第44話 債務という鎖
王都は、金を減らした。
だが――崩れなかった。
代わりに、発行された。
【王都再建国債 第一期】
利回りは高い。
安全保証は国家。
市場は、静かにざわついた。
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「……国債ですか」
ユーリが、報告書を握る。
「金準備の代わりに、未来を売る」
「ええ」
私は、資料を読む。
「債務は、通貨より重い」
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王都中央銀行。
ダミアンは、淡々と説明していた。
「金は有限だ」
「だが信用は拡張できる」
「国家の信用を、再提示する」
「海運国家と北方同盟に、優先購入枠を提示」
側近が頷く。
「囲い込みですね」
「鎖だ」
彼は静かに言った。
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ヴァルハイム王国。
「国債の利回りは魅力的です」
冷静な声が会議室に響く。
ソフィア・レヴァイン。
国債アナリスト。
「王都が破綻する可能性は低い」
「国家は徴税権を持つ」
エレナが腕を組む。
「信用圏は?」
「税を持たない」
沈黙。
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辺境伯領。
ソフィアは、招かれて来た。
「信用証書は、契約です」
彼女は静かに言う。
「だが最後の清算者は誰ですか?」
ユーリが言葉を失う。
「国家が破綻すれば、税で回収する」
「信用圏は?」
私は、数秒沈黙した。
「……加盟者全体」
「強制力は?」
「ない」
彼女は、淡々と続ける。
「では、不況時に誰が損失を負う?」
沈黙。
初めて、即答できなかった。
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王都国債は、売れ始めた。
北方同盟も一部購入。
ヴァルハイムも分散投資。
信用圏から、わずかに資金が流出する。
「……減っています」
ユーリの声が、硬い。
流通量が、初めて微減。
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夜。
私は、一人で帳簿を見る。
信用は選択。
だが選択は、逃げる。
「国家は、最後に回収できる」
ソフィアの言葉が残る。
(我々は?)
制度は、拡大している。
だが責任の所在は、曖昧だ。
それが、弱点。
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王都中央銀行。
「信用圏の流通量が、減少」
側近が報告する。
ダミアンは、静かに目を閉じた。
「債務は、国家の特権だ」
「勝てますか」
「勝敗ではない」
彼は、低く言う。
「持久戦だ」
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辺境伯領。
私は、窓を開ける。
冷たい夜気。
(制度は、私を超えられるか)
信用は、積むもの。
だが債務は、背負わせるもの。
どちらが、重い。
私は、初めて迷った。
通貨戦は、終わらない。
戦場は――
未来へ移った。




