世界はそうやって救われてきたのだと。


 それは、半分だけ本当だった。


 この世界には、魔力が満ちている。


 空気に。

 大地に。

 人の血に。

 遺跡の奥に。

 目には見えなくても、世界のあらゆる場所を流れ続ける力。


 人はそれを術として扱うことを覚えた。

 火を生み、風を操り、傷を塞ぎ、結界を張り、封印を築く。


 それが魔法だ。


 魔法は技術だった。

 知識と訓練で形になり、王国はそれを力として管理し、教会はそれを奇跡として飾った。


 だが、それとは別に。


 選ばれた者にだけ刻まれる力がある。


 生まれ持つ者。

 神託で与えられる者。

 極限で目覚める者。


 人はそれを、スキルと呼んだ。


 個人に宿る固有の力。

 同じように見えて、同じにはならないもの。

 魔法が“学ぶ力”なら、スキルは“刻まれる力”だった。


 そして、その中でもごく一部。

 王国にも教会にも完全には管理できない、世界の理に近い権能がある。


 勇者もまた、そのひとつだった。


 人々は勇者を光と呼ぶ。

 希望と呼ぶ。

 救いと呼ぶ。


 けれど本当の勇者とは、希望のためだけに振るわれるものではない。


 王国が敵と定めたものを討ち、

 教会が異端と定めたものを裁き、

 光の名の下に、都合の悪いものを消していく。


 勇者は救いの象徴である前に、支配を守る剣だった。


 だから王国も教会も、勇者を欲しがった。

 守るためではない。

 従わせるために。


 王国は勇者を王の剣にしたがり、

 教会は勇者を神意の証にしたがった。


 そうして勇者は、正義の名を与えられながら、少しずつ“正しい使い方”を奪われていった。


 本来、力には意味があった。


 守るための剣。

 癒すための祈り。

 留めるための封印。

 救うための光。


 だが王国と教会は、それを支配のために使った。


 守るべき剣は処刑のために。

 癒しの祈りは選別のために。

 封印は隠蔽のために。

 光は従わせるために。


 歪められたのは、使い方だけではない。

 本来の意味そのものだった。


 そして、ごくまれに。


 その歪みに触れる力が現れることがある。


 本来あるべき形を見抜く力。

 奪われたものを取り戻す力。

 上書きされた流れを正し、歪められた権能を本来の意味へ戻す力。


 それは、ただ戻すだけの力ではない。


 返し、正し、そして使う。

 本来、どう使われるべきだったのかという“意味”ごと奪い返す力。


 だからこそ、その力は恐れられた。


 王国にも。

 教会にも。

 勇者という名を掲げる者たちにも。


 その力の前では、偽りの正義も、歪んだ支配も、借り物の光も、いずれ暴かれてしまうからだ。


 人々はそれを祝福とは呼ばない。

 奇跡とも呼ばない。

 支配する側にとって、それはただ恐怖だった。


 だから隠す。

 測る。

 使う。

 そして最後には、捨てる。


 奈落は、そのための場所でもあった。


 深く、暗く、誰にも見られず。

 落ちたものが二度と戻らないはずの場所。


 ——はずだった。


 その日、奈落はひとりの少年を飲み込んだ。


 勇者ではない。

 聖者でもない。

 光の側に立たなかった者。


 王国にも教会にも祝福されず、

 仲間と呼んだ者に背中を押され、

 信じていたものすべてを奪われた少年。


 その胸に刻まれていた名は、希望ではなかった。


 《奪還の王》


 奪われたものを返す王。

 歪められた力を、本来の意味へ戻す王。

 そして、名を持つだけの勇者ではなく、

 本当の意味で人を救う力へ辿り着く王。


 落とされたのは、一人の補助要員ではない。


 王国と教会が最も恐れ、

 この世界が決して捨ててはならなかった王だった。


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