第72話 中央の提案
分散連合本部に、外洋帝国の使節団が到着した。
先頭に立つのは、カタリナ・グレイヴ。
黒い外套に銀の徽章。
父エリオットとは違う、若い鋭さを持つ目だった。
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会議室に各団体の代表が集まる。
リゼットもいる。
マルクもいる。
そして――
空席。
審査官の席。
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カタリナは静かに言う。
「今日は提案があります」
「征服ではありません」
「協力です」
ざわめきが広がる。
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「再接続網は不安定です」
彼女は淡々と続ける。
「担保共有は過剰」
「流動性プールは不足」
「市場は疑っています」
誰も否定できない。
すべて事実だ。
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「我々は併合を求めません」
彼女は言う。
「共同監査機構を提案します」
紙が配られる。
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提案内容。
・中央保証なし
・外洋帝国と連合の共同監査
・流動性補助枠の設置
・軍事優先条項の廃止
ざわめきが広がる。
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「保証なし?」
幹部が問う。
「保証はありません」
カタリナは頷く。
「ただし安定は提供します」
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リゼットが立つ。
「安定の代償は?」
カタリナは迷わない。
「透明な監査」
「決済規則の統一」
「信用格付け制度」
沈黙。
つまり――
中央だ。
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「あなた方は自由を選びました」
カタリナは続ける。
「だが自由は、人を守りません」
空気が凍る。
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「我が国は知っています」
彼女の声が少し低くなる。
「分散国家が崩壊した歴史を」
「自由な信用は、暴走します」
「人は破産します」
「都市は崩れます」
静寂。
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マルクが言う。
「中央は順番を決める」
カタリナは頷く。
「そうです」
「だから守れる」
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リゼットは静かに言う。
「中央は守る」
「だが奪う」
カタリナは笑う。
「分散は奪わない」
「だが守らない」
思想がぶつかる。
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その時。
窓の外で雪が舞う。
誰も決断しない。
審査官がいないからだ。
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カタリナは最後に言う。
「急ぎません」
「市場が答えます」
彼女は外套を翻す。
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会議室は静まり返る。
幹部が言う。
「魅力的な提案だ」
別の声。
「中央に戻るだけだ」
リゼットは空席を見る。
「戻ってきなさい」
誰に言ったのかは、分からない。
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山の茶屋。
帳簿を見つめる男がいる。
アーネスト。
彼はまだ知らない。
世界が再び中央へ傾き始めていることを。
だが雪の向こうで、
決断の時は近づいていた。
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