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第32話 震える勇者/365話 迫り来る不死

 クリスの元に、レジスタンスの隊員は、担架を運んできていた。

 しかし、それに乗せるはずの男が見当たらない。


「総隊長。た、担架の用意ができたのですが……」

「……もう、必要ない」


 クリスは呆然と空を見上げていて、肝心の本人はどこにもいない。

 そこにあるのは、大量の血溜まりと、なぜか上半身裸の隊員が一人だけ。


 担架を置いて隊員は聞いた。


「治った……ということでしょうか」

「……ああ、そうらしい」


 クリスはそう答え、足元の血溜まりを見た。


 彼女はあの直前の光景を思い出していた。

 全身を焼かれ、痛みに耐えかねて泣き喚いているように見えた彼が、最後の力で『交換チェンジ』を発動する光景。


 まるで時間を巻き戻すかのように、炭化した皮膚が再生していった。

 焼け落ちた肉が盛り上がり、やがて彼は無傷の体を取り戻していた。


 長年生きてきたクリスでさえ、その異常な光景には目を疑った。


 その後、将斗はクリスの顔を見た。

 どこか哀しそうな顔をして、それから決意を固めたように、空へ飛び上がっていってしまった。

 その時に隣の隊員の服が奪われていった。


 遠くで、城の近くでルナが立っているのが見えた。

 彼女もまた、祈るように空を見上げていた。


 クリスは彼女の元に向かおうとするも、隊員が指示を待っているのに気づいた。


「すまない。お前たちは持ち場に戻ってくれ。君は……服を借りてこい」

「は、はい!」「はい……」

「失礼ですが、総隊長。一つ、緊急のご報告が」


 担架を持ってきたもう一人の隊員が、深刻な顔でそう言った。


「どうした」

「ご命令通り、王城で戦闘した者達は無事運び終えたのですが……」

「侵入者二名の遺体が……忽然と消えました」

「なんだと……?」


 クリスはその報告に眉をひそめた。

 あの二人の存在は完全に想定外だった。


 誰に仕えているのか。どんな能力なのか。まるでわからない。

 グレンによって倒されたと聞いていたが、消えたということは、死んだふりでもしていたのだろう。


 彼女は少しの間考えてから、拡声器の魔法具を隊員に手渡した。


「誘導はほぼ完了しているが、細かい指示はこれを使え。この後の指示は副隊長に任せる」

「総隊長はどちらに……?」

「私は、玉座の間を見てくる」


 隊員は慌てて止めようとするが、クリスは止まるつもりはなかった。


「私の『隠密』があれば気取られることはない、ヘマはしない」


 あの男が――将斗が飛び立っていく時、クリスは『勝ちの目』が見えた気がしていた。

 だが、侵入者の存在は、それを阻む不確定要素になり得る。

 もし生きているのであれば、何としてでも止めなくてはならない。


「また横槍を入れられては、敵わんからな」


 そう言ってクリスは王城に向かって走り出した。


 駆け抜けて城に向かう途中、ルナとすれ違う。


「……あっ」


 ルナが声を上げたが、クリスは止まるわけにもいかず、風のように走り去った。


「……」


 クリスが横を通り過ぎていくのを見送っていたルナだったが、彼女もまた決心したように立ちあがって、彼女の後を追って()()()()()()()



******************************



 隕石が降り注ぐグラディアの上空で、転生者二人が対峙していた。


 その片方――将斗が雄矢に向けて、一気に加速した。

 降り注ぐ隕石の合間を縫って、一直線に特攻する。


 雄矢も接近を恐れたのか、距離を取ろうと逃げ始めた。


 雄矢は直線的ではなく、上下左右へ縦横無尽に旋回し、将斗の追跡を振り払おうとする。

 しかし、将斗も置いていかれまいと、翻弄されつつもトップスピードで食らいついた。


 借りた黒い革製のジャケットが、風圧でバタバタと激しい音を立てている。

 耐火性があるらしく、直前の攻撃を受けても形を保っていた。


 突如、前方向へ上昇していた雄矢が、急反転して落下する。

 追いかけていた将斗と彼がすれ違う瞬間、雄矢がその手から至近距離で豪火を放つ。

 

 視界が真っ赤になる。

 避ける時間は無駄だから。将斗は避けない。


 熱が全身を覆った。

 瞳が焼き潰れて、視界が真っ暗闇に変わる。

 そして一瞬で全身から、濁流のように溢れ出る火傷の激痛を受けた。


「っが……っ!」

 

