第70話 歪み
再接続網は、動き続けていた。
だが動くほどに、
歪みは見え始める。
「平原団体の流動性、さらに低下」
補佐官の声が重い。
「担保共有の影響です」
アーネストは資料をめくる。
山岳を守るための担保共有。
だがその担保の多くは、
平原の穀物備蓄だった。
「想定より拘束率が高い」
「はい」
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ノアは迷わない。
「一時的な痛みです」
彼は言う。
「ネットワークが拡張すれば均衡します」
アーネストは黙る。
その言葉は、
かつての自分の言葉だった。
効率は正しい。
規模は安定を生む。
だが今、現実は違う。
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三日後。
平原団体の小商人が倒れる。
決済遅延。
仕入れ停止。
市場は冷酷だ。
保証はない。
連鎖は速い。
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平原都市の代表が、本部へ怒鳴り込む。
「山岳を守るために我々が沈むのか」
アーネストは答えられない。
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会議室。
幹部が言う。
「だから言った」
「分散は弱い」
「中央保証に戻せ」
別の声。
「再接続網を停止しろ」
沈黙。
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リゼットが立つ。
「停止すれば山岳が崩れる」
「続ければ平原が崩れる」
彼女はアーネストを見る。
「あなたが決めた」
その言葉は重い。
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夜。
帳簿の数字は、はっきりしている。
再接続網は、持たない。
このままでは、
山岳か
平原か
どちらかが崩れる。
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ノアが言う。
「規模を拡張すれば――」
「違う」
アーネストは初めて遮る。
沈黙。
「拡張は中央になる」
ノアは戸惑う。
「ですが、中央に勝つには」
「勝つ必要はない」
アーネストは言う。
「持てばいい」
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その夜。
彼は辞任届を書く。
審査官アーネスト・ヴァレント。
責任を取る。
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翌朝。
本部の議場で静かに言う。
「再接続網の設計責任は私にあります」
誰も動かない。
「私は辞任します」
ざわめきが広がる。
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リゼットが言う。
「逃げるの?」
アーネストは首を振る。
「止めるためです」
沈黙。
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彼は最後に言う。
「分散は、速くしようとしてはいけない」
「私はそれを忘れた」
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その時。
議場の後方で、
レティシアが静かに立っていた。
彼女は何も言わない。
ただ見ている。
中央を壊した者が、
中央になりかけた者を。
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辞任は受理された。
再接続網は揺れている。
外洋帝国はまだ動かない。
分散は、
再び未完成に戻った。
だが――
物語は終わらない。
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