第55話 救済という中心
会議は、予定より早く始まった。
カイル・ヴァレントは、迷いなく立つ。
「提案があります」
資料が配られる。
【信用圏共済基金設立案】
ざわめき。
---
「南東の破綻は、制度未熟によるものです」
カイルは冷静に言う。
「だが市場は区別しません」
「だから救済を?」
商人代表が問う。
「はい」
彼は続ける。
「加盟外制度にも、条件付き支援を行う」
「それは加盟基準の緩和ですか」
「違います」
カイルの目は鋭い。
「信用圏が“最後の支え”になるのです」
---
沈黙。
ユーリが静かに言う。
「それは、中央です」
「違います」
「違いません」
言葉が重なる。
---
リアが立ち上がる。
「救済は必要です」
「無条件ではない」
カイルが応じる。
「再建計画提出、監査受入れ、準備金積立」
「従えば救う」
「拒めば?」
「市場に委ねる」
沈黙。
---
私は、資料を閉じる。
救済基金。
それは善意だ。
だが同時に、
裁定権。
「誰が審査するのですか」
私が問う。
「清算機構が」
「つまり我々が」
カイルは、躊躇わない。
「信用を守るためです」
---
夜。
私は一人で考える。
分散は、選択。
だが救済は、
選択を奪う。
一度でも“最後の支え”になれば、
信用圏は不可欠になる。
不可欠は、中心だ。
中央を壊してきた。
だが今、
自ら中央になる誘惑がある。
---
翌日。
市場は、救済案を歓迎する。
「安心だ」
「信用圏が守るなら」
流通量、回復。
小さく、だが確実に。
ユーリが低く言う。
「……効いています」
「ええ」
私は答える。
「効いています」
それが、問題だ。
---
カイルが静かに言う。
「救えます」
私は彼を見る。
若い。
真剣だ。
間違っていない。
だが。
「救うことは、支配です」
彼は黙る。
---
窓の外、風が強い。
救済は優しい。
だが優しさは、
依存を生む。
信用は契約。
契約は自立。
もし信用圏が最後の支えになるなら、
世界は再び一つに戻る。
形を変えた中央へ。
私は、ゆっくりと息を吐く。
選択は、近い。




