表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
信じていた仲間に処分された俺、禁忌スキル《奪還の王》で最強になる ~奪われた力も居場所も、今度は全部取り戻す~  作者: 夜天 颯
第1章 異世界召喚

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/26

11. 笑顔の温度

その日の夜は、妙に寝つきが悪かった。


 処分候補。

 危険性。

 勇者にはまだ伝えるな。


 芽衣から聞いた断片的な言葉が、頭の中で何度も引っかかった。確定ではない。盗み聞きの一部にすぎない。けれど、これまでの扱いを思えば、むしろあまりにも自然な流れだった。


 王国は最初から自分を歓迎していない。

 教会は《奪還の王》を隠した。

 神官長は自分を便利だが危険なものとして扱っている。


 そこに“処分”が入っても、筋は通る。


「……最悪だな」


 暗い部屋の中で、小さく呟く。


 返事はない。

 でも、その静けさが逆に現実味を増していく。


 翌朝、奏真は食堂へ向かう前に一度だけ深呼吸した。

 顔に出すな。

 今できるのは、それくらいだ。


 食堂に入ると、いつも通り神崎が手を上げた。


「九条、こっち」


 その声も、笑顔も、昨日までと変わらない。

 いや、変わらなさすぎた。


 奏真は席につきながら神崎を観察する。

 目の下に薄い疲れ。

 笑っているが、口元だけ少し硬い。

 たぶん向こうも、何かを隠している。


「どうした」


 神崎が首を傾げた。


「いや、ちゃんと寝たのかと思って」


「それはこっちの台詞だろ。お前のほうが顔やばい」


 神崎が笑う。

 その笑顔に、昔の神崎を思い出す。


 教室で気まずい空気になった時、さらっと話題を変えて救ってくれたやつ。

 クラスの中心にいて、でも誰かを露骨に切り捨てたりはしなかったやつ。


 だから、余計にわからない。


 今目の前にいる神崎が、どこまで本当で、どこからが勇者の顔なのか。


「今日も西棟だってさ」


 朱音がパンをちぎりながら言った。


「しかも午後は王都地下の旧訓練区画らしい」


「また旧施設か」


 霧島が嫌そうに眉を寄せる。


「管理が甘い場所に異界人を連れて行くとか、かなり雑だな」


「いや、訓練ってそんなものじゃない?」


 芽衣が言うと、霧島は首を横に振った。


「危険を管理できる範囲に置くのが訓練だ。制御しきれない旧術式が残る場所へ放り込むのは、単なる切り捨て前提の運用に近い」


 その言い方に、数人が小さく黙る。


 神崎が苦笑した。


「朝から言い方が怖いって」


「事実だ」


「お前、それしか言わないな」


 笑いの形にはなったが、奏真の胸には別の意味で残った。


 切り捨て前提。

 霧島はいつも言葉が鋭い。

 でも、今はその鋭さが妙に現実をなぞっている気がした。


 西棟へ向かう途中、芽衣が少し歩調を落として奏真の隣へ来た。


「大丈夫?」


「何が」


「全部」


 その聞き方が芽衣らしくて、少しだけ救われる。


「大丈夫じゃないけど、今は普通の顔してるしかない」


「……やっぱり聞こえたこと、神崎くんには言わないの?」


 昨日の話だ。


 奏真は少し考えてから答える。


「まだ、言えない」


「信じたいから?」


「たぶん」


 芽衣は少しだけ眉を下げた。


「私も、そうかもしれない」


 その言葉が妙に重かった。

 幼馴染の芽衣ですら、もう神崎を“完全には信じきれない”ところまで来ている。


 訓練場では、今日も役割は昨日までと変わらなかった。


 神崎が前。

 朱音が横。

 霧島が後ろ。

 レティシアが治癒。

 奏真は補助。


 わかってはいたが、改めて“固定された”ことを見せつけられると、少しだけ笑いたくなる。


「九条」


 荷物確認をしていると、神崎が近づいてきた。


「今日、地下区画で少し広めの訓練やるらしい」


「らしいな」


「たぶんお前の役目、また増える」


「増える前提なのかよ」


「いや、昨日の感じだと絶対そうなる」


 神崎は苦笑したあと、少し真面目な顔になった。


「……でもさ、お前がいると助かるのは本当だ」


「勇者様にそう言ってもらえると光栄だな」


 少しだけ刺を混ぜると、神崎は言葉に詰まった。


「そういう意味じゃない」


「わかってるよ」


「いや、わかってない顔してる」


 図星だった。


 神崎は周囲を気にして少し声を落とす。


「昨日の神官長との話、気にしてるだろ」


 その一言で、奏真の背筋がわずかに強張る。


「……何を聞いた?」


「いや、聞いたっていうか。お前のスキルについて慎重に扱うべきだって話だろ」


「それだけ?」


 神崎はまたほんの一瞬止まった。

 たったそれだけなのに、その“止まり方”がやけに目につく。


「今は、それだけ」


 また同じ言葉だった。


 今は。