 思考が飛びかける。叫んで逃げ出したくなる本能を、気力だけでねじ伏せて抑え込む。

 治るんだから、こんなとこで気を失ってんじゃねぇ、と。


 肌が治っていき感覚が生き返るという未知の体験。

 そして、将斗は目を開いた。


 一瞬で真っ暗になった視界も、徐々に光が戻ってくる。

 ぼやけた空が映し出される。

 はっきりと全てを認識できるようになったところで、将斗は首を振り、雄矢を探した。

 

 下にいる。

 急降下したまま距離を取ろうとしている。

 

 背中から爆発するかのように『浮遊フロート』を発動した。


 雄矢は振り向き、傷一つなく追ってくる将斗に気づいて、驚愕に目を見開いた。

 そして憎たらしいという風に一気に歪めた。


「来るんじゃねぇよ! このゾンビがッ!」

「お前が止まれよ!」


 距離が縮まっていく。


 それもそのはず。

 万が一落下しないように、さらには自分の出した隕石にぶつかってしまわないように調整している雄矢に対して、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()将斗では、出せるスピードの次元が違う。


 将斗は手を伸ばし、逃げる彼の背中に突き刺さるつもりで迫った。


「『防御魔法シールド』!」


 バン! という激しい衝突音。

 脳が揺れた。


 雄矢の周りに展開された防御壁に、思いっきり衝突したのだ。


「ちっ……」


 雄矢が気味悪そうに、へばりついた将斗を見ていた。


 シールドの上に腕を突き立て、体を起こす。


 気づいた。右側の視界が真っ暗になっていた。

 その辺りが棒を突っ込まれて掻き回されているように痛み、眩暈がした。


 目の辺りから落ちた血が、シールドの曲面をボタボタと流れていく。


 将斗の顔の半分は衝突の衝撃で潰れていた。

 脳が浮いているような感覚と共に、顔面の半分を激痛が覆っているのを感じた。

 思考もうまく働かない。

 

 呆然と雄矢を見下ろしていた。

 すると、また体が治っていくあの湿った音が、頭のすぐそばで聞こえた。

 それとともに痛みが引いていく感覚もあった。


 そして、思考もはっきりし始めて、将斗は雄矢を睨みつけた。


 雄矢の目に反射した自分が見えた。


 血まみれで、半分潰れた顔。

 化け物みたいだった。

 確かにこの見た目になっても生きていられるのは、常人には理解できないだろう。


 ルナが迫害されたのも、グレンにバレないよう気にするのも納得がいった。


 この見た目は異常で、怖い。これは使えると、将斗は思った。


 将斗は、腕を振り上げ、シールドを思いっきり叩いた。


 ドン! ドン! 


 この程度では壁は破れない。

 だが、叩き続ける。

 まるで借金の取り立て人のように、無心でひたすら叩いた。


「ハッ……ハハッ……バカが。お前じゃ壊せねぇよ!」

「出てこいよ……っ、雄矢っ、なぁっ!」

「な、何してる、お前……」


 将斗はひたすら叩いた。


 手が裂けた。

 拳から血が出ていた。

 小指が変な方向に曲がり始めていた。

 が、構わずひたすら叩いた。


 きっと素手で壊すことはできない。

 将斗はそれをわかっている。

 だが、雄矢の余裕だったあの顔が、ほんの少しずつの『恐怖』に歪められていくのを見て、止めるという選択肢は無かった。


「壊れねぇんだって言ってんだろ! てめぇ!」


 何か言っている。

 そんなの無視して、ポケットから小型のナイフを取り出す。

 ジャケットに入っていたものだ。

 

 それを思いっきり、シールドへと突き立てる。

 硬すぎるのか、魔法の壁には傷はつかない。


「そんなもん使っても……」


 雄矢がそう呟くが、将斗は無視して何度もナイフを振り上げた。


 突き立てて、突き立てて、突き立てて、突き立てて、突き立てて、突き立てて。


 自分が何をやってるかわからないくらい、将斗は死に物狂いで刺し続けた。


ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン


 金属の破片が飛んでいった。

 ナイフの先端が欠けている。

 関係ない。このまま、刺し続けてやる。


 狂っていることくらい、将斗は自覚していた。

 雄矢の顔は引きつり、シールドの中で後ずさりして、反対側の壁に背中がついていた。


 何か喚いている。

 やめてとかそんなセリフを吐いている。


 まだ足らない。

 喋る余裕があるんだな。

 じゃあ足らない。


 壊れないという自信がまだあるからだ。

 そんな自信を、上書きするほどの恐怖をさせないと。

 

 狂気をもっと見せつけてやらないと。 


 将斗は口角を上げて、血走った目を見開いて、雄矢を見た。

 彼の口の端からヒュッと空気が漏れるのが、見えた気がした。


 これでいい。

 最悪このまま突き抜けた先で、殺す。

 そのくらいの気持ちを持って、ナイフを突き立て続けろ。


――でないと雄矢こいつは怖がってくれない!


