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第24話 それぞれの戦い

「おいおっさん。大丈夫だったか」

「ああ、変な格好の兄ちゃんか。イテテ」


 レジスタンスの作戦によって強制的に正気を取り戻し、混乱の極みにある避難民の群れの中。

 このファンタジーの街に似つかわしくない、口元だけが露出したヘルメットと白いライダースーツの男が、四十代くらいのおじさんに声をかけていた。


 周りの人々は、そのあまりに異質な男から少し距離をあけ、訝しげな目で彼を見ている。


「変って言うな。とにかくこれ」


 そう言って男がおじさんに手渡したのは、この国の通貨二枚だった。

 

「串焼きの代金だよ、ほら」

「なんだ、律儀だな。今時珍しい」


 おじさんはそれを受け取ると、大事そうに懐にしまった。


「普通のことだろ。貰うもん貰ったんだ、金払うのは当然。会計中におっさんが飛び出してったのはビビったけど」

「驚いたのはこっちだよ、全く」


 おじさんは歩きづらそうに、右足を庇いながらぴょんぴょんと跳ねるように歩いていた。

 さきほどのパニックの際、左足のどこかを痛めたのだろう。


「兄ちゃんは大丈夫だったのか」

「俺はなんとも」


 男は両手を広げて、無傷であることをアピールした。

 ふと男が周囲を見渡すと、周りの人々が彼に向ける目が、「訝しげなもの」から「危ない者を見る警戒の目」へと変わっていることに気づいた。


 男は自分のライダースーツを見て、ため息をついた。


「……流石に浮いてるか」

「それもあるがな。皆、疑心暗鬼になっちまってんだよ」


 おじさんは疲れたように道端の木箱に腰掛けると、重い口を開いた。


「催眠? 魔法? で体は勝手に動き出すわ、元勇者の鈴木雄矢を殺すとかなんとか言う奴もいれば、黒い奴らに煙を吸わされるわで……散々だ」

「でも、あの煙は薬なんだろ?」

「どうだか。アレを信じていいのかすら、俺にはわからねぇ」


 おじさんは男を見上げた。口元しか見えないバイザーの下で、彼がどんな目をしているのか、おじさんには見えない。


「ここはもっと、人に優しい街だったってのによ。元勇者が来てから滅茶苦茶だ。王に逆らえば殺される。税はキツい。隣の奴を蹴散らしてでも金を稼がねぇと、明日の生活もままならねぇ。いつ寝首を掻かれるか、毎日不安でしょうがねぇんだ」


 おじさんは懐の財布を再度取り出し、少ない中身を確認すると、きつく紐を縛って再び懐にしまった。


「昔はみんな助け合ってたよ。兄ちゃんみたいな訳の分からん風体の奴でも、快く受け入れてたさ」


 おじさんは心底疲れたという風に息を吐いた。


「……どうなるんだろうな、この街は。俺たちは何を信じて、誰に縋って生きてりゃいいんだ?」


 ライダースーツの男は口元をキュッと結ぶと、珍しく沈黙した。

 やがて息を吐くと、おじさんの肩に手を置いた。


「……深い闇の中だな」

「闇……?」

「安心しろおっさん。いつか必ず、ピカッと光る奴が現れて、お前らの闇を晴らしてくれるぜ」

「それは……例え話か。いつか来る……ねぇ。明日の生活だって心配だったのによ」


 俯いたおじさんの背中を、男は励ますように叩いた。


「近いうち来るぞ」

「本当か?」

「あぁ! 俺のココに、ビビッときてるからな」


 ヘルメットを横から親指でトントンと叩く。

 きょとんとしているおじさんに、男はヘルメットの下の、白い歯だけを覗かせたニカッとした笑顔を見せると、雑踏の中へと消えていった。



******************************



「渡将斗様」


 レジスタンスの女性が、近くまで来た。

 給仕服を纏っているが、その布地は夜に溶け込むような真っ黒に染め上げられている。


「我々の待機所でレヴィ様をお預かりします。香を焚いておりますので、回復が早くなるかと」

「いいんですか。助かります」

「はい、お運びするのをお手伝いただけますか?」


 将斗は「もちろんです」と頷き、彼女が案内する待機所へ向かった。

 

