第86話 混合決済
分散連合本部の会議室。
机の上には、四種類の通貨が並んでいた。
信用証。
金貨。
軍事保証証。
国家通貨。
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アーネストはそれらを見渡す。
「どれも正しい」
誰も否定しない。
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「だが単独では繋がらない」
沈黙。
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リゼットが言う。
「交換では限界がある」
マルクが頷く。
「通貨ごとに壁ができている」
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ユーリが紙を広げる。
「交換コストはさらに上昇しています」
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「このままでは」
彼女は言う。
「市場が分断されます」
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アーネストは静かに言う。
「だから混ぜる」
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「混ぜる?」
リゼットが眉を上げる。
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「一つの取引を」
アーネストは説明する。
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「複数通貨で同時に決済する」
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沈黙。
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マルクが言う。
「どういう意味だ?」
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アーネストは紙に線を引く。
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「例えば」
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「山岳が鉱石を売る」
「沿岸がそれを買う」
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「金だけでは足りない」
「信用証だけでは不安」
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「ならば」
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「半分を金」
「半分を信用」
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ユーリが呟く。
「リスク分散…」
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「そうだ」
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「さらに」
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「海路なら軍事保証を乗せる」
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「税が関わるなら国家通貨も入る」
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リゼットが笑う。
「全部乗せね」
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「一つの通貨に頼らない」
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「複数の信用を束ねる」
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マルクが腕を組む。
「理屈は分かる」
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「だが誰が計算する」
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アーネストは答える。
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「制度がやる」
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ユーリが言う。
「リアルタイム計算…?」
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「そうだ」
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「取引ごとに最適な比率を決める」
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沈黙。
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リゼットが言う。
「それ、中央になるわよ」
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アーネストは首を振る。
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「中央は決める」
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「これは提案する」
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「各取引が選ぶ」
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ユーリが息を呑む。
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「選択の分散…」
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港。
試験的な取引が始まる。
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「金五割、信用三割、軍事二割」
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帳簿が走る。
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商人が頷く。
「これならいける」
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別の商人。
「リスクが分散されている」
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取引が成立する。
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止まっていた流れが
少しだけ動く。
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外洋使節館。
カタリナが言う。
「混合決済」
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エリオットが目を細める。
「中央を作らずに統合する気か」
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「ええ」
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「面白い」
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彼は呟く。
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「だが複雑すぎる」
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「市場はついてこれるか」
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分散連合本部。
ユーリが報告する。
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「初期取引、成功」
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「交換コスト、低下」
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マルクが言う。
「本当に動いたな」
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リゼットが言う。
「だが不安定」
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アーネストは頷く。
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「当然だ」
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「まだ形になっていない」
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窓の外。
港が再び動き始める。
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だが流れはまだ細い。
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混合決済。
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それは
分断を繋ぐ試み。
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だが同時に
新しい複雑さを生む。
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ユーリが呟く。
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「これが成功すれば」
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アーネストは答える。
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「世界は一つになる」
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「だが」
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彼は続ける。
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「失敗すれば」
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沈黙。
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港の鐘が鳴る。
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「全部、崩れる」
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世界は今、
一つに繋がろうとしていた。
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