「ハハッ! なぁ、出てこいよ! ホラ! 閉じこもってねぇで、出てこいよ! なぁ! なぁ! なぁ! なぁ!!」

「……や、やめろ……」


 ナイフがすっぽ抜けた。

 擦りむけた手のひらの血で滑ったのだ。

 

 もう一度、素手で殴り続ける。

 将斗は考えた。それじゃ足りない、これじゃきっとまだ足りない。

 もっとこいつに、骨の髄まで怖がってもらうためには。


 拳の先から何か折れている音がしているが、治るし痛みも少ないから、止めることはしない。


「開けろって言ってんだろ!? なぁって!」


 爪を突き立て、滑らかなシールドの表面を狂ったように掻きむしる。

 初めは、ただなぞるだけに過ぎなかった。

 だが、だんだんと、指先から電流が走るように痛みが生じ始める。


 ブチッと、肉が裂けるような音がした。

 白い何かが滑って落ちていった。爪だ。


 それでも、将斗は続けた。

 自分の血で赤いラインを球体の表面に何本も描きながら、ガラスを引っ掻くような音を立てて掻きむしり続けた。


「開けろ! 開けろよ! なぁ! 開けろって! なぁ!」


 腕を伝って全身が震える。

 痛いに決まってる。

 馬鹿らしい自傷行為だ。


 ありえない痛みに涙が出てくる。

 それでも続ける自分が気持ち悪すぎて笑ってしまう。

 

 だけどやめない。

 

 これは『彼女』を迎えに来れなかった自分への罰だ。

 その罪滅ぼしだと言い聞かせて、止まらない。

 

「なぁ! ――っ!?」


 将斗の腕が宙を切る。

 突如、シールドが落下し始めた。


 将斗は落下に身を任せて、後を追う。

 雄矢が、恐怖に耐えきれなくなったのか、『浮遊』を解除していた。


 将斗は追いつくと全身で、シールドにしがみつく。

 その下で雄矢が見上げて、震えている口を開いた。


「舐めんなよ……舐めんな! お前なんか怖くねぇ、お前なんか、お前なんかな!」


 まるで自分に言い聞かせているかのように、そう言うと片手を将斗の方に向けた。


「『風刃ウィンドカッター』!!」


 一瞬、将斗は冷たい『面』が、胴体のあちこちを通ったのを感じた。

 あらゆる先端の感覚が消え去っていくと同時に、頭の中が真っ黒に染まる。


 迫り来る無数の不可視の刃が、将斗の全身を軽々と通り抜けて行ったのだ。

 

 口や傷口から赤い液体をドボドボと溢しながら、無数の肉塊が、シールドの外側を滑って転がり落ちていった。



******************************



 雄矢は荒い呼吸のまま、落ちていくそれを見送った。


 体が震えていた。

 ありえない。

 こんな光景、何度でも見たはずなのに。

 雄矢は顔を歪めて、悔しがった。


 悔しい? 何に? そう思った。


 シールドを解除し、再び『浮遊』を発動して、空中に停滞した。


 狂気を孕んだあの生き物を退けることができた。

 だが、全く安心していなかった。


 自信を覆う壁の周りを伝っていた、奴だった物の最後の一つが落ちた。

 その軌跡を追って、下を見て、青い顔をしながら『それ』を睨みつけた。


「化けモンが……」


 散らばったパーツが一点に集まっていく。

 飛び散った血液も巻き込んで、まるで時間を逆再生するかのように形を戻していく。


 そう。あの『不死』はどんな方法で殺しても、()()()()()()()

 

 全てが元通りになっていく。

 元の『渡将斗』の形状に戻ると、再びカッと彼の目が開いた。


 そして上昇を始め出し、雄矢の元に迫ってきた。

 

