第87話 過熱
混合決済が導入されてから一週間。
市場は、明らかに活気づいていた。
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港。
取引の声が飛び交う。
「金三、信用五、軍事二でいけるか?」
「国家を一割入れてくれ」
「いい、成立だ」
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止まっていた流れが戻る。
いや、それ以上だ。
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ユーリが報告する。
「取引量、さらに増加」
アーネストは目を通す。
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「増えすぎだ」
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リゼットが言う。
「良いことじゃない?」
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「違う」
アーネストは答える。
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「速すぎる」
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マルクが眉をひそめる。
「何が問題だ?」
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アーネストは紙を指す。
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「実体よりも速く資本が動いている」
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沈黙。
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ユーリが言う。
「投機…?」
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「そうだ」
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混合決済は便利だった。
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複数通貨を組み合わせることで、
どんな取引も成立する。
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だが同時に
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「どんな取引でも作れる」
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リゼットが呟く。
「つまり、儲けだけの取引も?」
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アーネストは頷く。
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港。
商人たちが新しい取引を始める。
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「今買って、明日売る」
「差額で利益」
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実体のない取引。
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帳簿だけが動く。
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ユーリが報告する。
「同一商品の転売が急増」
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マルクが言う。
「価格が上がっている」
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リゼットが笑う。
「バブルね」
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アーネストは静かに言う。
「まだ初期だ」
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「だが確実に膨らんでいる」
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外洋使節館。
カタリナが報告を読む。
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「価格上昇」
「取引過熱」
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エリオットが言う。
「始まったか」
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「混合決済は流動性を生む」
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「流動性は投機を生む」
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カタリナが聞く。
「介入しますか?」
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エリオットは首を振る。
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「まだだ」
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「膨らませろ」
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分散連合本部。
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ユーリが不安そうに言う。
「止めますか?」
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アーネストは考える。
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止めれば中央になる。
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放置すれば膨らむ。
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「止めない」
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沈黙。
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リゼットが言う。
「本気?」
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「市場に任せる」
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「だが」
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アーネストは続ける。
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「崩れた時の準備をする」
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マルクが呟く。
「崩れる前提か」
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「崩れない市場はない」
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港。
価格が上がる。
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金も。
信用も。
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すべてが上がる。
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商人たちが笑う。
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「今は稼げる」
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だがその笑いは
どこか軽い。
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実体のない利益。
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積み上がる期待。
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膨らむ価格。
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ユーリが小さく言う。
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「これ、危ないです」
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アーネストは窓の外を見る。
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「分かっている」
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「だが」
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彼は言う。
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「これも分散だ」
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沈黙。
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「成功も」
「失敗も」
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「中央が決めない」
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港の鐘が鳴る。
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市場はさらに加速する。
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そして
誰も止めないまま
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世界は
過熱していった。
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