第65話 更迭動議
「審査官アーネスト・ヴァレントの権限停止を提案します」
清算機構幹部会。
空気が凍る。
「基準改定案は連合安定を脅かした」
「外洋帝国との緊張を招いた」
「市場に不要な不安を与えた」
淡々と並べられる理由。
アーネストは、動かない。
「基準は守るためのものです」
「守っている」
「数字を」
沈黙。
---
「あなたは創設者の名を利用している」
一人が言う。
「分散を盾に、制度を弱体化させている」
「制度が強すぎる」
アーネストは返す。
「強すぎる制度は中央になる」
ざわめき。
---
投票が始まる。
権限停止、可決寸前。
その時。
扉が開く。
誰もが振り向く。
灰色の外套。
レティシア・エルバイン。
十年ぶりの公の場。
---
彼女は、ゆっくりと歩く。
「動議の理由を聞いても?」
声は静か。
だが部屋は完全に沈黙する。
---
「彼は市場を混乱させました」
幹部が答える。
「外洋帝国との関係を悪化させた」
「基準を揺るがせた」
レティシアは頷く。
「では問います」
彼女は視線を巡らせる。
「あなた方は何を守っていますか」
誰も即答できない。
---
「市場です」
一人が言う。
「安定です」
別の声。
「制度です」
さらに別の声。
レティシアは静かに言う。
「では、人は?」
沈黙。
---
彼女はアーネストを見る。
「あなたは何を守りたいのですか」
彼は答える。
「順番を」
「誰の?」
「地域の」
「なぜ?」
「守る順番を自分で決められなければ、分散ではない」
静寂。
---
レティシアは微笑む。
「動議はあなた方の権利です」
「ただし、覚えておきなさい」
視線が鋭くなる。
「中央は、正しいから生まれるのではない」
「楽だから生まれる」
会議室が凍る。
---
「彼を止めるのは簡単です」
「だが止めた瞬間、あなた方は中央になります」
沈黙。
---
投票は延期された。
決着はつかない。
だが亀裂は入った。
---
その夜。
外洋帝国が正式声明を出す。
【分散連合が山岳地域へ介入すれば、経済制裁を実施】
市場が揺れる。
保証信用、下落。
分散連合内部も動揺。
---
アーネストは、廊下でレティシアに追いつく。
「助けてください」
彼は言う。
彼女は首を振る。
「助けません」
「ではなぜ」
「問いを残すため」
彼女は立ち止まる。
「中央に勝とうとするな」
「中央にならない方法を探しなさい」
風が吹く。
外では市場が揺れている。
内部では制度が揺れている。
外洋帝国は制裁を構え、
山岳は再発行を準備している。
分散は、再び試される。
今度は――
本気で。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