 雄矢は手を振り上げ考えた。


 どんな魔法でなら対処できる。

 どんな魔法なら止まる。


 どんな魔法なら、こいつは諦めてくれる。


「ぁ、ぁ……!」


 その時、彼は気づいた。

 自分の手が、体がガタガタと震えていることに。

 大した力を持っていない、ただ向かってくるだけの弱者に。この世界で最強の力を持っているはずの自分が、心の底から震えている。


――そんなことあるはずがないのに


 負ける。そう思った。

 全身に鳥肌が走り、雄矢は、


「ああぁ…………来るな……」


 最高速度で逃げた。

 プライドも何もかも捨てて、背を向けた。


「来るんじゃねぇぇぇぇえ!」


 逃げながら、ひたすら魔法を撃ちまくった。


 『火球ファイア』で焼いても、治しながら迫ってきた。


 他の魔法はどうだ。

 使えないものが多すぎる。『ウォーター』の濁流も、『ウィンド』の暴風も、『火炎光線ヒート・レイ』の火柱も、この広大な空中では、避けられてしまう。


 だから、『ライト』で目潰しをした。

 だが、相手はすぐに目から血を流しながら迫ってきた。


 血を流しているのはきっと、目が慣れるのを待つよりも、物理的に潰して治した方が早いからだろうか

 そんな狂った方法をとったと推測してしまった。思えてしまった。

 奴ならやりかねないと、そのくらいの執念で向かってきていると、思ってしまった。

 そのせいで、雄矢の方が震えてしまう。


 他につかえるような魔法はない。

 使えなくても十分だからと、覚えようとしてこなかった。

 そのツケが、ここにきて牙を剥いている。


 あの男にはもう何をしても、止まることはない。

 

 雄矢はそう思ってしまって、空中をただひたすらに、滅茶苦茶に逃げ惑うことしかできなくなった。

 

 逃げて、逃げて、ひたすら逃げた。

 死神の鎌が、常に背中に突き立てられているような気がしていた。

 たった数分の逃走なのに、何十時間という気の遠くなるような時間に感じられた。


 あの転生者は一度生き返ってから、何かが変わった。

 こちらを見る目が、ただの敵を見ていたものだった。

 ただ、悪い奴を見かけたから善人の心で止めてやろう、そんなものに見えた。


 今は違う。あれは獲物を食い殺す側のものだ。捕食者のような鋭さがあった。


 だが……だが、不死でも魔力切れはあるはずだ。

 逃げ続ければ、奴はこの空にいられないはずだ。そう思った。


 そんな呑気な推測はすぐに破られる。


 ――奴は、自分の太もも辺りにナイフを突き立てていた。

 不死の片方――『傷を負えば魔力が回復する』スキルで、魔力を無理やり回復させている。

 

 そんな方法があるか、雄矢は叫んでしまいそうだった。

 思っても実行に移すなんて狂っている。

 なんだこの人間は、なんなんだこいつは。本当に同じ世界から来た人間なのか。雄矢は理解できない事実に顔を引きつらせたまま、逃げ惑うことしかできない。

 

 空を滅茶苦茶に飛び回っても、追跡は終わらない。

 出したことのない速度で飛んでも、影のように喰らい付いてくる。

 

 振り抜け。

 

 街の上空をあらゆるルートで飛び回って、旋回して、加速して、急停止して、急旋回して、急上昇して、加速して、急下降して――。

 そこまでしても、まだいる。


 何をすれば、こいつはいなくなってくれる。


 何をすれば――……


 すると突然、雄矢の目の前を、黒い物が横切る。


「――はっ?!」


 体を捻って回避するも、それは肩口の近くを滑っていき、その辺りに激痛を生じさせた。

 腕先まで痺れるような痛みに、手で押さえた。

 見ると赤く染まっている。


――斬られた…………斬られた?!


 雄矢は顔を歪め、振り返ってそれを見た。


「っ……な、なんで……」


 そこには追ってきた将斗が動きを止め、空中で悠然と停滞している。

 その隣に、黒い剣を携えた赤い髪の王――グレンがいた。


「なんでクソ王子が――?!」


 そこで雄矢は自身の最大のミスに気づき、目が飛び出るほど見開いた。


 ない。


 無い。


 ()()()()()()()()


