第92話 即効
「再開したぞ!」
その声は、驚きだった。
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港の中央。
昨日まで完全に止まっていた取引所。
そこに人が集まっている。
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「本当か?」
「成立した!」
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帳簿が動いている。
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「国家通貨で統一!」
「レート固定!」
「保証付き!」
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ざわめきが広がる。
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「……動いてる」
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止まっていた市場が
一部だけ
動き出していた。
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分散連合本部。
ユーリが駆け込む。
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「中央介入です!」
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「リゼットさんが――」
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言い切る前に、
全員が理解する。
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マルクが低く言う。
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「やったか」
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ユーリが紙を広げる。
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「統一レート導入」
「緊急保証枠設定」
「国家通貨ベース決済」
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リゼットの名前は書いていない。
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だが分かる。
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「……速い」
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アーネストが呟く。
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港。
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「助かった!」
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商人が叫ぶ。
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「これで払える!」
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止まっていた契約が
再び動き出す。
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「全部じゃないが」
「十分だ!」
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笑い声。
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安堵。
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中央は速い。
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それを
誰もが思い出す。
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分散連合本部。
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リゼットが入ってくる。
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静かに。
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だが空気が変わる。
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「動いたわ」
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彼女は言う。
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誰も否定しない。
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ユーリが言う。
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「……はい」
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「一部市場、回復しています」
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マルクが腕を組む。
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「助かったな」
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沈黙。
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リゼットはアーネストを見る。
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「これが中央」
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静かな声。
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「速い」
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アーネストは答える。
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「重い」
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リゼットは笑う。
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「今は軽さより速さよ」
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その言葉に
誰も反論できない。
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ユーリが言う。
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「被害は抑えられます」
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「このまま広げれば」
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マルクが頷く。
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「全部救えるかもしれない」
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沈黙。
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その言葉が
重く落ちる。
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全部救える。
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それは
分散ができなかったこと。
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アーネストは窓の外を見る。
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動き出した港。
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一部だけだが、
確かに回復している。
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「どうする」
マルクが言う。
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「乗るか?」
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それは
分散をやめること。
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中央へ戻ること。
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沈黙。
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リゼットは言う。
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「選びなさい」
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「止めるか」
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「救うか」
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静寂。
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アーネストは言う。
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「救っているように見えるだけだ」
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リゼットの目が細くなる。
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「何が言いたいの」
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アーネストは答える。
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「順番を隠している」
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沈黙。
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ユーリが言う。
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「……どういうことですか」
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「中央は」
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アーネストは言う。
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「見えない順番を作る」
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「全員を救っているように見せて」
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「裏で切る」
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空気が変わる。
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リゼットが言う。
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「証拠は?」
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アーネストは静かに言う。
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「まだない」
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沈黙。
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「だが必ずある」
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港。
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再開した取引の裏で、
一つの倉庫が閉じる。
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誰も気づかない。
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静かに。
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契約が消える。
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「……止まってる」
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誰かが呟く。
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だが声は小さい。
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中央の音に
かき消される。
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分散連合本部。
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リゼットが言う。
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「証明して」
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「それができなければ」
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「中央が正しい」
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完全な宣言。
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アーネストは頷く。
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「分かった」
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外を見る。
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動き出した市場。
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だがその裏で
何かが消えている。
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「見つける」
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彼は言う。
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「見えない順番を」
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鐘が鳴る。
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市場は回復し始める。
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だが
それが本当の回復かは
まだ誰も知らない。
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そして
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中央は
静かに広がり始めていた。
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