第75話 帰還
分散連合本部の議場は、重い空気に包まれていた。
投票当日。
議題は一つ。
【外洋帝国との共同監査機構設立】
中央へ戻るか。
分散を続けるか。
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幹部が言う。
「理想は理解している」
「だが現実は残酷だ」
「再接続網は不安定」
「市場は不信」
「外洋の提案は合理的だ」
ざわめきが広がる。
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リゼットが立つ。
「合理性は中央を作る」
「分散は遅い」
「だが順番を奪わない」
誰もすぐには答えない。
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マルクが言う。
「だがこのままでは持たない」
沈黙。
それは誰もが分かっている。
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投票の準備が進む。
票箱が運ばれる。
議場の扉が開く。
誰も気に留めない。
最初は。
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ゆっくりと歩く男がいる。
外套は雪で濡れている。
静かな足音。
議場の中央まで来て、
立ち止まる。
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ざわめきが広がる。
「……審査官」
「いや」
「もう違う」
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アーネストは頭を下げる。
「審査官ではありません」
静かな声。
「ただの提案者です」
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幹部が冷たく言う。
「あなたは辞任した」
「はい」
「制度を壊した」
「はい」
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彼は顔を上げる。
「だから戻りました」
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リゼットが腕を組む。
「答えは見つかった?」
彼は紙を広げる。
議場の中央の机。
そこに置く。
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「再接続網は重すぎる」
誰も否定しない。
「中央保証も重い」
それも事実。
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「ならば軽くする」
ざわめき。
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「担保共有をやめます」
幹部が叫ぶ。
「それでは信用が保てない」
アーネストは首を振る。
「共有ではなく分割です」
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紙の図を指す。
「決済を分割する」
「担保も分割する」
「失敗しても全体は崩れない」
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リゼットが目を細める。
「分散保証」
アーネストは頷く。
「取引単位の信用」
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幹部が言う。
「複雑すぎる」
「中央の方が速い」
アーネストは答える。
「速いです」
「だが軽くありません」
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沈黙。
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マルクが紙を見る。
「これなら」
「一つの地域が倒れても」
「全体は持つ」
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リゼットが笑う。
「やっと理解したのね」
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幹部が問う。
「市場が信じるか?」
アーネストは静かに言う。
「信じません」
ざわめき。
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「信じるまで耐えます」
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その言葉は
議場を静かに貫いた。
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リゼットが振り向く。
「投票を変える?」
アーネストは首を振る。
「変えません」
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「選ぶのはあなた達です」
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議場は沈黙する。
中央へ戻るか。
軽い分散を作るか。
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外洋使節席。
カタリナが静かに見ている。
遠くでエリオットが腕を組む。
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票箱が置かれる。
再び選択の時。
分散は
命令では生きない。
合意でしか生きない。
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そして
分散連合は
もう一度
未来を選ぶ。
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