 雄矢は逃げていた間、追ってくる将斗に恐怖して、気を取られて、『隕石メテオ』の発動を忘れていた。


「あ、あああっ! 嘘だ……そんなっ!」


 咄嗟に周りと頭上を見回すも、火の塊は一つもない。

 あるのは下の方へ、すでに落下している隕石のみ。


 新たな隕石は一つもない。


 だから、グレンが上がってくる余裕が生じたのだ。


 雄矢は頭が真っ白になった。 


 弱者と舐めていた相手に怯え、逃げ惑った。

 それでも強者であるからと、要らないプライドが相手を上回ろうとした。

 そうにか対処しようとした結果、雄矢は自分で自分を追い詰めてしまった。


「流石に、詰みだろ?」


 渡将斗から投げかけられたその冷たい言葉に、雄矢はただ絶望した。



******************************



「遅くなってすまない」

「全然良い。狙ってたとこまで来れたんだ。完璧だ」


 雄矢にプレッシャーをかけ続け、『隕石メテオ』の発動を忘れさせ、攻撃の手を緩めさせる。

 本来はレヴィが上がってくる予定だったが、『全魔掌握マジック・マスター』のおかげで、グレンが代わりに来ることができた。


 あとは二人がかりで雄矢を追い詰めれば良いだけだ。


 見上げても『隕石』はもう降ってこない。

 雄矢の表情は、絶望感に満ちていた。

 わなわなと口を震わせているあたり、諦めているようにも見えた。


「無茶をさせたな、将斗。もう、君があそこまでする必要はない」


 グレンが、痛ましそうな、心配の目を向けてくる。


「まぁ……しなくて済むなら、これで終わりにしたいところだけど」

「時に、その力はなんなんだ? どこから出てきた」

「ええっ? あー……」


 将斗は目を泳がせた。

 この力の説明のためには、まずルナが生きていることから――という長い話になる。

 さらには自分の口から語りたい彼女の意思も尊重しなくてはならないから、勝手に言うことができない。


 将斗は顔を真剣なものに戻して、雄矢を睨んだ。


「グレン。今はあいつを倒すのが先だ」

「そ、そうだな……」


 うまく誤魔化せたようだ。


『ねぇ』


 その時、脳内に声が流れてきた。


『私まだ、何も言われてないけど?』

「あぁ……レヴィ、ごめん」

『生きてるなら生きてるって、言ってほしかったんだけど?』


 レヴィの声が、頭の中で響く。

 その口調は怒っていると言うよりも、安心してくれたのか、どこか優しい。


 将斗は胸が暖かくなるのを感じた。

 

『後でいいから。なんて言うか考えときなさい』

「わ、わかりました」

『……はぁ。とりあえず残りの隕石も処理が終わったわ。雄矢はどういう状態? なんで魔法撃ってこないの?』


 将斗は雄矢を見ていた。

 未だ何もしてこない上に、何かをぶつぶつと虚ろに呟いている。


 グレンに目配せしてみると、彼も状況が飲み込めないようだった。


「何か企みがあるか、混乱しているようにも見える。どちらにしても危険であることには間違いない」


 グレンが剣を構え始めた。


「無闇な接近も危険だ。将斗も気をつけて――」

「じゃあ俺がその剣で切るとか」

「今危険だと言っただろ」


 グレンは雄矢を睨んだまま制してきた。


「いや俺今不死だし、治るし」

「将斗。それじゃ君が――」


 グレンが構えを解いて将斗に迫ってきた瞬間、雄矢がガバッと顔を上げた。

 二人とも喋るのをやめて彼の方を見た。


 彼はゆらゆらと上昇していく。

 虚ろな目をして、雄矢が震えながら口を開いた。


「俺は負けない……!」

「おい、往生際悪いんだよ。いい加減に――」

「俺は負けない……」


 歯をガチガチと鳴らしながら、雄矢はそう言った。


「負けたくない……!」


 その気迫に、何か恐ろしいものを感じて、将斗はグレンの前に出た。

 しかし、グレンに肩を掴まれ引き戻される。

 

「お前らが命懸けで来たから……こんなことになったんだ」


 雄矢は続けた。

 目は血走っていて、もはや正気には見えない。

 その彼の手が天を向いた。


「なら……俺も……賭ければいいんだろ! 俺も、命賭ければいいんだろ!」

「グレン、やばいだろこれ」

「ああ」


 相談の必要もなく、二人は雄矢のもとに迫った。

 一秒でも早く、とどめを。


『二人とも逃げて! あいつ、また!』


 その声に、急停止した。

 脳内に響く、レヴィの悲鳴のような警告。

 

 二人は互いに目を見合わせて、すぐさま後方へ飛んだ。


 将斗はその時見た。

 周囲の靄がかった空気が、雄矢目掛けて一気に集まっていくのを。


「あいつまた暴発させる気かよ……!」


 以前、遠くから広場を見た時の光景に似ていた。

 だが集まる魔力の量が、規模が、あの時のそれとは比べ物にならない。


「どいて!」

「レヴィ?!」


 突然現れたレヴィが、将斗を押し除けてきた。


 彼女は両手を雄矢の方に向け、最大出力の障壁を展開する。


 将斗は咄嗟にグレンの腕を掴み、引っ張った。

 

 前にいるレヴィと背中合わせになりながら、グレンを自分の下方へ。

 三人で一直線に並ぶようにした。



――直後、雄矢の体から、魔力の波が爆発的な速度でもって拡散した。


 その波は、一気に広まり、上空から街全体を飲み込んでいった。

お察しの通り、最終局面です。

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