 奏真はその顔を見ながら思う。

 嘘をついているのか。

 全部は言っていないだけなのか。

 あるいは、自分でも整理できていないのか。


 神崎はいつもと同じ笑顔を作った。


「お前が変に警戒されてるの、俺も嫌なんだよ」


 その言葉は、きっと嘘じゃない。

 でも、全部本当でもない気がした。


 笑顔の温度が、少しずつわからなくなる。


 午後、王都地下の旧訓練区画は予想以上に広かった。


 薄暗い石造りの通路。

 等間隔に並ぶ古い灯石。

 ところどころ消えかけた紋様。

 そして壁や床に残る、昔の訓練用結界や疑似魔物術式の痕跡。


 奏真は中へ入った瞬間、嫌な感覚を覚えた。


「ここ、まだ生きてる術式多いぞ」


「わかるのか」


 霧島がすぐ反応する。


「見える。というか、ざわざわする」


「具体性がない」


「こっちだって好きで曖昧なんじゃない」


 前方では騎士が簡易地図を広げて説明していた。


「本日は三班に分かれて旧訓練区画を周回する。目的は索敵、罠看破、緊急時の連携確認だ。中央区画の模擬核には触れるな。まだ安定していない」


 安定していないものを放り込むなよ、と奏真は内心で突っ込む。


 班分けは当然のように神崎班が主軸だった。

 そこへ奏真、霧島、朱音、レティシアが組み込まれる。


 進み始めてすぐ、奏真の違和感は当たった。


 第一通路。

 左壁の紋様が途中で切れている。

 起動はしていないが、触れると反流しそうだ。


 第二通路。

 床の石板が一枚だけ新しい。

 その下に簡易束縛術式。


 第三通路。

 前方の灯石が死んでいるように見えて、内部の魔力だけがまだ残っている。


「止まって」


 今日だけで三度目の声だった。


 神崎たちももう慣れたのか、すぐ止まる。

 騎士たちのほうも、奏真の指摘を無視しなくなっていた。


 結果として、班の進行は驚くほど安定した。


 前衛の戦い。

 霧島の測定。

 レティシアの支援。

 そして奏真の違和感の指摘。


 全部が噛み合っている。


 噛み合っているからこそ、中央区画に着いた時、騎士たちから神崎へ賞賛が集まった。


「さすが勇者殿、班運用が安定している」

「索敵も連携も予想以上だ」

「初期勇者団としては上々ですな」


 神崎は「全員のおかげです」と返していた。

 その言葉自体は本音なのだろう。


 でも結局、受け取る側の認識は変わらない。

 勇者が率いて、勇者がまとめた戦果。


 それを見ていた奏真の胸の奥に、昨日とは少し違う感情が生まれていた。


 羨ましい、ではない。

 嫉妬でもない。


 もっと嫌な、削られる感じだった。


 自分がやったことが奪われるというより、

 自分の立つ場所そのものが、少しずつ“勇者の影”へ押し込まれていく感覚。


 その時、中央区画の灯石が一斉に揺れた。


「……まずい」


 奏真が呟いた瞬間、古い模擬核が勝手に起動する。

 騎士たちが慌てて動く。

 床の紋様が連動し、中央に半透明の狼型疑似体が三体現れた。


「下がれ!」


 騎士の声。

 だが疑似体は本来の想定より明らかに強い。


 神崎が前へ出て受け止める。朱音が横から斬り込み、霧島が妨害、レティシアが補助。形は悪くない。だが一体だけ、模擬核の歪みを受けて不自然に強化されていた。


「神崎、右!」


 奏真が叫ぶ。


 神崎が振り向く。

 だが遅い。


 強化個体が神崎の木剣を弾き、踏み込んでくる。

 その瞬間、奏真は中央模擬核の歪みに目を向けた。


 見える。

 何かが“本来より多く取られている”。


 疑似体へ流れ込む魔力が、必要以上に多い。

 本来の訓練出力を超えている。


 ——奪われている。


 そう理解した瞬間、《奪還の王》が熱を持った。


「戻れ!」


 反射的に踏み込み、中央核へ手をかざす。


 頭の奥が白くなる。

 流れ込んでいた余剰魔力が、一瞬だけ逆流した。


 強化個体の体表が揺らぎ、出力が落ちる。


「今だ!」


 霧島の声。

 朱音が斬り込み、神崎が体勢を立て直して木剣を叩き込む。疑似体は霧のように崩れた。


 残りの二体も騎士の介入で片づく。


 静まった中央区画で、全員の視線が奏真に集まった。


 神崎が息を切らしながら言う。


「今の……お前が?」


「模擬核の余剰を戻した。たぶん」


 霧島が目を細める。


「余剰出力の奪還、か」


 騎士たちは明らかにざわついていた。

 助かった。

 だが、見てはいけないものを見たような空気でもある。


 そして神官長は、その日さらに確信するのだろう。

 《奪還の王》は、やはり危険だと。


 王城へ戻る途中、神崎は何度か奏真を見ていた。


 話しかけたい。

 でも何を言えばいいのかわからない。

 そんな顔だった。


 奏真もまた、何を言えばいいのかわからなかった。


 笑顔の温度が、ますますわからなくなる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