第59話 効率の審査官
十年後。
分散連合は、巨大になっていた。
清算機構本部は、王都と辺境の中間都市に置かれ、
かつての倉庫よりもはるかに整備された石造庁舎へと変わっている。
「地域信用団体七つ、審査未達」
アーネスト・ヴァレントは、淡々と報告書を閉じた。
「基準を満たしていないなら、接続停止です」
隣の補佐官がためらう。
「しかし、小規模連合です。停止すれば……」
「市場が選びます」
彼は即答した。
「効率が安定を生む」
それが彼の信条だった。
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廊下の壁には、創設者の肖像が掛かっている。
レティシア・エルバイン。
分散の設計者。
アーネストは一礼するが、立ち止まらない。
思想は尊敬する。
だが時代は違う。
巨大化した連合には、
強い審査が必要だ。
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会議室。
「小規模信用団体の淘汰が進んでいます」
報告が上がる。
「再接続を求める声も」
「基準を下げるべきではありません」
アーネストは言う。
「基準は守られるから意味がある」
「ですが地域経済が――」
「短期的な痛みです」
静まり返る室内。
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南東代表団。
リゼット・ゼンナーは、冷ややかに言った。
「痛みは、いつも小さな者が負う」
「分散は自己責任です」
アーネストは答える。
「それが自立」
「それは選別です」
言葉がぶつかる。
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「清算機構は巨大になりすぎた」
リゼットは続ける。
「あなた方が止めれば、すべて止まる」
「止めません」
「止められるでしょう?」
沈黙。
事実だった。
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夜。
アーネストは、審査基準表を見直す。
合理的。
数値は正しい。
不正はない。
だが――
小規模団体の脱退率が、増えている。
「効率の副作用か」
彼は呟く。
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翌週。
外洋帝国が新制度を発表。
【統一信用軍事保証制度】
軍事同盟と信用保証を結合。
「安全と安定を約束する」
市場はざわつく。
「保証がある」
「連合より確実では?」
報告が飛び込む。
「二地域が外洋制度への接近を検討」
アーネストは立ち上がる。
「軍事保証など、中央そのものだ」
「しかし安心感は強い」
補佐官が言う。
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分散連合は、
中央を壊すために生まれた。
だが今、
より強い中央が現れようとしている。
アーネストは、肖像画を見上げる。
「あなたなら、どうしますか」
当然、答えは返らない。
彼は知らない。
中央を壊すことと、
中央にならないことは違うと。
まだ知らない。
世界は再び、揺れ始めている。
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