第89話 連鎖
止まらない。
それが、最初に分かったことだった。
---
港。
昨日まで動いていた取引所が、
今はざわめきに覆われている。
「まだ成立しない!」
「レートが合わない!」
「誰か金を持ってこい!」
声が荒い。
---
小口ではない。
中規模取引が止まり始めていた。
---
「これもダメだ」
帳簿を叩きつける音。
---
混合決済が、組めない。
---
金が足りない。
信用が足りない。
保証が足りない。
---
全部、少しずつ足りない。
---
その「少し」が、
致命傷になる。
---
分散連合本部。
ユーリが次々と紙を並べる。
「第二波です」
「平原、沿岸、中規模取引停止」
---
マルクが低く言う。
「広がってるな」
---
リゼットはアーネストを見る。
「これが“任せた結果”よ」
---
アーネストは答えない。
---
ユーリが言う。
「レートの乖離が拡大しています」
---
「信用が下がり、金が上がり」
「軍事保証が偏り」
「国家通貨が固定化」
---
「組み合わせが成立しません」
---
沈黙。
---
「つまり」
マルクが言う。
---
「混合できない」
---
アーネストは小さく頷く。
---
「接続が切れている」
---
港。
一つの取引が崩れる。
---
「この契約は無効だ!」
---
叫び声。
---
それに引きずられるように、
別の取引が止まる。
---
「待て、こっちも…!」
---
連鎖。
---
一つ止まると、
次が止まる。
---
取引は繋がっている。
---
だから崩れも繋がる。
---
分散連合本部。
リゼットが机を叩く。
---
「もう限界よ!」
---
「介入する!」
---
「最低限のレート固定!」
---
「緊急保証!」
---
アーネストが言う。
---
「それは中央だ」
---
「今はそんなこと言ってる場合じゃない!」
---
初めて声がぶつかる。
---
リゼットの目が鋭い。
---
「人が破産してるのよ」
---
沈黙。
---
ユーリが震える声で言う。
---
「すでに三件」
---
「支払い不能」
---
マルクが歯を食いしばる。
---
「これ以上はまずい」
---
アーネストはゆっくり言う。
---
「選別する」
---
空気が止まる。
---
リゼットが低く言う。
---
「何を基準に」
---
アーネストは答える。
---
「連鎖を止めるための切断」
---
沈黙。
---
ユーリが理解する。
---
「…一部を切る?」
---
「そうだ」
---
「全部を守ると全部崩れる」
---
リゼットが睨む。
---
「それが分散?」
---
アーネストは答える。
---
「分散は万能じゃない」
---
「だから壊れ方を選ぶ」
---
沈黙。
---
マルクが言う。
---
「どこを切る」
---
アーネストは紙に線を引く。
---
「投機取引」
---
「実体のないものから落とす」
---
ユーリが頷く。
---
「それなら…」
---
「影響を限定できる」
---
リゼットは動かない。
---
「人よ」
---
「その中にも人がいる」
---
アーネストは目を閉じる。
---
「分かっている」
---
だが目を開ける。
---
「それでもやる」
---
港。
---
「この取引、無効だ!」
---
突然、声が響く。
---
「投機扱い」
---
帳簿が閉じられる。
---
「ふざけるな!」
---
怒号。
---
だがその取引は切られる。
---
一つ。
---
そしてもう一つ。
---
連鎖の一部が、
意図的に断ち切られる。
---
だが――
---
「遅い!」
---
別の場所で叫び。
---
「こっちは全部崩れた!」
---
巨大な帳簿が倒れる。
---
沈黙。
---
ユーリが震える声で言う。
---
「大口取引です」
---
空気が凍る。
---
マルクが呟く。
---
「来たな」
---
アーネストは窓の外を見る。
---
港の中央。
---
大きな商船が動かない。
---
積み荷も、
取引も、
止まっている。
---
それは
小さな崩壊ではない。
---
市場の中心が
崩れ始めていた。
---
リゼットが言う。
---
「もう止まらない」
---
アーネストは答える。
---
「まだ止めてない」
---
沈黙。
---
だが二人とも分かっている。
---
これは
始まりではない。
---
本番だ。
---
世界の金融が
崩れ始めている。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




