第74話 再設計
山の茶屋は静かだった。
雪が止み、夜の空気が澄んでいる。
アーネストは机に紙を広げていた。
再接続網の帳簿。
各団体の流動性記録。
担保共有契約。
数字は嘘をつかない。
そして数字は、はっきり示していた。
重い。
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担保共有。
それが問題だった。
山岳を守るために、
平原が担保を出す。
平原を守るために、
沿岸が担保を出す。
結果――
全員が重くなる。
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「中央と同じだ」
彼は呟く。
中央は保証を一箇所に集める。
再接続網は、
それを全員で背負っている。
重さは違うが、構造は同じ。
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紙に線を引く。
山岳。
平原。
沿岸。
矢印が行き交う。
担保共有ではなく。
担保分散。
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中央が担保を持たない。
団体同士も担保を持たない。
担保は
取引ごとに分かれる。
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彼はさらに書く。
「分割保証」
一つの決済を、
複数の信用に分ける。
失敗しても
全体は崩れない。
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「軽い」
彼は気づく。
分散は
強くする必要はない。
軽くすればいい。
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足音。
振り向く。
レティシアが立っている。
いつからいたのか分からない。
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「何を見つけましたか」
彼女が言う。
アーネストは紙を見せる。
担保分散。
分割保証。
取引単位の信用。
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レティシアはしばらく黙る。
「中央は重い」
彼は言う。
「分散は軽くできる」
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「良い答えです」
レティシアは言う。
「ですが」
彼女は続ける。
「それを言う資格がありますか」
沈黙。
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彼はもう審査官ではない。
制度を壊した男。
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「ありません」
彼は答える。
「だから戻る」
レティシアは少しだけ笑う。
「それは中央です」
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「命令はしません」
彼は言う。
「提案します」
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彼女は頷く。
「それなら分散です」
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遠くの港で鐘が鳴る。
投票まで二日。
連合は割れている。
中央に戻るか。
分散を続けるか。
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アーネストは紙を畳む。
構想はできた。
だが制度は
紙では生きない。
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「行きます」
彼は言う。
レティシアは止めない。
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雪の道を下りる。
港の灯りが遠く見える。
分散連合は
崩れる寸前だ。
だがまだ
終わっていない。
今度こそ
中央にならない形を
作るために。
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