 レヴィを背負い、広場の端を通り過ぎる。

 視界の端で、広場の中心――『久遠の天蓋』の中で爆発が起きていた。


 爆破は不定期的だ。

 リズムはめちゃくちゃで、見ている側が不安になるようなタイミングで、投げ込まれた特殊な爆弾が雄矢の至近距離で炸裂する。


 雄矢は『防御魔法シールド』の中で、片膝をついて俯いていた。


 クリスはただ雄矢を閉じ込め、餓死を待っているだけではなかった。

 休む暇すら与えないというように、隊員たちに指示を出し、絶え間なく爆弾や弓矢を浴びせ続けている。

 

 久遠の天蓋というものは内部からの攻撃は防ぐが、外部からの攻撃は通すようで、奇妙な光景だった。

 

 自分からは一切の反撃ができない空間の中で、いつ飛んでくるかわからない攻撃に怯えながら『防御魔法シールド』を維持し続けなければならない。

 それは、ただの拘束というよりも精神を削り取る拷問のようだった。あの極限のストレス状態で、果たして三日も精神が持つのかすら怪しい。


 爆弾を投げる隊員たちの目は、深い憎悪に歪んでいた。

 

「こちらです」


 広場から二百メートルほど離れた裏路地に、その建物はあった。

 中から数人の隊員が担架を持って出てくると、レヴィを乗せるよう促された。

 彼女を寝かせると、衛生兵らしき隊員が症状の確認のためか、胸に耳を当てたり、手首の脈を測るなどし始めた。


「体温が急激に低下したせいで意識を失っているようですね。あれだけの魔法を使えばこうもなります」

「え、知ってるんですか」


 それが『氷獄』のことを指す発言だったため、将斗は驚いた。


「はい、玉座の間での情報は、城に忍ばせていた者から聞いておりますので」

「い、いたんだ……」


 あの凄惨な死闘の最中、玉座の間にレジスタンスの耳目が潜んでいたらしい。

 全く気付けなかったが、ルナのような透明化の技術があるのなら、不可能ではないのだろう。


「ですので、将斗様は早くお戻りになられた方がよろしいかと。グレン様は今も戦っておられるとのことでしたので」

「そこまで把握してるんですね……。わかりました。あの、レヴィをお任せしちゃっていいですか?」


 早くグレンの加勢に向かいたいが、レジスタンス内でレヴィとグレンは、クリスたちとは明確に別の派閥だったはずだ。

 互いに不干渉を取り決めていたという話も聞いていたため、彼女を預けていいものか、将斗には判断がつかなかった。


「お任せください。レヴィ様を助けるよう総隊長から指示を受けておりますので」

「あの人が?」


 将斗は、復讐に燃えるクリスなら王族の怪我人など「捨ておけ!」と切り捨てるものだと勝手に考えていたため、面食らった。

 それを察してか、隊員の一人が微笑む。


「あの方は、レヴィ様とは意見こそ食い違っていておりましたが、怪我人を放置することは決してなさいません。お優しいのですよ。……あなたの怪我を治したのも、あの方だったとお聞きしておりますよ」

