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断罪された悪役令嬢ですが、帳簿を燃やした王都が先に滅びそうです 〜追放先の辺境で実務改革を始めたら、国家より信用が強くなりました〜  作者: 篠宮しずく


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第76話 僅差の未来

票は、静かに積み上がっていった。


分散連合本部の大広間。

中央の長机の上に並べられた票束を、集計役が一枚ずつ読み上げる。


「賛成」

「反対」

「賛成」

「反対」


紙がめくられる音だけが、やけに大きく響く。


誰も話さない。

咳払いすらない。


アーネストは議場の後方に立っていた。


中央の席には座らない。

審査官でも議長でもない。


ただの提案者として、結果を待っている。


リゼットは腕を組んだまま票束を睨み、

マルクは祈るように両手を握っていた。


外洋使節席では、

カタリナ・グレイヴが微動だにせず座っている。


「賛成、四十七」

「反対、四十六」


ざわ、と空気が揺れる。


まだ票が残っている。


「賛成、四十八」

「反対、四十七」


最後の一枚が開かれる。


紙が擦れる音。


そして――


「賛成」


沈黙。


数秒後、集計役が静かに告げる。


「賛成四十九、反対四十七、保留四。

再設計案は、可決されました」


拍手は起きない。


ただ、抑えたざわめきだけが広がる。


僅差だった。


あまりにも僅差。


リゼットがゆっくりと目を閉じる。


マルクはようやく肩の力を抜き、

幹部たちは複雑な顔をしている。


アーネストは、まだ動かない。


(勝ったわけじゃない)


そう思う。


中央へ戻る道を選ばなかっただけだ。


カタリナが立ち上がる。


「僅差ですね」


その声は静かだった。


アーネストが答える。


「ええ」


「市場は、この数字を見ます」


カタリナは続ける。


「分散連合が一枚岩ではないことも」


「再設計がまだ思想段階であることも」


「そうでしょうね」


アーネストは否定しない。


カタリナは少しだけ笑う。


「それでも中央に戻らなかった」


「戻りませんでした」


「不利な選択をしましたね」


「重い選択を避けただけです」


短い沈黙。


それからカタリナは言う。


「父ならこう言うでしょう。

『勝てない相手ではなくなった』と」


「光栄です」


「皮肉ではありません」


そう言って、彼女は席へ戻った。


議場ではすでに議論が始まる。


「実装手順を決めるべきだ」

「担保共有率を段階的に下げる」

「流動性プールの管理単位を分ける」


だがアーネストは輪に入らない。


リゼットが近づく。


「戻らないの?」


「まだ戻れない」


「可決したのに?」


「可決しただけだ」


アーネストは言う。


「制度は票では動かない」


「票のあとに誰が重さを持つかで決まる」


リゼットはしばらく彼を見ていた。


「前よりましな顔をするようになったわね」


「褒め言葉ですか」


「たぶん」


マルクも歩み寄る。


「礼を言うべきか分からない」


「言わなくていい」


アーネストは答える。


「まだ何も直っていない」


マルクは頷く。


「だが選べた」


「それだけでも中央とは違う」


その言葉は重かった。


中央は速い。

中央は決める。

中央は守る。


だが中央は、順番を奪う。


分散は遅い。

分散は揺れる。

分散は失敗する。


だが分散は、選び直せる。


回廊を歩くと、窓の外に港の灯が見える。


外洋の船はまだ停泊している。

山岳も平原も沿岸も、まだ不安の中にある。


何も終わっていない。


むしろ、ここから始まる。


後ろから足音。


ユーリだった。


「投票結果、各地域へ通知しました」


「市場への発表文も準備しています」


「ありがとう」


ユーリが少し迷ってから聞く。


「……審査官には戻らないのですか」


アーネストは窓の外を見る。


空席の机を思い出す。


あそこへ戻れば、

また中央になってしまう。


「戻らない」


「では?」


「設計だけやる」


ユーリは目を瞬かせる。


「実装は各地域に任せる」


「それでは遅い」


「遅くていい」


アーネストは静かに言う。


「速くしようとして、重くした」


分散は速さで中央に勝てない。


勝つ必要もない。


持ちこたえること。


選び直せること。


順番を地域へ返すこと。


それだけでいい。


ユーリは短く頷く。


「では、空席はそのままにしておきます」


アーネストは小さく笑った。


「そうしてくれ」


空席は未熟さの証でもある。


同時に、

中央を作らないための余白でもある。


その夜、市場は静かだった。


暴騰も暴落もない。


ただ様子を見ている。


僅差の可決は、

僅差の未来しか保証しない。


だがそれでいい。


保証しすぎる制度は、

やがて命令になる。


遠くの港で鐘が鳴った。


分散連合は中央へ戻らなかった。


だが安定にも、まだ届いていない。


その不安定さごと引き受けて、


世界は、次の一歩を選んだ。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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