表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
信じていた仲間に処分された俺、禁忌スキル《奪還の王》で最強になる ~奪われた力も居場所も、今度は全部取り戻す~  作者: 夜天 颯
第1章 異世界召喚

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/24

15. 俺がいないと、ここまで来られなかったくせに

大型遠征の朝は、異様なほど静かに始まった。


 王城の門前に荷車が並び、騎士たちが最終点検をしている。神官組は治癒薬を、前衛組は武器を、霧島は測定器具を確認する。誰もが口数少なく、自分の役目を確かめていた。


 奏真は荷車の前で、最後の縄を締め直していた。


 見える。

 どこが緩くて、どこが足りないか。

 長くなった補給路で何が切れるか。

 結界札がどの順で使われるか。


 もう、この感覚に慣れ始めている自分が嫌だった。


「九条」


 神崎が近づいてくる。


「今日……頼む」


 その言い方が、妙に引っかかった。


 勇者としての命令ではない。

 友達としてのお願いでもない。

 もっと曖昧な、依存に近い響き。


「最初からそのつもりで連れて行くんだろ」


 奏真が言うと、神崎は少しだけ苦い顔をした。


「そう聞こえるか」


「聞こえる」


「……ごめん」


 謝られても、もう何が正しい返しなのかわからない。


 門が開き、一行は北東へ向かった。


 王都を離れるほど、地面の質が変わる。石畳から土へ、整備された街道から古い踏み跡へ。遠くには低い丘と、灰緑色の森。その先に、旧ダンジョンの外縁部はあった。


 入口は予想よりも地味だった。


 山肌に半分埋もれた古い石門。

 崩れた柱。

 かつて結界が張られていたらしい痕跡。

 王国の紋章ではない、もっと古く鋭い紋様。


 奏真は一目見てわかった。


「……これ、王国式じゃない」


 霧島がすぐ反応する。


「わかるのか」


「線の組み方が違う。たぶんもっと前の文明だ」


「神官資料と一致するな」


 霧島は測定板を見ながら頷いた。


 騎士たちはあくまで前へ進もうとしたが、入口手前で奏真の足が止まる。


「待って」


 全員が振り返る。


 石門の右柱、その根元。

 半分土に埋もれて見えない位置に、薄い結界線が眠っている。


「そこ、境界が残ってる。踏むと起動する」


「またかよ……」


 朱音が顔をしかめる。


 騎士が慎重に土を払うと、やはり細い術式線が現れた。

 しかも、それだけではない。石門全体へつながっている。


「封印起点だな」


 霧島が低く言う。


「雑に踏めば入口ごと閉じる可能性がある」


 騎士たちの顔色が変わる。


 ここまで来て、まだ中にも入っていない。

 それなのに最初の一歩から奏真頼りだ。


 神崎が小さく息を吐く。


「九条、解除できるか」


 その問いに、奏真は一瞬だけ黙った。


 解除。

 たぶん、できる。


 でも、それはつまり“王国も騎士も神官もできないことを、自分だけがやる”ということだ。


 役に立つほど、処分理由が増える。


 そんな考えが頭をよぎる。

 それでも、ここで止まるわけにもいかない。


「やる」


 奏真は石門の前へ出た。


 指先で線を追う。

 切れているわけではない。

 むしろ逆だ。長い年月で歪み、余計な位置へ流れている。


 本来の順。

 本来の起点。

 本来あるべき閉じ方。


 見える。


「この印、順番に押して」


 神崎、霧島、朱音へ指示を飛ばす。


「神崎は中央。霧島は右上。朱音は左下。俺が起点戻すから、合図で一気に」


「了解」


 神崎は迷わず答えた。


 こういう時の神崎は、やっぱり強い。

 判断の早さも、周囲を動かす力も本物だ。


 だからこそ、その隣に立つ自分の立場が、余計に歪んで見える。


「……今!」


 三人が同時に印を押す。

 奏真は起点へ手を当てた。


 《奪還の王》が熱を持つ。


 崩れかけていた流れが、一瞬だけ本来の順序へ戻る。

 石門が低く唸り、閉じる代わりに静かに左右へ開いた。


 その場にいた騎士たちから感嘆が漏れた。


「開いた……」

「起動させずに?」