「そうなんですか?! あとでお礼、言わないと……」


 将斗はそこでハッとして、口を閉ざした。

 のんきに礼を言う暇など、自分にはないかもしれない。

 自分の命のタイムリミットは、三日後の昼だ。チートスキルも奪えていない。

 七日間、雄矢は天蓋の中で監視されたまま閉じ込められている。それでは、神の要求には絶対に間に合わない。


 無理言って、一瞬雄矢に接触させてもらうか。そう考えた。

 しかし、そんなことは可能なのだろうか。もし、何かの隙をつかれ雄矢が逃げ出したりしたら――将斗はそこで思考を打ち切った。


 三千人もの隊員が、今日この日の復讐の為に全てを懸けて準備を積んできたのだ。

 自分の都合で、その邪魔をすることなどできるはずがなかった。


「将斗様?」

「……い、いえ、すみません。ちょっと考えてただけで。とりあえず、レヴィをよろしくお願いします。俺はグレンのところに行きます」

「わかりました。グレン様と交戦している正体不明の者たちについては、こちらも最大限警戒しており、現在戦闘員を向かわせております。どうかお気をつけて」


 将斗は頷くと、小さな寝息を立てているレヴィの青白い顔を少しだけ見つめ、石畳を蹴って走り出した。



******************************



 再び広場の端を通り、王城へ続く大通りへ向かう。

 急がねばならなかった。城に現れたあの謎の男女を放置していれば、グレンが殺されてしまうかもしれない。


 だから、足を止める気はなかった。

 だが、ふと、天蓋の中の雄矢の方へ視線が吸い寄せられた。

 投げ込まれた爆弾の煙が風に流れた一瞬の隙間から、彼の顔が見えた。


「――――……」


 いつの間にか、足が止まっていた。


 今はもう、再び立ち込めた煙に紛れて彼の姿は見えない。

 立て続けに起きる爆風が、もう一度彼の表情を見ることを許さなかった。


「……」

 

 将斗は動けなかった。

 一秒でも早く城に向かうべきなのに、靴底が石畳に張り付いたように足が進まない。


――さっき見えた雄矢の顔。あいつは、笑っていた。

 

