第90話 暴落
崩れたのは、一隻の船だった。
港の中央に停泊していた大型商船。
動かない。
荷は積まれたまま。
契約は成立したまま。
だが――
決済ができない。
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「払えない」
その一言で、
すべてが止まった。
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ざわめきが広がる。
「どういうことだ」
「軍事保証は?」
「信用は?」
「金は?」
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全部ある。
だが
組めない。
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混合決済が成立しない。
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「比率が合わない!」
「誰も引き受けない!」
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その瞬間、
市場の中心が崩れた。
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連鎖は一気に加速する。
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「価格が落ちてる!」
「金が売られてる!」
「信用が下がる!」
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一つが崩れると、
すべてが動く。
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分散連合本部。
ユーリが叫ぶ。
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「全面下落です!」
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紙が机に叩きつけられる。
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信用証、急落。
金貨、売り。
軍事保証、偏り崩壊。
国家通貨、信用低下。
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マルクが呟く。
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「全部だ」
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リゼットが言う。
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「止める!」
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「今すぐ!」
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アーネストは動かない。
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「無理だ」
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沈黙。
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「もう止められない」
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リゼットが睨む。
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「止めるのが制度でしょ!」
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アーネストは静かに言う。
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「これは制度の問題じゃない」
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「市場の問題だ」
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港。
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「売れ!」
「今のうちだ!」
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商人たちが走る。
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価格が落ちる。
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さらに売る。
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また落ちる。
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止まらない。
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ユーリが震える。
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「負の連鎖です」
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「止まりません」
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アーネストは言う。
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「止めない」
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リゼットが一歩踏み出す。
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「あなた」
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その声は低い。
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「まだそれを言うの?」
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アーネストは答える。
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「止めれば中央になる」
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「今はそんな話じゃない!」
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「人が潰れてるのよ!」
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沈黙。
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アーネストはゆっくり言う。
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「だから順番を決める」
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空気が止まる。
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ユーリが息を呑む。
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「……順番」
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リゼットの目が変わる。
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「それは」
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「中央よ」
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アーネストは首を振る。
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「違う」
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「中央は一つの順番を決める」
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「分散は」
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「複数の順番を持つ」
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沈黙。
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マルクが言う。
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「具体的にどうする」
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アーネストは紙に書く。
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・生活必需取引 優先
・地域内決済 優先
・実体取引 優先
・投機取引 後回し
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ユーリが呟く。
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「選別……」
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リゼットが言う。
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「切り捨てよ」
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アーネストは答える。
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「守るために」
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沈黙。
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港。
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「この契約は後回しだ!」
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怒号。
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「ふざけるな!」
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だが
処理されない。
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順番が変わる。
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「こっちは通った!」
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小さな取引が成立する。
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だがその裏で
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大口が沈む。
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巨大な契約が消える。
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市場が揺れる。
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ユーリが叫ぶ。
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「決済網、限界です!」
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「一部停止!」
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空気が凍る。
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マルクが言う。
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「ついに来たな」
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アーネストは窓の外を見る。
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港が静かになる。
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動いていたものが
止まる。
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分散が
初めて止まる。
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リゼットが言う。
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「これがあなたの選択?」
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アーネストは答える。
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「これしかない」
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沈黙。
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そして彼女は言う。
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「私は止める」
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空気が変わる。
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「中央でもいい」
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「止める」
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対立。
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完全に割れる。
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窓の外。
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市場は崩れている。
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分散は
試されている。
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そして今
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初めて
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問いが戻る。
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「誰を先に救うのか」
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順番。
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それが
すべてを決める。
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