「こんな旧式封印を……」


 神崎も息を吐いたあと、振り返って言う。


「助かった」


 その一言は本物だった。

 でも、その直後に騎士団長代理が口にしたのは、こうだった。


「さすが勇者戦闘団だ。初手から安定している」


 その瞬間、奏真の中で何かが冷えた。


 まただ。


 自分が開けた道なのに。

 自分が戻した流れなのに。

 結果は全部、“勇者戦闘団”と“勇者”の枠へ入っていく。


 神崎が何か言いかける。

 でも、結局飲み込んだ。


 その沈黙が、今日はやけに重かった。


 ダンジョン外縁部は、内部に入ってからも厄介だった。


 転移罠の名残。

 封鎖扉。

 誤作動を起こしかけた灯石。

 模擬核より古い警戒術式。


 奏真がいなければ、最初の十歩で止まっていたかもしれない。


「右壁、触るな」

「その床板、二枚飛ばして」

「補助札は青を先、黄色は後」


 言われた通りに動けば進める。

 だから神崎たちも騎士たちも、奏真の声に従うようになっていく。


 そして進めば進むほど、神崎の顔は少しずつ変わっていった。


 最初は純粋な信頼。

 次に焦り。

 そして、なんとも言えない硬さ。


 それに最初に気づいたのは芽衣だった。


 外縁部の休憩地点。

 少し離れた位置で水を飲んでいた芽衣が、神崎を見つめる目に不安をにじませていた。


 神崎は奏真の指示で助かっている。

 それをわかっている。

 わかっているからこそ、苦しそうだった。


 だが、それでも前へ出るのは神崎だ。

 騎士に声をかけられ、報告を求められ、評価を受けるのも神崎。


 その構図が崩れないまま、現実だけが神崎を追い詰めていく。


 そして、外縁部の最後に現れたのは巨大な封印扉だった。


 今までとは格が違う。

 石門全体が古い術式で固められ、周囲の壁にまで連動線が伸びている。


 騎士たちは顔を見合わせた。


「ここは本来、調査対象外のはずだ」

「だが入口が半開きになっている」

「閉じるか、進むか……」


 迷いが広がる中、神崎が奏真を見る。


「九条」


 その声は、もうほとんど確信だった。


 お前が必要だ、と。


 奏真は扉へ近づく。

 触れた瞬間、流れが見えた。


 複雑だ。

 だが、一本だけ異様に強い線がある。


 誰かが後から無理やり上書きしている。

 本来の封印とは違う、別の意志。


「……おかしい」


「何がだ」


 霧島が問う。


「元の封印に、別の術式が被せられてる。たぶん王国側か、教会側の後付け」


「解除できるか」


「できる。でも——」


 でも、それをしたらもっとはっきりする。

 自分がどこまで“見えて”、どこまで“戻せる”のか。


 奏真はほんの一瞬だけ迷った。

 そして、その迷いの中で神崎の視線とぶつかる。


 神崎の目は、助けを求める目だった。

 でも同時に、どこか怯えてもいた。


 ——なんでお前だけ、そこまで見えるんだ。


 そんな声が聞こえた気がした。


「……やる」


 奏真は扉へ手を当てる。


 《奪還の王》が脈打つ。


 後付けの上書き術式。

 不自然に奪われた本来の封印制御権。

 それを、一瞬だけ元へ戻す。


 石門が低く震え、重々しく開いていく。


 その瞬間、騎士たちの間から歓声が上がった。


「開いた!」

「勇者殿の班、すごい……!」


 その声を聞いた時、奏真の中で何かがはっきりと形を持った。


 ああ。

 やっぱり、そうなんだな、と。


 俺がいないと、ここまで来られなかったくせに。

 それでも称賛されるのは勇者で、

 俺はただ“便利な補助”として使われる。


 神崎が悪いとまではまだ言い切れない。

 でも、このままではいずれ絶対に壊れる。


 誰が。

 何が。

 その全部が。


 そして神官長は、外縁部から上がってくる報告を聞いて確信を深める。


 九条奏真は有用だ。

 だが有用すぎる。


 ならば——使い切る前に、処理の線も同時に引いておくべきだ。


 その夜の帳簿に、さらに一行が加えられた。


 ——大型遠征後、処遇再審査。


 誰も知らないところで、裏切りの準備は少しずつ進んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