 だが、今までの人を見下したような歪んだ笑顔ではない。

 逆転の一手を隠し持っている時の、底意地の悪い勝ち誇った笑顔でもない。


 全てを諦めたような、虚無的で小さな笑みだった。

 そういう顔を、将斗はよく知っている。


 将斗自身が、あの顔をしていた時期がある。

 あの頃、鏡の前で散々見た。

 どうにもならない現実に直面し、全てが終わってしまって、もがく意味もないと悟り……もう、笑うしかなかった時の顔だ。


 いっそ死んで、異世界転生でもしてやるかと、心を病んでいた時の記憶がフラッシュバックする。


「あるのか、何か……?」


 ()()をしなければどうにもならない。

 しかし、それをするのは自らの命すら天秤にかけるような、大きすぎる賭け。 

 そんな『リスクの大きすぎる最悪の何か』を、彼が隠し持っている。そんな確信に近い予感が将斗の背筋を這い上がった。


 もういっそ、やってしまおうか。

 雄矢はそんな破滅的なことを考えているのではないか。


「くそ……っ」


 将斗はグレンのところに行きたかった。

 あの謎の侵入者たちを止めるのが先だ。

 たかが自分の勘みたいなものに惑わされて、立ち止まっている暇はない。


 暇はないのに、やはり動けない。

 最悪の事態が脳裏をよぎり続ける。

 ありえない。『久遠の天蓋』とやらが破られるはずがない。レジスタンスが今日の為に準備してきた絶対の檻だ。

 それが、破られるはずがない。


「ありえない……よな」


 将斗は自分に言い聞かせるように呟くと、重い足を引きずり、走り出した。



******************************



 ルナは王城の正門の陰から、遥か遠くの広場を見つめていた。

 断続的な爆発音が、夜風に乗って重く鳴り響いている。


「皆が戦っているのに、私は何も――」


 ドレスの胸元を強く握りしめ、青い瞳で天を仰いだ。


 空は赤いままだ。


 あの空はいつ終わるのか。

 『赤月』無しで赤く輝き続けているあれに、果たして終わりがあるのかすらわからない。


 せめて日が昇れば、終わりが来るのだろうか。


「皆、どうか生きて……」


 戦う力を持たない彼女は、ただ手を合わせ、祈ることしかできなかった。

 国中で戦う者たちへ。そして、この城の最上階でたった一人で戦う、最愛の人へ。

 ただひたすらに、何事もなく終わることを祈り続けた。



******************************



「下がっていろ!」


 グレンは、加勢に駆けつけたレジスタンスの精鋭たちへ鋭く指示を飛ばした。

 玉座の間のあちこちに、黒服の彼らが血を流して倒れ伏している。


 対峙していたのは、侵入者の謎の女。

 流麗にして致命的な独自の体術で戦う彼女の前に、レジスタンスの腕利きたちですら、文字通り手も足も出なかった。


 対等に打ち合えるのは、この場でグレンただ一人。


「無駄足だったね、君たち」


 瓦礫に腰掛け、死闘の最中だというのにだらだらしている謎の男は、手を頭の後ろに組んで仰向けになり、呑気に赤い夜空を見上げていた。


 グレンは男目掛けて一直線に走り出すが、顔面の横から女性の鋭い手刀が突き刺さる。

 間一髪で躱し、その白く細い腕を掴んで床に叩きつけようとするも、女性が羽のように大きく飛び退いて失敗した。

 女性は着地したその瞬間、足元の石造りの床が爆発するように踏み抜き、一足飛びでグレンの懐へと迫る。


「シッ――」


 呼気と共に放たれた女性の拳が、グレンの顔面に迫る。


「っ?!」


 だが、驚いたのは女の方だった。

 刹那、グレンは受けるはずだった拳の力を利用するように、滑らかな体捌きで回転し、その勢いのまま女性の無防備な脇腹を重い蹴りで薙ぎ払った。


 完璧な一撃。吹き飛ばされた女性が地面を跳ね、壁に深いヒビを刻みながら激突する。


 地面に崩れたのち、素早く立ち上がった彼女は、美しい額から血を流しながら、荒い呼吸で肩を上下させながらグレンを見た。


「大丈夫〜?」


 謎の男の方は、相変わらず能天気に声をかける。


「大丈夫にっ! 見えますか?!」


 女性は吠えるように叫ぶと、再びグレンに肉薄し、手刀と拳、蹴りを織り交ぜた暴風雨のような連撃を浴びせてくる。だが、グレンはその全てを紙一重で見切り、捌いていた。


「少しは! 手伝ってください!」

「ムリムリ、戦いにすらならないよ」

「そんなこと言っ――ぐっ」


 二人の会話の一瞬の隙を突き、グレンの剛拳が女性の腹を深々と打ち抜いた。

 くの字に折れ曲がった女性の体が、謎の男の方へ向かって吹き飛ぶ。

 女性は男の手前で空中で身を翻し、着地して体勢を立て直した。

 血の混じった唾を床に吐き捨てると、再び拳法のような構えをとる。

 

