第54話 選ばれなかった者
その少女は、招かれていなかった。
「南東諸侯連合代表、リア・ゼンナーです」
まだ二十代前半。
だが声は震えていない。
清算機構の公開討論会。
本来は商人と加盟代表のみ。
彼女は、傍聴席から立ち上がった。
「発言を求めます」
ざわめき。
私は、うなずいた。
「許可します」
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「南東信用制度は破綻しました」
彼女は、まっすぐ言う。
「未熟だったからです」
誰も否定しない。
「ですが」
彼女の視線が、こちらに向く。
「なぜ、救わなかったのですか」
空気が、止まる。
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「信用圏は分散を掲げる」
「中央を否定した」
「ならば、なぜ選別するのですか」
ユーリが息を詰める。
カイルが動こうとするのを、私は止めた。
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「契約に基づきます」
私は静かに答える。
「基準を満たさなかった」
「基準は、誰が決めたのですか」
「加盟者全体です」
「南東は参加を拒まれた」
沈黙。
事実だ。
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「あなた方は、中央を壊した」
リアは続ける。
「だが新しい中央になった」
ざわめきが広がる。
「選ばれた者だけが守られる」
「それは、国家と何が違うのですか」
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私は、しばらく答えなかった。
市場は数字で動く。
だが世界は、物語で動く。
リアの言葉は、物語だ。
「違いは、選択です」
私は言う。
「南東は基準を満たせなかった」
「ならば、支援すべきだった」
彼女の声が、初めて揺れる。
「失敗を見捨てるのが、分散ですか」
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沈黙。
カイルが小さく呟く。
「救済は、道徳だ」
リアが即座に返す。
「信用は、人のための制度でしょう」
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夜。
討論は終わった。
結論は出ない。
だが疑問は残った。
(分散は、冷たいのか)
私は、倉庫の前に立つ。
守られた信用。
守られなかった信用。
契約は公平だ。
だが公平は、必ずしも優しくない。
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ユーリが言う。
「彼女は正しいのですか」
「正しい」
私は答える。
「だが、それだけでは制度は持たない」
風が冷たい。
中央を壊した。
だが今、
“救済”という名の中央が
影を落としている。
信用は選択。
だが――
選ばれなかった者は、
どこへ行く。
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