第46話 最後の責任
再設計案は、夜明け前にまとまった。
「名称は?」
ユーリが、静かに尋ねる。
「清算機構」
私は、短く答える。
「信用圏共同清算機構」
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会議室。
商人、北方同盟代表、ヴァルハイム使節。
全員が揃う。
「制度を変更します」
ざわめき。
「最後の責任を、明確にする」
私は、資料を広げた。
「信用証書の一定割合を、共同準備金として積み立てます」
「強制ですか?」
商人が問う。
「参加条件です」
沈黙。
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ソフィアが、目を細める。
「共同責任ですか」
「ええ」
「具体的には?」
「不況時、連鎖損失が発生した場合、
この準備金から優先清算します」
「不足した場合は?」
「加盟比率に応じて追加拠出」
会議室が、静まる。
それは――
国家の徴税に似ている。
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「強制力は?」
ソフィアが問う。
「契約違反は、除外」
「除外で済みますか」
「信用を失います」
沈黙。
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ヘンリクが、低く言う。
「我々は拠出する」
「理由は?」
「安定は、退屈だが強い」
ヴァルハイムのエレナも続く。
「海は、沈まない方がいい」
商人代表は、迷う。
「負担が増えます」
「ええ」
私は、正面から言う。
「信用は、安くありません」
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王都中央銀行。
「信用圏が、共同準備金制度を導入」
側近が報告する。
ダミアンは、ゆっくりと息を吐いた。
「税を持たぬ国家か」
「国家ではありません」
「だが、近づいた」
彼は、静かに目を閉じる。
「これで、崩れにくくなった」
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辺境伯領。
ユーリが、小さく言う。
「……国家に似ています」
「似ています」
私は、認める。
「だが違います」
「どこが」
「選択です」
徴税ではない。
契約だ。
嫌なら、出られる。
だが出れば、信用は消える。
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夜。
私は、一人で考える。
(これで、制度は私を超えるか)
清算機構は、私がいなくても動く。
準備金は、透明だ。
だが代償はある。
信用圏は、軽さを失った。
軽やかな契約から、
重い共同体へ。
窓の外、灯りが揺れる。
「進化は、負担を伴う」
私は、静かに帳簿を閉じた。
通貨戦は、次の段階へ。
信用は、ついに“最後の責任”を持った。