 彼女の白い肌には小さな傷がいくつも増え、チャイナ服の深いスリットから覗く脚にも細かい擦り傷が付いて痛々しい。

 だが、男は特になんとも思っていないのか、表情一つ変えず、ただ女性に声をかけた。


「その格好だからじゃないのかな?」

「……ああいう、真っ正面から強いタイプにはこれしか通用しません」

「ふーん。鈴木雄矢から聞いてた話じゃ、弱いって話だったんだけどね」

「どこがですか」


 女性は額の血を指で拭いながら、フッと笑うと目を細めた。


「あの人……かなりの上澄みですよ。スキル・魔法抜きならトップって言っても過言ではないです」

「よく喋るな。今すぐ、あの空を元に戻せ」


 グレンは、そう言うと男を鋭く睨みつけた。

 王子として丁寧にしていた口調を、今更気にして直している暇はない。

 広場で何が起きているのかはわからないが、一刻も早く『赤月の儀』を強制終了させることが先決だと判断したのだ。


 男は大袈裟にため息をついていた。


「無理だよ。欲しいスキルがあるからねぇ……断ると言ったら?」


 グレンは無言で腰を落とし、拳を構えた。


「力づくか……いいね」

「……行くぞ」


 グレンは床を踏み抜いて、侵入者達に迫る。


 彼はもう止まらない。

 今、足が動くのは、腕が振れるのは、将斗のあの言葉が胸に響いているからだ。


『何も出来なかったのを悔しいと思うなら、これから挽回してけばいいだろ』


 何もできなかった自分を挽回するために。

 今自分にできることに全霊を懸ける。それが、民への償いになると信じて――。



******************************



 クリスは屋根の上から、天蓋に包まれた雄矢を監視し続けていた。


 地に膝をついたあの男が、何を考えているのか。

 きっと何かがある。長年積み上げた彼女の勘が、そう警鐘を鳴らしていた。


「やりましたね……総隊長、ついに」

「まだ……気を抜くな。喜ぶのは全てが終わってからにしておけ」


 隣の隊員が、声を震わせ、涙を流していた。

 見渡せば、同じように感極まって肩を震わせている者が幾人もいる。


「二年と半年か……」


 妹のアリスを失ってから、それだけの時間が経った。

 操られていたことに気がついたあの日、雄矢を感情のままに殺そうとした。しかし手も足も出ず、気づけば無様にも逃げ出していた。

 準備が甘かったと己を呪った彼女は、それからの二年、ひたすら地下に潜り、同志を募り、部隊を統率し、この作戦へ備え続ける泥水のような日々を過ごしてきた。

 

 しかし不思議と、彼女の胸に『達成感』は無かった。


 何を成し遂げたところで、アリスは決して帰ってこないからだ。

 作戦が成功の兆しを見せた今、その残酷な事実をより強烈に実感してしまった。


「こんなものか……」


 胸の奥がポッカリと空洞になったような感覚が、ずっと彼女にはあった。

 今日この日、復讐が始まるこの瞬間を迎えても、その穴が埋まることはない。

 奴が死ねば、多少は満たされるのだろうか。。


 だが、彼の死でこの虚無感を埋め合わせようなどとは、最初から考えていなかった。


 物語じみた、勇者の劇的な終わりなど必要ない。

 華々しい最期も、ギリギリの死闘も、起死回生の一撃も、あいつには相応しくない。 

 ただ、惨めに、緩やかに殺す。


 冷たく凝り固まった復讐心を抱えて、クリスは雄矢を見下ろし続けた。

 命を奪う者としての最低限の責務だと自分に言い聞かせ、ただじっと、その命が尽きるのを待ち続けた。


「どうか、ただ死んでくれ」


 何事もなく、静かに終わりが来ることを、彼女は願った。



******************************



 レヴィは、ベッドの上で跳ね起きるように上体を起こした。


「良かった。気が付きましたか」


 傍らには、面識のあるレジスタンスの医療班が立っていた。

 真っ黒に染めた給仕服を着ている。

 しかし、レヴィにとってそんなことはどうでも良かった。


「レヴィ様?」

「何……この感じ」


 極寒の氷の中にいたせいで冷え切った肌が微かに震えるが、今彼女が感じている『違和感』に比べれば、そんな震えは些細な事だった。

 

「魔力がない……?」

「……無いというのは?」

「この国にはいつも、あいつが垂れ流している魔力が漂っていた。それが……無い」


 優れた魔法使いであるレヴィの目には、この国の空気が常に雄矢の魔力で靄がかって見えていた。

 それが今、不気味なほどにクリアに見えているのだ。


「それは催眠魔法とやらのことでしょうか。それは先ほど総隊長たちが解除したので」

「そういうのじゃない。それなら私にも区別できる」


 レヴィは救護班の女性の言葉を鋭く否定する。

 彼女は冷え切った自らの体の周りに小さな火を生成し、体を温めながら、ベッドから足を下ろし、腰掛けた。


 顎に手を当て、深く思考に沈む。


――直後、頭を撃ち抜かれたかのように、ハッと顔を上げた。


「――何か、来る」


 レヴィは掌を、何もない壁の方へ突き出した。

 

 救護班の女性は、それを見て息を呑み、目を丸くした。

 レヴィが指し示したその方向は――中央広場のある方角だったからだ。

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