第56話 支えない救済
会議は、張り詰めたままだった。
「救済基金案を、そのまま通すことはできません」
私は、静かに言った。
ざわめきが広がる。
カイルの視線が、まっすぐ向けられる。
「では、見捨てるのですか」
「見捨てません」
私は、資料を差し出した。
【暫定接続枠 提案】
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「救済ではありません」
私は続ける。
「“接続”です」
リアが眉を寄せる。
「どう違うのですか」
「資金を与えません」
沈黙。
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「南東再建案が承認された場合、
信用圏の決済網へ“限定接続”を許可します」
「限定?」
ユーリが確認する。
「一定取引のみ。
清算機構の準備金は使わない」
カイルが言う。
「それでは資金不足は解消しません」
「自国で調達してもらいます」
私は答える。
「我々が保証しない」
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会議室が、静まり返る。
リアが、ゆっくりと言う。
「つまり、信用圏は傘にならない」
「ええ」
「だが門は閉じない」
彼女の目が揺れる。
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「南東は、自ら立て直す」
私は言う。
「その間、決済機能は提供する」
「保証は?」
「しない」
沈黙。
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カイルが低く問う。
「それで市場は安心しますか」
「しません」
私は即答する。
「だが依存もしません」
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ヴァルハイム。
ソフィアが報告を読みながら言う。
「……巧妙です」
エレナが微笑む。
「救わず、切らず」
「責任は南東に残る」
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市場。
反応は、複雑だった。
「保証はないのか」
「だが接続は維持」
信用圏の流通量は微増。
南東は、ゆっくりと再建へ向かう。
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夜。
カイルが、静かに言う。
「中途半端です」
「ええ」
「強い中央になれました」
「なりません」
私は窓の外を見る。
「強さは、便利です」
「ならなぜ」
「便利なものは、必須になります」
沈黙。
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リアが帰り際に言う。
「……試されるのは南東ですね」
「ええ」
「そして、信用圏も」
私は頷く。
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救済は、支えない。
接続は、断たない。
責任は、残す。
中央を作らないために、
不安定を残す。
それが、分散。
風が静かに止む。
信用は、守られなかった。
だが――
奪われもしなかった。




